検索
特集/連載

量子コンピュータの開発段階は「まだ1940年代レベル」気軽に使える日は来るのか

世界中で量子コンピューティングの研究が進められている。クラウド利用も不可能ではなくなった。だが古典コンピュータの開発史に当てはめてみると、まだ1940年代のレベルだという。どういう意味なのか。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

 ドイツとオーストラリア(訳注:オーストリアではない)を拠点とする量子コンピューティングハードウェアメーカーQuantum Brillianceは、フラウンホーファー応用固体物理研究所と共同研究している。この共同研究の目的は、量子マイクロプロセッサを作るための原子レベルの技術開発だ。

 複数のプロセッサノードを備える量子コンピュータで選択的に量子ビットを初期化、読み取り、操作する新たな手法も調査する。チームはこの課題の解決が量子コンピューティングを大規模に商用化する道を開く重要なマイルストーンになると考えている。

量子コンピュータが1940年代のレベルとは?

Enigma
Enigma(iStock.com/Ricky Deacon)

 IBMも量子コンピュータでシミュレーションするための取り組みを幾つか発表している。IBMのアンドリュー・エディンズ氏(エンタングルメント[量子もつれ]鍛造の概念を示す論文の筆頭執筆者)は言う。「他の方法よりも多くのケースで大規模に実行できるであろう手法を実証した。エンタングルメント鍛造は能力を倍増する方法であり、古典的なコンピューティングリソースを量子の問題に耐えられるようにする効率的な方法を提供する。これによって量子ビットが事実上2倍に増える。これは実に注目に値する」

 Universal Quantumのウィンフリード・ヘンシンガー氏(チーフサイエンティスト)は本誌のインタビューに答えて、こうした技法は量子コンピューティングの開発をやや前進させるものの、その開発段階は1940年代のコンピュータと同程度だと話した。

 例えば第2次世界大戦中、世界初のプログラム可能なコンピュータ「Colossus(コロッサス)」を使ってドイツの暗号機「Enigma(エニグマ)」のコード解読を自動化した。しかし、最初の商用コンピュータ「LEO」(Lyons Electronic Office)が稼働したのは1951年だった。今日のように、複雑なハードウェアで実行される非常に高度なアルゴリズムに比較的シンプルなAPIでアクセスできるようになるまでに多くの年月を必要とした。

 量子コンピューティングは、誤り訂正が制限要因となる段階にある。現在の量子コンピューティングは、「ノイズが多い」中規模量子時代(NISQ:Noisy intermediate scale quantum)にあり、膨大な量の誤り訂正が必要だ。Quantum Motionのジョン・モートン氏(創設者でユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのナノエレクトロニクス教授)は、「誤り訂正を使わなければ深度が浅くなる」と言う。

 これは量子ゲートが少ないことを意味する。結果として、誤り訂正なしで構築できるアプリケーションは「非常に限定的になる」とモートン氏は話す。同氏は、量子アルゴリズムで使用できる論理量子ビットと物理量子ビットの比率は1000対1になると推定する。つまり、1論理量子ビットに1000物理量子ビットが必要になる。

 IBMの1121量子ビットの量子プロセッサ「Condor」は2023年までデビューしないことを考えると、同社のエンタングルメント鍛造は量子コンピューティングの方向性の一つを示している。

 本誌が量子コンピューティング分野の専門家に聞いた話によると、量子コンピュータに最適なアルゴリズムを作成するためには、量子力学の専門家と量子コンピュータアーキテクチャの細部を理解している人々がプログラマーを支援しなければならないレベルにあるという。

 従来型アーキテクチャでは実行不可能なアルゴリズムを量子コンピュータが実行できることを量子優位性という。モートン氏は、量子優位性を示す最近の例の幾つかは18世紀後半の「機械仕掛けのトルコ人」(訳注)に似ていると言う。機械仕掛けのトルコ人は、自律的に考えてチェスをプレイすると観客を欺くものだった。

 だとしても、量子コンピューティングは世界で最も複雑な問題の幾つかに取り組むための計算力を科学者に提供する可能性がある。

訳注:ウォルフガング・フォン・ケンペレンがオーストリア大公兼ハンガリーおよびボヘミア女王マリア・テレジアのために作成した、チェスを指す人形。1854年焼失。ベンジャミン・フランクリン、フランス皇帝ナポレオン1世、ロシア皇帝エカチェリーナ2世にも勝利したが、実際には中で人が操作していた。「Amazon Mechanical Turk」の語源でもある。



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る