なぜいまAI開発に「オープンソースの波」が押し寄せているのか:AIの未来はオープンソースにあり?
人工知能(AI)の世界は、オープンソースによって形作られつつあり、オープンソースがAI分野の進歩と革新を推進していると専門家は主張している。その根拠とコミュニティーの取り組みとは。
非営利団体Linux Foundationのエグゼクティブディレクターであるジム・ゼムリン氏によれば、人工知能(AI)の世界はオープンソースによって形作られつつあり、オープンソースがAI分野の進歩と革新を推進している。
2025年6月に香港で開催された、オープンソースとクラウドネイティブ技術のカンファレンス「KubeCon + CloudNativeCon China 2025」の基調講演で、ゼムリン氏はオープンソースソフトウェア管理団体Cloud Native Computing Foundation(CNCF)の最高技術責任者(CTO)、クリス・アニシュチク氏と共に登壇。オープンソースモデルとインフラがAI分野で果たしている重要な役割に言及した。
オープンソースモデルがAI分野で果たす重要な役割とは
ゼムリン氏は、2025年1月に中国のAI技術ベンダーDeepSeekが、高性能なオープンソース大規模言語モデル(LLM)を突然リリースしたことを転換点として挙げる。「オープンソースが“戦力倍増装置”であり、アイデアの共有がイノベーションを加速させることを証明した」
その後、数週間置きに高性能なオープンソースモデルが公開され、OpenAIのCEOサム・アルトマン氏のようなプロプライエタリ(ソースコード非公開)のAI企業のリーダーでさえ、オープンソースに対する姿勢を再考せざるを得なくなったという。
ゼムリン氏はオープンソースの経済的および戦略的価値についても言及し、ハーバードビジネススクール(Harvard Business School)と共同で実施した調査で、オープンソースの需要側における価値が約9兆ドルと評価されたことを紹介した。
「オープンソースがこれほど強力なのは、無償で利用可能なソフトウェアであり、これを活用して製品やサービスを構築できるからだ。現代の製品やサービスの約70%が既にオープンソースコンポーネントで構成されているため、これによって開発者は顧客に提供する価値に集中できる」(ゼムリン氏)
ゼムリン氏は、AIエージェントをオープンソースイノベーションの次なるフロンティアとして位置付け、AIエージェントを「LLMを現実世界のタスクやシステムに接続する技術」と定義する。AIエージェントを取り巻くオープンソースツールの新たなスタックが形成されつつあり、AI技術ベンダーAnthropicの「Model Context Protocol」(MCP)やGoogleの「Agent2Agent」(A2A)といったオープンプロトコルが、AIエージェントと企業システム間、またはAIエージェント同士を接続するための標準の確立を進めている。
「2025年はAIエージェントのオープンプロトコルに関する議論がますます活発になり、それに伴って新たなオープンソースエコシステムが形成されていくだろう」とゼムリン氏は述べる。「これにより透明性が高く、安全性と有効性を兼ね備えた優れたAIエージェントの実現につながる」
AI分野の勢いをさらに加速させる形で、アニシュチク氏は、コンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」の成功をAI分野にも適用する新たな取り組みを発表した。「CNCFは、Kubernetesで実現した適合性の仕組み(Kubernetes Conformance)をAIの世界にも持ち込む必要がある。推論処理や分散モデルにおける標準化を目指す活動を開始する」
オープンソースAIモデルにおけるライセンス問題に対処するため、Linux Foundationは新たに「OpenMDW」ライセンスを導入した。このライセンスはAIモデルとその関連成果物向けに設計されており、企業に明確性と一貫性を提供する。
「AIモデルの場合、データや重み、データカードなど、異なる種類のライセンス体系が適用されるコンポーネントが存在する」とゼムリン氏は説明する。「そこでLinux Foundationが考案したのは、オープンソースAIモデルを使用する際に、実際に何を得ているのかを理解するために、これらのコンポーネントを全て評価する方法だ」
オープンソースAIモデルの勢いが増す中、ゼムリン氏は開発者に対し「オープンソースはコミュニティーを構築することで真価を発揮する」と改めて強調した。コミュニティーの重要性は、アニシュチク氏がCNCFの成長に関する最新情報を報告する際にも言及された。
アニシュチク氏によると、CNCFには世界全体で200件以上のプロジェクトに約28万6000人の貢献者が参加している。特に中国は大きな勢力となり、CNCFプロジェクトへの貢献国としては一貫して世界第2位または第3位にランクされている。同氏は、P2Pベースのファイル配信・画像アクセラレーションシステム「Dragonfly」や、クラウドネイティブのバッチシステム「Volcano」など、中国で生まれた成功プロジェクトの幾つかが世界中で利用されている事例を紹介した。
世界的な政治的緊張にもかかわらず、ゼムリン氏はオープンソースの中立性について確信を持っている。「良いニュースは、オープンソースソフトウェアは輸出規制の対象外であるため、今後も国際的な協力を続けていけることだ」
翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(株式会社リーフレイン)
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