車体ではなく「デジタルツイン」がレースの勝敗を分ける――その開発の裏側:EVレーシングカーの改良【中編】
電気自動車(EV)のレース「フォーミュラE」出場チームのエンジニアは、「デジタルツインが勝敗の鍵を握る」と話す。デジタルツインでどのように高速化を実現するのか。
「電気自動車(EV)のフォーミュラ1(F1)」と呼ばれる自動車レース「ABB FIA Formula E World Championship」(以下、フォーミュラE)。フォーミュラEではレーシングカーのシャシー(車体の骨格)やエンジンの仕様が規則で定められており、高速化を目的としたソフトウェア分野のイノベーションが進みやすい。
フォーミュラEの出場チームの一つJaguar TCS Racingでチームディレクターを務めるジェームズ・バークレー氏は、同チームはレースに出場するたびに新しいソースコードを用意しており、ソフトウェアの進化により車体は絶えず速くなっていると説明する。
レーシングカーを再現する「デジタルツイン」
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各業界における「デジタルツイン」活用の動き
ソフトウェアのイノベーションを支援するのが、Jaguar TCS Racingの公式テクノロジーパートナーTata Consultancy Services(TCS)だ。TCSでバイスプレジデント兼シニアマネージングパートナーを務めるバルン・カプール氏は、データやクラウドコンピューティング、「デジタルツイン」(現実の物体や物理現象をデータで再現したもの)関連の領域を担当する。
レース開始前から終了後までに、Jaguar TCS Racingは車体やコースに設置したセンサーから約3TBのデータを取得する。取得したデータは全てクラウドストレージにアップロードする。英国オックスフォードシャー州グローブの研究施設にあるシミュレーターにそのデータをダウンロードし、デジタルツインを作成する。デジタルツインは車体のシステムや挙動をできるだけ忠実に再現する。
Jaguar TCS Racingの選手たちはレースに向けた練習期間、シミュレーターを操縦して次のレースに備える。シミュレーターはハンドルから座席、レース中に使用するエンジニアリングスタッフとの無線まで、本物のコックピットと同様に作られており、レーシングカー「I-Type 6」のデジタルツインを仮想空間で運転できる。
エンジニアリングチームはシミュレーターが算出したデータに基づいて実車を走行し、そこから得たデータを用いてシミュレーターを調整。ハードウェアをどう動かすのが最適なのかを見極める。「デジタルツインの精度をいかに向上させるかが勝敗の鍵を握る」とカプール氏は説明する。
後編は、公道を走るEVにフォーミュラEが与える影響を解説する。
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