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IBMが「2万倍性能の量子コンピュータ」への一歩を刻む 量子エラー訂正で革新量子コンピューティング最前線

IBMは、リアルタイムで動作可能な量子エラー訂正手法を用いて、フォールトトレラント(障害耐性)量子コンピュータの構築を可能にする論文を発表した。次世代量子コンピュータへの道を開く技術について解説する。

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 IBMは、大規模なフォールトトレラント(障害耐性)量子コンピュータの構築に向けたロードマップを更新し、実用的で拡張可能な量子コンピューティングの実現に向けた基盤を整備した。

 数百から数千の論理量子ビットを備えたこの量子コンピュータは、数億から数十億回の演算を実行でき、創薬開発、材料探索、化学分野、最適化問題などの領域において、時間とコストの大幅な効率化をもたらす可能性がある。

実用的な量子エラー訂正に向けたIBMのアプローチ

 効率的な耐障害性アーキテクチャを実現するためには、適切なエラー訂正符号の選択と、それをスケール可能な形で実装できるシステム設計が不可欠だ。より強力な量子コンピュータに必要なエラー訂正符号は、複雑な演算を実行するのに十分な論理量子ビットを提供するために、現実的には実現不可能な数の物理量子ビットが必要となる。

 IBMによれば、エラー訂正符号をスケーラブルに実装するには、大量のインフラと制御用エレクトロニクスが必要となり、小規模実験を超えた規模では実現不可能だったという。

 こうした課題に対し、IBMは「バイシクルアーキテクチャ」と呼ばれるモジュール型量子コンピュータ設計において、低密度パリティー検査符号(LDPC)を用いた新たなエラー訂正手法に取り組んでいる。

 IBMのプレジデント兼CEOであるアービンド・クリシュナ氏は、次のように述べる。「IBMは量子コンピューティングの次なるフロンティアを開拓している。数学、物理学、エンジニアリングにわたるIBMの専門知識は、大規模なフォールトトレラント量子コンピュータの実現への道を切り開いており、現実世界の課題解決とビジネス上の飛躍的可能性をもたらすだろう」

 IBMの目標は、有用なアルゴリズムが確実に動作するよう十分な耐障害性を備えたコンピュータを構築することにある。このコンピュータは、リアルタイムで論理量子ビットの準備と測定を行い、より複雑なアルゴリズムの実行に向けて、数百〜数千の論理量子ビットまで拡張可能なモジュール設計を備える必要がある。

 IBMは、スケーラブルでエラー耐性のある量子コンピュータアーキテクチャを構築するためのアプローチを説明する2つの学術論文を発表している。1つ目の論文は、制御ロジックにおける適度なオーバーヘッドと、フォールトトレラント量子コンピューティングに必要な物理量子ビット数に基づく、高レート量子エラー訂正符号について解説している。2つ目の論文では、プログラム可能な集積回路「FPGA」(Field Programmable Gate Array)チップ上で実行されるリアルタイムデコードを用いた量子エラー訂正手法について論じている。

 IBMで量子プロセッサ技術を統括するマティアス・シュテッフェン氏は、「これら2つの論文を合わせて読むことで、大規模エラー訂正アプローチに不可欠な基準が明らかになる」と述べる。

 IBM Quantumのバイスプレジデントを務めるジェイ・ガンベッタ氏は、「われわれは量子エラー訂正の突破口を見出し、世界初の大規模フォールトトレラント量子コンピュータの構築を目指している」と述べる。

 ガンベッタ氏は、この目標を実際の量子コンピューティングハードウェアへ反映するためには多くの課題が残されていることを認めつつも、論文の技術がIBMの次世代量子コンピュータ「Quantum Starling」への道を開くものであると説明する。Quantum Starlingは2029年までに完成予定で、現在の量子コンピュータと比較して2万倍の演算能力を実現する見込みだ。

 Quantum Starlingは、ニューヨーク州ポキプシーのIBM Quantumデータセンターで構築される予定であり、同社が2033年の提供を計画する大規模システム「Blue Jay」に向けた基盤をなすものだ。IBMによれば、Blue Jayは2000個の論理量子ビットを用いて10億回の回路演算を実行でき、非常に複雑な計算問題の解決を可能にするという。

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翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(株式会社リーフレイン)

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