“働き過ぎる文化”にメスを ZoomやTeamsが「仕事から離れる」機能を加えた訳:「仕事から離れる権利」を尊重するには【中編】
ITベンダーは「従業員の燃え尽き症候群」の解決に向けた機能拡充に取り組んでいる。一方で専門家は「過重労働を是とする企業文化やマインドセットの問題は、ITツールだけでは解決できない」と警鐘を鳴らす。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)をきっかけに、就業時間外のメールやチャットの連絡が従業員の「燃え尽き症候群」を引き起こし、離職リスクに影響を及ぼしている。こうした状況を受けて、ITベンダー各社は、従業員の心身の健康を守り、離職リスクを下げるための新機能を提供し始めている。前編「『コロナ禍前よりも精神的に疲れた』人が8割 “いつでも連絡できる”の弊害か」に続き、中編となる本稿は、コミュニケーションツールベンダーの動向を紹介する。
Cisco Systems、Slack Technologies、Zoom Video Communicationsは、Web会議の頻度を抑える対策としてビデオメッセージ機能を2021年に追加した。ビデオメッセージを残しておけば、受信者は自分の都合のいい時に情報を確認できるようになる。
Teamsも「仕事とプライベートの切り替え」を促す機能を拡充
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課題視される“Web会議疲れ”
Microsoftが2021年3月に公開した調査結果(フルタイム従業員と自営業者の計3万1092人が回答)によれば、ユニファイドコミュニケーション(UC)システム「Microsoft Teams」の平均的なユーザーが就業時間外に送信したチャットメッセージの数は、昨年度の同種の調査から42%増加していた。そこで同社はMicrosoft Teamsがメンタルヘルスに影響を及ぼす可能性を考え、イントラネットのような従業員コミュニケーションシステムである「Microsoft Viva」に、仕事から離れて休息を取ることを支援するウェルネス機能を追加した。
「テレワークの拡大で働き方を選びやすくなったのは良いことだが、そこにはウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)に関する課題もある。従業員がオーバーワークで過労に陥っていることを示す調査結果もあった」。MicrosoftでMicrosoft Vivaのプロダクトマーケティング担当シニアディレクターを務めるスニタ・カトリ氏はこう話す。
Microsoft Vivaのバーチャル通勤機能は、就業時間と私生活を明確に分けて、緊張を解くことを促す。終業時刻になったらMicrosoft Vivaを立ち上げ、完了したタスクを確認し、翌日の計画を立て、仕事を締めくくるための瞑想(めいそう)セッションを実行できる。
メールクライアント「Outlook」にはメール送信時刻を選択して予約送信する機能がある。従業員も管理職も、就業時間後にメールを送るときは送信時刻を翌日に指定しておくことで、すぐの返信を要求しないで済む。今後はMicrosoft Teamsのチャットや他のコミュニケーション形式にも同様に予約機能を追加する可能性がある、とカトリ氏は話す。
「過重労働を是とする文化」にメスを入れる必要も
ライアソン大学(Ryerson University)教授でデジタルワークプレース専門家のオペイェミ・アカンビ氏は「ITだけでは問題を解決できない」と指摘する。従業員にはプライベートな時間が必要であることを、雇用者が認識する必要があるという。
「多くのナレッジワーカーが、自分のアイデンティティーと仕事を切り離せなくなっている。このような人は、『仕事は仕事』と割り切る人よりも長時間働く傾向がある」とアカンビ氏は語る。過重労働が企業文化の一部になっていたら、仕事から離れる権利を認める法律は役に立たない、と同氏は警告する。
英国のエンジニアと科学者の労働組合Prospectでリサーチディレクターを務めるアンドリュー・ペイクス氏は「『従業員は常時待機しておくべき』と考える風潮を変えるためには、『適度な休息は、仕事と同じくらい重要である』ということを企業が従業員に示す必要がある」と語る。緊急のメールでない限り、終業時間以降は返信しないことを管理職が従業員に奨励する必要がある、とペイクス氏は考えている。
「燃え尽き症候群を防ぐには、ITツールよりも適切な仕事文化が重要だ。オフィスにひどい上司がいるなら、Web会議の場にもひどい上司がいる」(ペイクス氏)
後編は従業員の生産性監視ツールに関する問題を取り上げる。
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