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「テレワーク信奉者でも働きたいオフィス」には“あれ”があるオフィスの役割を再定義【後編】

従業員の働き方が多様化する中で、オフィスの役割も変化を求められている。テレワークに慣れた従業員が働きやすいオフィスとはどうあるべきなのか。Cisco Systemsなど2社の例を紹介する。

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)を機に、テレワークを中心とした新しい働き方が広がった。その後、一部の企業は出社回帰を促しているものの、新しい働き方に慣れたテレワーカーはオフィスに戻りたがらない傾向がある。今後のオフィスには何が求められるのか。Cisco Systemsなど2社の例を紹介する。

Cisco Systems:新しいオフィスには“あれ”がある

 Cisco Systemsはニューヨークやシカゴ、アトランタ、パリにあるオフィスの大規模な改装を実施した。従業員が企業や従業員と一体感を持って働けるようにし、業務生産性を向上させるための取り組みだ。同社はその一環として、「同僚がどこにいても同じ部屋にいるように感じられる」ようにするため、人工知能(AI)技術によって臨場感を醸し出せるWeb会議用デバイスを導入する。

 Cisco Systemsでコラボレーションデバイス担当のシニアバイスプレジデントとゼネラルマネジャーを兼務するスノーレ・キャスブ氏によると、同社が所有する会議室のうち、Web会議が可能なものは全体の約30%だった。同社はオフィス改装を機に、対面での会議が可能な作業エリアに加えて、全会議室にWeb会議システムを設置した。時間の経過とともに、従業員の業務生産性の向上にAI技術が果たす役割は拡大すると同氏はみる。

 従業員同士のコミュニケーションの中心は、段取りを事前に決める会議ではなく、創造性につながるアドホック(その場限りの)なやりとりに変化していくとキャスブ氏は見込む。AI技術でメールやチャットのメッセージを要約できるようになれば、従業員がメッセージの確認に費やす時間は短くなる。その結果、従業員は大きな変化を生み出すクリエイティブなアイデアを考えることに時間を使えるようになると同氏は期待する。

 一方でキャスブ氏は、「持続可能性(サステナビリティー)に関する課題はまだ残っているものの、状況は改善されつつある」と語る。現状は、裏地にビチューメン(アスファルト)を含むカーペットがなぜ環境に優しくないのかを従業員に説明しなければいけない段階だという。そうしたカーペットはオフィスでは一般的だが、石油製品を使用しており、製造時に資源を消費し、廃棄時にもリサイクルが困難だという問題がある。

Sidara:サステナビリティーに配慮した新社屋を建設

 設計やエンジニアリングを専門とするコンサルティング企業Sidaraは、サステナビリティーに配慮した新社屋を建設した。新社屋の名称は「150 Holborn」。スマートビルとして、以下の取り組みを実施している。

  • 雨水貯留槽や雨水の一時貯留機能を持つ屋根を採用し、雨水を再利用して洪水を防ぐ
  • 地域固有の植物を植えた屋上庭園を採用して野生生物の生存維持を後押しする

 これに加えてSidaraは、重電メーカーSchneider ElectricのIoT(モノのインターネット)ビル管理システム「EcoStruxure」を導入した。EcoStruxureは650台以上のセンサーと制御装置で構成されるネットワーク経由で、5分ごとに6万5000件のデータポイントからデータを収集し、収集したデータの管理や分析を実施する。EcoStruxureを通じて、利用者はエネルギーの使用状況や稼働率のパターン、温度、湿度、照明の情報を把握することができる。

 2023年1月にオープンした150 Holbornは、英国建築研究所(BRE)が策定した環境価値評価システム「BREEAM」において評価を受けた。

 SidaraはソフトウェアベンダーParaの「デジタルツイン」技術と分析技術を使用して、150 Holbornの設備の仮想モデルを作成し、エネルギー使用状況を監視している。デジタルツインは、現実の物体や物理現象をデータ化し、仮想空間で再現する技術だ。この結果、照明や温度、換気の管理システムの自動調整が可能になり、エネルギー効率の向上や資源の使用状況の最適化、従業員の快適度の向上に成功した。データの動きと異常を特定して、システムの故障やメンテナンスの必要性を事前に予測することもできるようになった。

 150 Holbornでは、ソフトウェアベンダーPlanonの統合ワークプレース管理システム(IWMS)を使った設備の管理や会議室予約が可能だ。ITベンダーIdealが構築したネットワークを使用すれば、関連会社のシステムと相互接続することもできる。ビルの管理システムや監視カメラ、アクセス制御といった、通常は個別に収集しなければならないデータを、グループ企業全体がシームレスに利用できる状態を実現したのだ。

データから学び、成長する

 「『できるだけ多くのデータを集めたい』と言うのは簡単だ。われわれの目標は、収集したデータの背景や文脈を読み取り、活用することにある。大切なのは、ビルの耐用年数が尽きるその日まで、データを使って学習や適応、成長を繰り返すことだ」。SidaraグループのITマネジャーを務めるダニエル・コープ氏はそう話す。この目標を達成するため、Sidaraは1年間にわたってデータを収集している。データから現状を明らかにして活動のベンチマーク評価を進め、ビル運用の最適化を図るためだ。

 収集したデータを基に、会議室の利用状況が明らかになった。150 Holbornの会議室48室のうち定期的に使用されているのは70〜80%であることが判明した。一方で、会議室全体の利用率はわずか40%にとどまっている。会議室の大半が、利用人数に対して広過ぎることがその理由だ。この状況を受けて、コープ氏は次のように述べる。「将来的には、会議室を別の目的で使用できるようにする可能性がある。とはいえ、判断を下す上で、このようなデータを利用できること自体が重要だ」

 Sidaraでクライアントエクスペリエンス部門の責任者を務めるリサ・ケニー氏は、データを使用することで一歩踏み込んだ対処が可能になると考える。「データを使用して行動を変えることが重要だ。ベンチマーク評価の情報を使って、従業員の行動をより良いものにできる」と同氏は説明する。自分以外にフロアを使用している従業員がいない場合、別のフロアに移動して節電することを促すといった具合だ。「ビルが進化する上で、全従業員に果たすべき役割がある」とケニー氏は言う。

 「豊富なデータがあれば、根拠をもって状況を明らかにできるだけではなく、成し遂げたいことや目標を従業員に認識してもらえるようになる」というのがケニー氏の考えだ。「組織の一貫性を高め、小さな取り組みで有意義なことが実現できることを従業員に示すのが重要だ」(同氏)

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