「データガバナンスは大きな喜び」 トムソン・ロイター経営幹部インタビュー:トムソン・ロイターが考える倫理的なAI活用【前編】
Thomson Reutersでデータガバナンスを管轄する経営幹部のカーター・クシノー氏は、自身の経歴を生かして「倫理的なデータ活用」のポリシーを構築することに大きな喜びを抱いていると語る。その内容とは。
2023年は大波乱の年だった。AI(人工知能)ベンダーOpenAIのAIチャットbot(AI技術を活用したチャットbot)「ChatGPT」が2022年後半に登場したことを皮切りに、さまざまなベンダーが「生成AI」(ジェネレーティブAI)を次々に公開した。生成AIは、エンドユーザーの指示を基にテキストや画像、音声などのデータを生成するAI技術だ。機械学習やデータ分析は一般的な技術になりつつあり、企業における業務はこうした技術にますます依存するようになっている。自社のデータ資産をしっかりと把握していない企業は、こうしたトレンドから取り残されるリスクがある。
企業によっては、技術トレンドに追随し、収益を上げるために、AI技術やアルゴリズムの要件を管理できる経営幹部を雇用している。そうした企業の一つが、経済や金融などさまざまな分野で情報サービスを提供するThomson Reutersだ。同社でデータおよびモデルガバナンス担当バイスプレジデントを務めるカーター・クシノー氏に、入社の経緯や、同社で担当する役割、同社が目指すIT戦略について話を聞いた。
「データを適切に扱う文化」を築く喜び
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クシノー氏がThomson Reutersに入社したのは2021年9月だ。同氏はグエルフ大学(University of Guelph)付属の研究機関Center for Advancing Responsible and Ethical Artificial Intelligenceをはじめ、民間企業から公共機関まで幅広い組織に所属した経歴を持つ。非営利団体、IT系スタートアップ(創業間もない企業)、中小企業、大企業など、関与した組織の種類や規模はさまざまだ。
人とコンピュータの相互作用や信頼できるAI技術など、クシノー氏の研究対象は多岐にわたる。同氏はThomson Reutersだけではなく、より広い範囲にわたって、データの使用に関する安全性とセキュリティを確保する方法の開発を目指している。特にITに関して、倫理的かつ責任のある方法で物事を処理することに大きな情熱を注いでいるという。
「どのような組織でも、データやモデルは複雑になるものだ」とクシノー氏は語る。同氏はデータやモデルの扱いに際して、「責任のある使い方や倫理的に適切な管理ができないはずはない」との見解を示す。「だからこそわれわれは、当社の各チームと緊密に連携して、データやモデルの適切な管理に取り組んでいる」(同氏)
クシノー氏がThomson Reutersに魅力を感じたのは、同社では企業のビジネスチャンスと研究の課題が一体となっている点だった。同社は大手グローバル企業であると同時に、研究に力を入れるラボも備えている。研究や開発への取り組みが根付いている企業だったからこそ「こうした組織の一員になりたい」と同氏は考えたという。
「Thomson Reutersが目指していること、社内で拡大しようとしていることと、自身の経験がしっかりと結び付いた。これまで取り組んできた研究を実践に移せるのは楽しかった」(クシノー氏)
クシノー氏によると、大半の企業はデータガバナンスの担当者を配置している。特に金融企業には厳しい規制があり、AI技術の利用に関するルールも厳しいため、専門の担当者がデータガバナンスを管理している。ガバナンス責任者の序列は、その企業が属する業界によって異なるという。
企業のデータガバナンス担当としての経験について、クシノー氏は「企業に加わって必要なアプローチを構築し、そこに独自のスタイルを加えることで、企業全体が変わっていくのを目にするのは素晴らしいことだ」と話す。同氏にとってそうした体験は、大学の研究プロジェクトとは異なる体験だ。「企業の中からどのように影響を与え、文化を変え、信頼を育むことができるかを考えるのは非常に刺激的だった」と同氏は述べる。
クシノー氏の役割は「企業全体を見渡すこと」だという。同氏が率いるグローバルチームには、カナダ、スイス、インド、英国、米国の担当者が参加し、データの収集からデータモデルの廃止に至るまで、データのライフサイクル全体に関与する。「われわれのチームは、人事、マーケティング、財務、製品など、あらゆる職務を支援する。データの収集、データモデルの作成、データやデータモデルの利用、データモデルの廃棄といった全ての段階に関わる」と同氏は説明する。
統制の取れた倫理的な方法で、情報や洞察を利用するように管理するのがクシノー氏のチームの仕事だ。チームの支えがあったおかげで、同氏の学術分野から民間企業への転身はスムーズだったという。
「新しい職務にはそれを支える人々がいる。私の場合はそれが、グローバルな実績を持つ素晴らしいチームだった。全員が才能豊かで、業務の改善に意欲的で、その準備が整っている人々だった」(クシノー氏)
中編は、クシノー氏がThomson Reutersでデータガバナンスのルールやポリシーを確立し、データのライフサイクルを構築するに当たって、「現場の業務理解」を重視した理由を紹介する。
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