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「オープンソースのAIモデル」は使えたのか? 英鉄道会社が“生態系”を分析生物多様性にAIはどう役立つか【後編】

英国の鉄道事業者とロンドン動物学会は人工知能(AI)技術を活用した生物多様性の改善に取り組んでいる。AI技術を活用するにはデータと機械学習モデルが必要だ。どう用意したのか。

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 英国の鉄道事業者Network Railとロンドン動物学会は、生物多様性の改善に取り組んでいる。Network Railはまず、自社の鉄道網における野生動物と人間の活動をモニタリングするためにネットワークカメラや音響センサーなどでデータを収集した。データを解析する機械学習モデルはどのように用意したのか。集めたデータはどのように生物多様性の改善につながるのか。

Network Railが最初に取り組んだこととは

 Network Railが取り組んだのは、音声から生物を特定し、生息地をマッピングする作業だ。同社は集めたデータをまずはユーザースペースファイルシステム「Cloud Storage File System in User Space」(FUSE)に投入した。FUSEは本来なら特権ユーザーしかファイルにアクセスできないシステムにおいて、一般ユーザーでもファイルにアクセスできるようにするための仕組みだ。これにより、研究チームのメンバーが音声ファイルを自由に利用できるようになった。

 次に、各センサーで集めたデータを、Googleの機械学習モデル構築支援ツール「Vertex AI」を利用して解析した。解析に当たっては、ソースコード共有サービス「GitHub」に公開されている、以下の学習済みモデルを利用して解析した。

  • BirdNet:主に鳥類の鳴き声を検出するためのモデル
  • BatDetect:コウモリの鳴き声を検出するためのモデル
  • CityNet:生物の音と人為的な音を分別するモデル

 集めたデータを各モデルで解析することで、鳥とコウモリの音を特定できた。次のステップとして、Network Railは生息地を調べるために、クラウドサービス群「Google Cloud Platform」(GCP)のデータウェアハウス(DWH)「BigQuery」にデータを集約した。BigQueryの機能を利用することで、位置情報ごとに各音が発生した頻度や傾向などを計算できる。計算結果はGoogleのBIツール「Looker Studio」を用いて、グラフ形式で視覚化した。

 この一連のプロセスにより、Network Railは自社の沿線付近の生態系を特定できた。鉄道が都市や集約農業地における野生生物の保護区域のとしての役割を果たす他、寸断された生態系を結び付けたり、種の移動を支援したりすることもあり得る。逆に、線路によって生息地が分断されることで、特定の種が新しい地域に広がる「種の拡散」を阻む役割を果たす可能性もあるという。

 「注意深いモニタリングと管理により、鉄道網は野生生物の保護や回復に貢献できる可能性がある」とロンドン動物学会でテクノロジーリードを務めるアンソニー・ダン氏と、Googleのクラウドサービス部門Google Cloudでロンドン動物学会との提携を担当するオメル・マフムード氏は語る。

 今後の動きについてロンドン動物学会によれば、今回のプロジェクト中に開発された手法とツールを利用して、Network Railが沿線の生物多様性に与える影響をモニタリングして、改善する計画があるとしている。

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