ベトナムを救ったアルゴリズムがネパールでも活躍 データ分析“驚きの汎用力”:大学が取り組む「SDGs達成のためのデータ分析」【後編】
「ある国でデータ分析を活用して社会課題を解決すると、その解決法を他国の課題にも応用できる」と専門家は語る。その理由は。
データ分析を活用して社会課題を解決する手法には汎用(はんよう)性がある――。ディック・デン・ヘルトフ氏はこう説明する。ヘルトフ氏はデータ分析を活用して、国際連合(国連)が定める「SDGs」(持続可能な開発目標)の達成支援を目指す非営利団体Analytics for a Better World Institute(以下、ABW Institute)の設立者だ。アムステルダム大学(UvA:University of Amsterdam)のオペレーションズリサーチ(計画に対して最も効率的な選択を導き出す手法)分野の教授でもある。
データ分析が秘めた“驚きの汎用力”とは
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「全く別の問題だと考えていたものが、分析の観点では非常に類似していることがある」とヘルトフ氏は語る。現実世界には、人間が処理し切れないほど高い自由度がある。こうした中で最適な解決策を見極めるためには「高性能なアルゴリズムと数理モデルが必要になる」と同氏は主張する。
ABW Instituteは、東ティモール民主共和国のインフラを整備するためのプロジェクトを進めており、世界銀行からそのための融資を受けている。インフラ整備の目標は、東ティモール国民全員が医療サービスを受けられるようにするために、医療機関を開設することだ。
SDGsが掲げる目標の一つに「あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進すること」がある。その達成指標としてABW Instituteは「世界人口の95%以上について、近隣に利用可能な医療機関がある状態を実現すること」を掲げている。
このプロジェクトでABW Instituteは、アルゴリズムを使用して主に2つの問題を分析している。1つ目は、SDGsで定められた目標を既に達成している世界人口の割合の算出。2つ目は、95%という目標値を理想的な形で達成するために、医療機関を新たに設置すべき場所の特定だ。
ヘルトフ氏は「世界には類似する問題が幾つもある」と指摘する。東ティモール民主共和国の事例に近しい例として挙げるのは、ベトナムの脳卒中治療センターの例だ。ベトナムには脳卒中治療センターが複数あるが、その数はまだ十分とは言い難い。ベトナム国民が最大限の恩恵を受けられるようにするために、新しい脳卒中治療センターをどこに建てればよいのか――。「データサイエンスは、このような問題を解決するのに役立つ」と同氏は話す。例えばネパールでワクチン接種センターの開設場所を検討する際にも、東ティモール民主共和国やベトナムで問題を解決したときと同じアルゴリズムが適用できる。
必ずしも全ての問題で解決策を共有できるとは限らない。問題解決のために専用システムの開発が必要になる場合もある。だが「汎用的なシステムを開発できる可能性があるときには、そのためにあらゆる手を尽くす」とヘルトフ氏は話す。全てのシステム開発にはオープンソースソフトウェア(OSS)を活用し、誰でも無料で使えるようにパブリックリポジトリに成果物を格納しているという。
ABW Instituteの目標について「2027年までには国連が定めるSDGsの50%程度に大きな貢献を果たし、約10件の大規模NGOや政府機関、人道支援団体とつながりを構築できている状況を目指す」とヘルトフ氏は話す。「さまざまな組織にデータ分析を根付かせて、より大きな影響力を生み出すために、ABW Institutionは関係各所との長期的な連携を進める」(同氏)
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