「生成AIは学生を駄目にする」のか? 英教育界が考える生成AIとの健全な付き合い方:生成AIは高等教育の流れを変えるか【前編】
英国の教育界では、生成AIが登場して以来賛否を巡って議論が巻き起こっている。イーストアングリア大学のIT責任者は、生成AIが高等教育にもたらすリスクとメリットをどう考えているのか。
高等教育の世界は、技術の進歩によって大きな変革期を迎えている。新技術の中でも、エンドユーザーの指示を基にテキストや画像、音声などのデータを生成するAI(人工知能)技術の「生成AI」は、教員の教え方と学生の学び方を大きく変える存在だ。生成AIは、作品を作り出し、人間の創造性を模倣し、さまざまな作業をこなすことができる。生成AIは高等教育に革命をもたらし、状況を一変させる可能性を秘めている。
OpenAIのAIチャットbot(AI技術を活用したチャットbot)「ChatGPT」は2022年11月に登場し、公開から数日で100万人以上のユーザーを獲得した。しかし高等教育の現場では、まだChatGPTのような生成AIツールの受け入れ態勢は整っていない。
高等教育機関が抱いている「生成AIへの懸念」とは
筆者はイーストアングリア大学(University of East Anglia)の学習指導委員会(Learning and Teaching Committee)で、デジタル&データ部門のディレクターを務める。このような立場から、必然的に新技術の危険性や優位性に大きな関心を抱くようになり、同僚や高等教育の同業者とさまざまな議論を交わしている。
ChatGPTが登場した当初、英国の高等教育の同業者は、「学生がChatGPTのような生成AIを使うと、コミュニケーションスキルや知識の習得に必要な作業をせずにレポートを生成するようになるのではないか」という懸念を抱いていた。
英国の高等教育界には、レポートの盗用・盗作を発見するためのツールが既に広く普及している。こうした技術は、学生がレポートの作成に生成AIを使用した形跡があるかどうかを発見するのにも役立つ。ただしイーストアングリア大学における筆者の経験に基づくと、盗用チェックツールを生成AIの検出に使用する場合、誤検出のリスクがある。
幸いなことに、英国の名門大学24校で構成される団体「Russell Group」のリーダーは合理的な考え方を持っていた。Russell Groupは2023年7月に、高等教育におけるAI技術利用について、以下5つの原則を発表した。
- 大学は、学生や教員がAIリテラシーを身に付けられるよう支援する
- 教員は、学生が学習時に生成AIを効果的かつ適切に使用できるよう、支援する方法を身に付ける
- 大学は、教育方法と評価方法を整備し、生成AIの倫理的かつ平等な利用を支援する
- 大学は、学問の厳格さと倫理観を維持できるようにする
- 大学は、新技術とその教育への応用が進展するのに合わせ、最適な利用方法を互いに共有できるように協力し合う
生成AI活用の前途は有望?
学生が生成AIを利用することで、より良い学習やキャリア形成の機会を手に入れるチャンスが広がることは明らかだ。高等教育界は、学生が生成AIの効果的な活用方法を見つけることを支援し、学生が生成AIを利用して学習の質を高めたり、将来の仕事や研究のために生産性と創造性を高める使い方を習得したりすることを奨励すべきだ。
既に検討が進んでいる活用方法の幾つかは、高等教育で実現できる可能性がある。例えば生成AIを使って難しい概念を別の表現に言い換えたり、英語が母国語ではない学生の通訳をしたりすることが可能だ。こうした使い方は、学生が高等教育を受ける際の障壁を減らすことにつながる。具体的な活用例は以下の通りだ。
- 学生ごとに個別最適化した学習プランの作成
- 情報の集約
- アイデアの創造
- 研究者を支援するための膨大なテキストの要約
高等教育における指導方法や評価方法についても、生成AIの活用の可能性は広がっている。その一例が自動採点ツールだ。学生の書いたレポートを採点し、その出来栄えについての感想や改善点も提示できる。これを利用すれば教員は評価のための時間を短縮でき、評価の一貫性を保つこともできる。
後編は、大学生、教員、学校職員、それぞれの立場から考える「生成AIへの期待」について解説する。
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