OpenAIが米政府に“異例”の提言 「理想のAI社会」がダメ出しされる理由とは:トランプ政権への布石?
米国政府がバイデン政権下でAI技術の規制を強める中、OpenAIは政府に対し、AI技術の利益を享受するための政策を提言した。一部の専門家はその内容に懐疑的な見方を示している。何が問題なのか。
AI(人工知能)ベンダーOpenAIは2025年1月13日(現地時間)、米国政府に対し、AI技術の活用に関する政策の提言「AI in America:OpenAI’s Economic Blueprint」を公開した。同社はこの提言で、「米国全土のベンダーと開発者がAI技術の利益を平等に享受できるよう、政策立案者との協力を望む」と主張している。
OpenAIがこの提言を公開したのは、ジョー・バイデン氏の政権がAIチップの輸出に新たな制限を提案した日と同日だ。この制限に対し、GPU(グラフィックス処理装置)ベンダーNVIDIAは「米国が苦労して獲得した技術的優位性を無駄にする恐れがある」と反発した。米国政府の動きにAI技術関連ベンダーが反発する中で、OpenAIは米国政府への提言を発表したのだ。提言の内容と、それに対する専門家やアナリストの懐疑的な見方とは。
OpenAIが政府に示した提言とは?
OpenAIは提言の中で、コンピューティングクラスタ(複数のコンピュータを接続して一体運用するシステム)、大規模な電力供給網などのインフラを整備することを米国政府に求めている。それによって、「中国ではなく米国を中心にAI技術の開発が進むようになる」というのが同社の主張だ。最先端の生成AIモデルである「フロンティアモデル」の開発を促進し、米国の経済と国家安全保障を確保することも提唱している。
AIチップ(AI関連の演算を担う半導体)を活用し、米国をAI技術の最前線に位置付けながら、“イノベーションを妨げない安全規制”を備えた“理想的なAI社会”を創造することを、OpenAIは目指すことを提言の中で示した。
専門家は「利己的」と批判
一部の専門家はOpenAIの提言を利己的なものとみている。調査会社RPA2AI ResearchのCEO、カシャップ・コンペラ氏は「OpenAIをはじめとするAIベンダーは、ドナルド・トランプ氏の次期政権に向けてアピールを試みている」と指摘する。
「そうしたAIベンダーには、表には出てこないさまざまな利害関係が絡んでいるとはいえ、営利企業である以上、目的は株主利益の最大化だ」。法学教育機関California Western School of Lawのジェームズ・クーパー氏はそう発言する。
OpenAIが発表した提言の主題の一つは、同社が次期政権に対し、厳格なAI規制を控えるよう求めることだ。コンペラ氏は、AI規制の枠組みがベンダーの業績を左右すると付け加える。具体的にはAIインフラの構築、AI技術やチップの海外輸出の制限の他、AIモデルの学習に使用するコンテンツの著作権保護などだ。
米紙The New York Times(NYT)をはじめ複数の通信社は2024年1月、MicrosoftとOpenAIを著作権侵害で提訴した。これに対し、OpenAIはAIモデルの学習に記事を使用することは「公正な利用」(フェアユース)に該当すると主張している。
OpenAIが提言を発表したタイミングは、NYTが出廷するタイミングと重なる。この裁判では、通信社が訴訟を進める権利があるかどうかが争点となる。
AI技術を巡る米国政府と企業の対立を受け、OpenAIの提言は「AI技術の将来に向けた布石だ」とコンペラ氏は述べる。同氏は「AI技術は現代経済の主要な原動力であり、企業や国家はAI技術におけるリーダーシップを握りたいと考えている」と話す。そうした中で各企業が自社にとって“好都合な将来像”を描いており、同社の提言が「中国を米国の都合の良い競争相手に仕立てている」と説明する。
ワシントン大学(The University of Washington)情報学部教授のチラグ・シャー氏は、OpenAIの提言について「具体性に欠ける」と批判する。シャー氏は「野心的で非現実的なアイデアだ。経済的な不平等や社会的格差、公共インフラの整備など、米国経済が直面するさまざまな課題に対処できていない」と指摘する。
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