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Wi-Fi 6/6Eは成功か失敗か、Wi-Fi 7を待つべきか否か、対立する主張ならばWi-Fi 7を待とう

WBAのロドリゲス氏は、Wi-Fi 6/6Eの導入は順調だと言う。Dell'Oro Groupのデローロ氏は、Wi-Fi 6/6Eは失速していると言う。両者の主張の理由を詳しく紹介する。

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 2018年に承認された「Wi-Fi 6」は、2022年には広く普及しているというのが大方の見方だった。だがWi-Fi市場はやや混乱しているように見える。

 Wi-Fi 6は、高速ワイヤレス接続のニーズに応えるという目的があった。ブロードバンドを集中的に利用するアプリケーションの要求を満たし、テレワークの生産性を高める上でもWi-Fi 6は欠かせない。

 Wi-Fi 6と「Wi-Fi 6E」はこうしたニーズを満足させるはずだった。だが順調とは言えない。「Wi-Fi 7」を待つユーザーもおり、採用に停滞の兆しが見られる。Wi-Fi 7が企業向け市場に投入されるにはまだしばらく時間がかかるにもかかわらずだ。

 特に注目すべきは、ワイヤレス接続の重要性が高まっているのにこうした事態が起きていることと、Wi-Fi 6が数年前に承認された標準であるという点だ。

Wi-Fi 6とWi-Fi 6Eには十分な勢いがある


iStock.com/falconer

 Wireless Broadband Alliance(WBA)のティアゴ・ロドリゲス氏(CEO)は、Wi-Fi 6の導入が進んでいないという指摘は全く的外れだと言う。「Wi-Fi 6とWi-Fi 6Eについては非常に前向きに捉えている。どちらも十分な勢いがある」

 ロドリゲス氏は、Wi-Fi機器の導入が増え、特に顧客の59%はWi-Fiの実装を改善しているとするComcastの調査を引用する。「全てがWi-Fi 6ではないとしても、企業のWi-Fi 6導入は増えている。特にコンベンションセンター、ホテル、競技場などでは増加している」

 製品展開を始めるメーカーもあり、Wi-Fi 6Eも確実に広がり始めているとロドリゲス氏は付け加える。

部品調達の制約

 Wi-Fi 6にとって部品の調達が大きな懸念点であり、これが障害になるとDell'Oro Groupは主張する。同社のCEOタム・デローロ氏が指摘するのは、多くのネットワーク機器メーカーにおいて、全てではないがほとんどの製品で部品の調達に問題があることだ。「各メーカーの上級管理職は、部品調達の制約によって2022年後半は出荷数が制限されると推測している」

 理由の一つは労働力の流動性だ。多くの製造工場が人手不足に苦しんでいる。この状況はすぐに変わるものではない。「世界最高峰の経済専門家の予測によると、必要な条件を備えた労働者がコロナ禍前のレベルに戻るのは2023年末になるという。先進経済諸国ならば優れた医療を享受できる。だが発展途上国ではそうはいかない。そして製造の多くは発展途上国で行われている。港湾スタッフにもコロナ禍の影響が及んでおり、船から積荷を降ろす人員も減っている」

 話はそれだけではない。コロナ禍は他の形でもWi-Fi 6の展開に影響を及ぼしている。テレワークが広がる中で、企業はテレワーカーをサポートするためにシステム全体の設計を見直さざるを得なくなっている。

 この状況はワイヤレス技術のアップグレードニーズを高めるはずだ。だがそれほど単純ではないとデローロ氏は説明する。「分散する従業員をサポートするためにネットワークアーキテクチャを変えなければならないことは企業も分かっている。そのためにはテレワーカーが社内ネットワークに接続する際のセキュリティも強化しなければならない」

ニッチな製品

 とはいえ、こうしたニーズは非常に強い。数社のネットワーク機器メーカーの幹部は、人気が高い製品を市場に素早く投入するため、入手性が高い部品を使うように製品の設計を見直すと語る。その自然な成り行きとして、「人気のないニッチな製品は部品調達の制約の影響を強く受ける可能性がある」とデローロ氏は指摘する。つまりメーカーは既に利用可能な製品への取り組みを重視し、新しい技術は後回しにするだろう。

 WBAのロドリゲス氏はその点に懐疑的だ。「デローロ氏のレポートが指摘する部品調達の課題は把握している。だがそれがWi-Fi 6/6Eの導入に影響しているという証拠は手元にはない」と同氏は語り、Türk Telekomなどが小規模Wi-Fi 6Eプロジェクトを試験運用していることを挙げる。

 周波数帯が開放されることでWi-Fi 6Eの展開が加速することをロドリゲス氏は期待しているという。

 ただし、幾つか乗り越えなければならない問題がある。ロドリゲス氏は、米国に比べてヨーロッパでの展開が進んでいないことを認める。ヨーロッパには、周波数帯を開放することに乗り気ではない政府機関が多い。

 ヨーロッパには2つの問題があるとロドリゲス氏は指摘する。「一つは、公益事業や鉄道会社など、さまざまな団体が周波数帯を利用していること。もう一つは、米国以上にモバイル中心であり、モバイル業界に開放された周波数帯を利用するように推し進めてきたことだ」

 既存のユーザーを取り残さないようにしながら、ワイヤレスプロバイダーが周波数帯をフル活用する余地も残すという繊細なバランスが必要だとロドリゲス氏は説明する。「ヨーロッパがWi-Fiで後れを取らないように、WBAは規制当局と連携している」

 しかし、米国でさえ順調には進んでいないとデローロ氏は指摘する。「開放された周波数帯のデプロイは、カメラやセンサーを搭載するスマート街路灯、配電網の管理、長距離電話システムなどの分野にとどまっている」

 デローロ氏によると、Wi-Fi 6Eをデプロイして政府規制に準拠するプロセスがまだ円滑ではないため、長距離電話システムへの展開は特に難航しているという。「Wi-Fi 6Eの信号を屋外で送信するには、自動周波数制御システムによる管理が必要だ」

解決すべき周波数帯の問題

 周波数帯については解決すべき問題が残っていることをロドリゲス氏は認めている。だが、全ては正しい方向に進んでいると同氏は言う。

 世界は変わり続け、より高速なワイヤレスブロードバンドを求めるニーズに応える必要性が増しているとロドリゲス氏は語る。根本的な問題は、先進的なデータサービスが人々の働き方にどのような影響を与えるかだ。「ブロードバンドや拡張現実/仮想現実といった先進的なサービスは、既に人々の生活に影響を及ぼしている。コロナ禍もWi-Fiの重要性を高めている」と同氏は話す。

インテグレーターは待ちの一手

 Wi-Fi 6Eは前進していると主張するロドリゲス氏に対し、デローロ氏は2021年末に交わした会話を根拠にそれは失速していると考えている。「2021年第4四半期に複数のシステムインテグレーターに話を聞いたところ、顧客からWi-Fi 6EではなくWi-Fi 6を要求されていると答えた」(デローロ氏)

 「これは驚くことではない。Wi-Fi 6Eは時期尚早であり、企業用途のWi-Fi 6Eアクセスポイントをリリースするメーカーはほとんどないのだから」

 Wi-Fi 6EアクセスポイントはWi-Fi 6や「Wi-Fi 5」のそれよりも部品がはるかに多いという問題もあるとデローロ氏は指摘する。部品調達の制約も考慮すると、Wi-Fi 6Eを導入する方向に進むことには非常に慎重になるとデローロ氏は考えている。同氏が指摘するように、一般消費者向けWi-Fi 7製品が早くも出荷されつつある状況では特にだ。

 「企業向けのWi-Fi 7アクセスポイントは2023年第4四半期までには出荷される見込みだと業界関係者から聞いている」(デローロ氏)

 ロドリゲス氏が認識する状況は異なる。「Wi-Fi 7を待ち続けるユーザーが多いという話は疑わしい。Wi-Fi 7製品の登場を待つ技術に詳しいユーザーはいるかもしれない。だが、大半のユーザーはその時点で販売されている製品を購入するだろう」

 高速な技術が求められているのは間違いない。Wi-Fi 7製品を待つ企業があるとしても、いずれ近いうちにより堅牢(けんろう)な接続が必要になるのでロドリゲス氏の考えが恐らく正しいだろう。だが、デローロ氏が指摘する調達難は間違いなく生じている。さらには、利用可能な周波数帯を巡ってさまざまな団体が競うヨーロッパの状況もある。

 デローロ氏が指摘するように、米国でさえ利用できる周波数帯を見つけるのは必ずしも容易ではない。

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