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「5G」×「DAS」で刷新 伝統のスタジアムが“次世代無線”で生まれ変わる5万人の観戦を支える通信設備

スタジアムなど巨大施設内での快適な通信体験を重視する観客が増えている。それを実現する一つの方法が「分散アンテナシステム」だ。アイルランドの大規模スタジアムでの最新の実装例を紹介する。

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 スポーツや音楽イベントが開催されるスタジアムにおいて、近年は高速かつ安定した、安全な通信環境の整備が欠かせなくなっている。アイルランドを代表するスタジアム「Aviva Stadium」も例外ではなく、計画的に通信設備への投資を進めてきた。同スタジアムは2025年6月、スタジアムに備え付けられた「分散アンテナシステム」(DAS:Distributed Antenna System)を、「5G」(第5世代移動通信システム)に対応したものへとアップグレードしたと発表した。

「5G」×「DAS」によって何ができる?

 アイルランドの首都ダブリンのドダー川沿いにある「Lansdowne Road」は、150年近くにわたり、主にラグビーとサッカーの試合に使用されてきた歴史あるスタジアムだ。テニスクラブLansdowne Lawn Tennis Clubが所有するテニスコートに加え、クロッケー用のコート、3面のサッカーコート、アーチェリー用の施設も備えていた。2007年に解体され、2010年にAviva Stadiumとして生まれ変わった。

 現在のAviva Stadiumは収容人数5万1700人を誇り、印象的な曲線を描くスタンドと屋根が特徴となっている。ラグビーとサッカーのアイルランド代表チームがホームスタジアムとして使用しており、欧州サッカー連盟(UEFA)が規定するスタジアム基準で最高の「4」を獲得するアイルランド唯一のスタジアムだ。2011年には、UEFAヨーロッパリーグの決勝と、アイルランド、北アイルランド、スコットランド、ウェールズの4カ国によるNations Cupが開催された。

 2020年1月、Aviva Stadiumは、無線通信インフラの構築および運営サービスを提供する企業、Shared Accessと提携し、利用者の観戦体験の向上のため、今後25年間にわたって多額の投資を実施すると発表した。スタジアム内で、Three Ireland、Vodafone Ireland、Eircomというアイルランドのモバイルネットワーク事業者3社の「4G」(第4世代移動通信システム)回線をスムーズに利用できるようにし、その後5Gに移行するという計画だった。

DASを5Gにアップグレード

 5年の時を経て、2025年6月25日(現地時間)、Aviva StadiumはDASの5G対応の整備が完了したと発表した。DASとは、基地局から届く電波を光ファイバーケーブルによって分配することで、障害物が存在したり利用者が密集したりして、信号強度が弱くなりがちなエリアでの安定したモバイル通信を実現するシステムだ。

 このDASを導入したことで、前述の3社全ての5G回線がスタジアム内で利用可能となり、通信可能エリア、通信速度、通信容量の大幅な向上が実現した。プロジェクトにおいては、Shared Accessが各通信事業者と協力し、スタジアム専用の5G機器を設計、設置した。Shared Accessは、2023年にもダブリン南部の商業施設Dundrum Town Centreで5G対応のDAS導入を支援している。

 今回のアップグレードでは、サステナビリティ(持続可能性)向上への取り組みの一環として、VoltServerの電力供給および管理システムを組み込み、電力効率の向上と、長期的な環境負荷の軽減が図られている。

 完成した通信環境は、アルバム「Radical Optimism」のリリースに合わせた、ポップスター、デュア・リパのツアーのアイルランド公演で稼働を開始した。

 Aviva Stadiumは、今回のアップグレードにより、アイルランド初の5Gに完全対応したスタジアムとなった。スタジアムの5Gインフラを整備することで、ライブストリーミングの品質が高まり、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)などの最新技術を活用する基盤となる。スポーツやイベントの観戦体験が変革され、より豊かなものになるだろう。

 Vodafone Irelandのネットワークディレクターを務めるシーラ・カバナ氏はこう語る。「より高速で信頼性の高いモバイルネットワークを実現できた。5Gを使って友人とコミュニケーションを取ったり、スタンドからライブ配信したり、充実した観戦体験を楽しめる」

翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)

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