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「ハイブリッドクラウド」の人気が高まる“5つの理由”ハイブリッドクラウドのトレンド10選【前編】

ハイブリッドクラウドへの移行が加速している。なぜ企業はハイブリッドクラウドを選択するのか。近年のハイブリッドクラウドの潮流と併せて解説する。

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 クラウドサービスとオンプレミスシステムを併用する「ハイブリッドクラウド」の採用が、企業の間で広がっている。ハイブリッドクラウドには、災害復旧(DR)の構築やコスト最適化、リスクの分散、AI(人工知能)技術を広範囲で活用できるといった利点がある。だがそれだけではなく、近年はツールの進化をはじめとするさまざまな変化がハイブリッドクラウドに起きている。ハイブリッドクラウドに関する10個のトレンドを紹介しよう。

1.柔軟性の向上と制御の強化

 「ハイブリッドクラウドの未来を形作る大きなトレンドは、オープンソースプロジェクトへの“包括的なコントロールプレーン(制御機能)”の統合だ」と語るのは、オープンソースソフトウェア管理団体Cloud Native Computing Foundation(CNCF)でエコシステム責任者を務めるテイラー・ドレザル氏だ。

 包括的なコントロールプレーンの普及は、クラウドネイティブ(クラウドサービスで稼働させることを前提にした考え方)アプリケーションを構築して運用するために好ましい。さまざまなIT環境でのリソース管理を効率化する。リソース管理を効率的にできるようになるほど、開発者の負担が軽減される。

 CIO(最高情報責任者)は今後、制御機能とセキュリティ、柔軟性(リソースを動的に拡大・縮小する性質のこと)のバランスを取りながらインフラに投資する必要がある。

 インフラが複雑になるにつれ、企業は投資対象を検討し直す必要がある。例えば、セキュリティプロトコルの一貫性を確保する必要がある。アプリケーションやデータ、インフラがサイロ化(連携せずに孤立した状態になること)しないように、IaC(Infrastructure as Code:コードによるインフラの構成管理)にも投資する必要がある。

2.ハイブリッドエッジコンピューティングの台頭

 企業は今後アプリケーションが要求するリアルタイム性に応じて、端末の近くでデータを処理するエッジコンピューティングと、データをデータセンターで処理する「クラウドコンピューティング」を使い分ける必要がある。そのために、「ハイブリッドクラウドを選ぶ企業が増える」とコンサルティング企業Everest Groupでクラウドおよびインフラ部門のバイスプレジデントを務めるムケーシュ・ランジャン氏は分析する。

 「ハイブリッドクラウドによってリアルタイムのデータを処理でき、エッジコンピューティングの分散型モデルを通じて素早い決断を下せるようになるためだ」(ランジャン氏)

 CIOは、エッジをデータセンターの延長として捉える必要がある。課題は、エッジデバイスとクラウドサービス間で安定した通信を実現して、データの整合性を確保することだ。解決方法の一つがエッジツークラウド接続とセキュリティ対策への投資だ。CIOは、オンプレミス、クラウドサービス、エッジをどのように組み合わせれば適切かを評価し、それに投資する必要もある。

3.自動化、AI技術の統合

 ハイブリッドクラウドにおける自動化とAI技術は、運用効率を上げ、手作業によるミスを減らし、リソースの割り当てを最適化するのに役立つ。

 セキュリティ企業NCC Groupでディレクター兼シニアアドバイザーを務めるナイジェル・ギボンズ氏は次のように語る。「ハイブリッドクラウドとAI技術や機械学習との統合がさらに進めば、予測分析の精度が向上し、データ管理が強化され、セキュリティ対策が改善される可能性がある」

 ただし、AI技術を活用するほど、インフラ間での統合が複雑になる可能性がある。同氏は、小規模で扱いやすいプロジェクトから始めて、徐々にスケールアップしていくことを勧める。

4.AI技術の大規模展開

 金融サービスを提供するJPモルガンチェースでグローバルテクニカルインフラ部門のCIOを務めるダリン・アウベス氏は、「ハイブリッドクラウドは、テキストや画像、音声などのデータを生成するAI技術『生成AI』の素早い進化を促すことになる」と予測する。

 AI技術をより効率よく展開するために、複数のクラウドサービスを利用する「マルチクラウド」を採用するべきだとアウベス氏は語る。「複数のクラウドベンダーを運用する能力があれば、状況が変わったときや、別のモデルと製品を携えたプロバイダーが現れたときに、機敏な対処が可能になる」

5.生成AIの取り組み

 生成AIへの取り組みの一環として、ハイブリッドクラウドに目を向ける企業がある。「ハイブリッドクラウドのトレンドが広がっている主な理由の一つは、企業が自社サービスと製品に関してこれまで以上のイノベーションを求められていることにある」と語るのは、コンサルタント企業TEKsystemsのマネージングディレクターを務めるラメッシュ・ビシュワナタン氏だ。

 生成AIの大規模言語モデル(LLM)のように、急速に進化する技術は大量のデータを消費する。構築、トレーニング、メンテナンスにも費用がかかる。そのため、大半の企業はこうした技術を社内で構築せずにクラウドサービスを利用する。

 だが、公開されているモデルをトレーニングするために取得、保存、使用されるデータには透明性、著作権、セキュリティの問題がつきまとう。

 「今後は生成AIの研究を加速させ、機密データ、アプリケーションを含むプライベートクラウドを増強する企業が増える。それにつれて、ベンダーが提供するAIサービスを利用できるハイブリッドクラウドが選択されるようになる」とビシュワナタン氏は語る。


 次回は、ハイブリッドクラウドに関連するさらなる5つのトレンドを紹介する。

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