いまさら聞けない「デジタルツイン」の概要とメリット:デジタルツインとは何か【前編】
現実世界の設備やプロセスをデジタル空間で再現する「デジタルツイン」。製造業や都市開発だけではなく、身近な分野でも導入が進むデジタルツインの仕組みとメリットを解説する。
「デジタルツイン」とは、現実世界の物体やプロセスをデジタル空間で再現したものだ。デジタルツインが物理的な実体の代理として機能するためには、以下の3つの要素が全てそろっている必要がある。
- 物理的な実体
- その物理的な実体をソフトウェアで再現したデジタルモデル
- 物理的な実体とデジタルモデルを結び付けるデータ連携の仕組み
これらの要素を備えたデジタルツインは、現実世界を再現したデータ以上の価値を提供する。デジタルツインを特徴付ける特性やシミュレーションとの違い、メリットなど、デジタルツインを理解する上で欠かせない概要を紹介する。
デジタルツインで注目すべき「3つの特性」とは
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デジタルツインはどのくらい効果があるのか
デジタルツインは一般的に、2D(2次元)または3D(3次元)の「CAD」(コンピュータ支援設計)画像と関連付けられる。ただし、視覚的な表現は必須ではない。デジタル表現やデジタルモデルであれば、データベース、方程式の集合、スプレッドシートなどで構成することも可能だ。
業界団体のDigital Twin Consortiumは、デジタルツインの基本定義に「特定の頻度と忠実度で同期する」という重要な要件を盛り込んだ。この定義は、デジタルツイン技術における以下の3つの観点を表している。
- 同期
- デジタルツインと物理的な実体が、可能な限り高い一致性を保つ必要があること
- 更新頻度
- デジタルツインのデータが、その目的やエンドユーザーの要件に応じて適切な頻度で更新される必要があること
- 数秒、数週間、エンドユーザーが必要になったタイミングなど、さまざまな頻度で更新する
- 忠実度
- デジタルツインが、物理的な実体と精密かつ正確に一致している必要があること
- デジタルツインと物理的な実体を同期させる仕組みの精度に左右される
デジタルツインと物理的な実体を接続する物理的な接点としては、主に「IoT」(モノのインターネット)センサーを用いる。「機械学習」などの「人工知能」(AI)技術で強化された分析技術は、デジタルツインのデータ処理と分析において不可欠だ。
デジタルツインの仕組み
デジタルツインを構築するには、物理的な実体や現実世界の情報を詳細にデジタル化するために、膨大なデータの収集や3Dモデルの作成といった手間と工程が必要になる。この過程を「リアリティーキャプチャー」と呼ぶ。リアリティーキャプチャーでは通常、レーザースキャナーを使用して物理的な実体とその周辺空間にレーザー光を照射して、座標を測定する。スキャンデータは、対象物の形状を表す点群(3D空間内の点の集合)として集約される。
リアリティーキャプチャー技術は、レーザースキャナーからスマートフォン用ソフトウェア、ドローンにまで拡大しており、今後もデジタルツイン開発での活用範囲が広がる見込みだ。3D表現の作成と保存方法については、AI技術による革新が進んでいる。高度な機械学習を使用して2D画像から3D表現を生成する技術「NeRF」(Neural Radiance Fields)は、従来の3Dデータよりもデータ容量を大幅に圧縮できる。
デジタルツインは、没入型でインタラクティブなデジタル世界を実現する「仮想現実」(VR)などの技術を含む「メタバース」(仮想空間)の構成要素だ。「拡張現実」(AR)は、デジタルツインを実物に重ねて表示することで、現場の技術者に詳細な保守データを提供できる。VR画像のデータソースとしても活用できる可能性がある。
デジタルツインとシミュレーションの違い
コンピュータシミュレーションなどの技術とデジタルツインの違いは、リアルタイムでデータを処理する能力だ。コンピュータシミュレーションは一度に1つのプロセスしかシミュレートできない。デジタルツインはセンサーとプロセッサ間で双方向にデータをリアルタイムで流すことができるため、複数のプロセスを同時にシミュレートできる。これによって、エンドユーザーは物理的な対象物の実際の環境や動作により近い形でデジタルツインを用いた実験が可能になる。
リアルタイムデータを複数プロセスで処理する機能によって、エンドユーザーは仮想空間で対象物やプロセスの状態を調査したり、ライブデータを照会したり、現実的な設定で仮想モデルの結果を観察したりできるようになる。一方、コンピュータシミュレーションには、対象物と接続した強固なネットワークや情報を整理するデータモデルが欠けている。
デジタルツインのメリット
以下にデジタルツインを使う主なメリットを示す。
- 費用とリスクの軽減
- デジタルツインは仮想的な存在であるため、物理的な実体を直接操作する場合と比べて費用とリスクを軽減しやすい
- 運用効率の向上
- デジタルツインによってタイムリーなデータが得られるため、製品の生産速度が向上し、生産性が高まる
- 柔軟性の向上とコストの削減
- 高価で変更が困難な物理プロトタイプの代わりに、修正しやすい仮想プロトタイプを使うことで、より多くのデータを収集できる。これによって研究開発期間と市場投入までの時間を短縮できる
- 製品品質の向上
- 生産過程の初期段階で欠陥を検出しやすくなるため、製品品質を向上させることができる
- 設備稼働時間の延長
- 問題を特定する際に、全設備を停止せずに済む。個々のデジタルツインを分析することで予知保全も可能となり、装置の稼働時間を延ばすことができる
- 正確で効率的な遠隔監視
- IoTセンサーを使用してリアルタイムデータを収集することで、予防的保守が実現する
- 製品のライフサイクル終了プロセスの改善
- 製品の使用年数と構成部品に関する正確な情報を把握できるため、修理とリサイクルプロセスの最適化に役立つ
- 持続可能性の向上
- 生産プロセスの効率を改善し、水やエネルギーなどの資源を節約し、工場内における排出物や廃棄物の削減が期待できる
- エネルギー管理の最適化や炭素排出量の削減など、持続可能性の目標に向けて明示的にデジタルツインを修正する例もある
次回は、デジタルツインの課題と実践方法、展望を紹介する。
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