「医療DXの意欲があっても予算がない」問題を解決する「WPfW」とは?:NHSの医療DXガイドライン【中編】
英国では医療機関のIT化に向けた資金調達プロセスが複雑で、入札手順や財源が不明瞭なことがDXの阻害要因となっていた。改善に向けて英国NHSが公開した提言書「Who pays for what」(WPfW)とは、どのようなものか。
前編「医療DXのガイドライン『WGLL framework』とは? 英国NHSが定義」は、英国の国民保健サービス(NHS:National Health Service)のデジタル推進部門であるNSHXが策定した「What Good Looks Like framework」(以下、WGLL framework)の概略を解説した。WGLL frameworkはNHSのベストプラクティスに基づく、医療機関のIT活用を推進する際の指針となる資料だ。
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)のさなか、われわれはITに多大な恩恵を受けている。NHSは特にそうだ」。英国保健・社会ケア大臣サジド・ジャビド氏はこう語り、ITは空き病床を確保しやすくし、臨床医の遠隔診療を可能にしたと主張する。
医療DXの資金調達を容易にする「WPfW」とは
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長期的に見れば、ITはCOVID-19以外の健康問題を解決する上で重要な存在になるというのが、ジャビド氏の見方だ。WGLL frameworkは、NHSトラスト(NHS傘下の病院運営組織。地域ごとに独立した公営病院)のデジタルトランスフォーメーション(DX)を促進し、ケアを改善し、命を救う方法について「明確な指針を与えている」と同氏は語る。
WGLL frameworkに基づいて、NHS傘下の医療機関は統合ケアシステム(ICS:Integrated Care System。注1)の関連組織と共に、定期的な振り返りと改善に取り組んでいる。WGLL frameworkは「現実とのギャップ解消や地域の発展のために、優先すべき分野を特定するための手段」という位置付けだ。医療機関は評価を繰り返し実施し、前年比で進捗(しんちょく)を追跡する。
※注1:地域住民への医療と福祉サービスを提供する組織(NHS傘下の医療機関、地方自治体、ベンダーなど)が、サービス提供体制の改善を目指して締結しているパートナーシップ。および、包括的なサービス提供体制のこと。地域ごとの統括組織となる統合ケア委員会(Integrated Care Board:ICB)は、本稿公開時点で英国全土に42件存在する。
NHSXは、IT投資に関して医療機関が直面する障壁を特定して克服し、プロジェクトへの資金調達を最適化しようとしている。NHSXが公開した「Who pays for what」(以下、WPfW)は、今後の取り組みをまとめた提言書だ。例えば入札を容易にするために、既存の幾つかの資金調達手段を1つにまとめて、国家的な単一の申請プロセスに集約する――といった計画がWPfWに挙がっている。
現状、英国全土にどのような予算が支給されているのか、その財源はどこから来ているのか、各地域のNHS予算をどのようにDXに集中させるのか――といったさまざまなことが不透明になっている。その理由は「資本投資と収益の因果関係が認識できていないことも含め、『予算と収益の組み合わせ』に間違いがある」ことだとWPfWは論じている。適切なIT投資ができていないことは「ITがユーティリティーとして消費され、管理されるようになるにつれ、ますます深刻化する問題だ」とWPfWは説明する。
英国政府は、DXプロジェクト向けの国内財源を1つに統合することと、ICSがオンラインポータルを通じて入札できる仕組みの構築を目指している。ならびに政府は、投資対効果検討書に何を含めるかについてのガイダンスを入札者向けに実施し、承認プロセスとともに入札の進捗に関する十分な情報提供をする意向を示している。
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