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BroadcomがAI機能を“追加料金なし”で利用可能に 「VCF」刷新の真意とは?サブスクリプション化への反発に対処できるか

BroadcomによるVMware買収とサブスクリプション形式への完全移行は、一部企業の反発を招いた。これに対してBroadcomはVMware Cloud Foundation(VCF)の大幅刷新を発表した。企業の信頼を取り戻す一手となるのか。

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人工知能 | VMware


 半導体ベンダーBroadcomは、主力製品であるプライベートクラウド構築製品群「VMware Cloud Foundation」(VCF)の大幅な刷新を発表した。この刷新によって、企業のAI(人工知能)技術活用を支援するサービス群「VMware Private AI」が、VCFの標準サブスクリプションライセンスで利用できるようになる。これは従来、追加オプションとして提供されていたものだ。

追加ライセンスを不要にしたBroadcomの戦略

 この動きの背景には、Broadcomによる仮想化ベンダーVMwareの買収がある。買収後、Broadcomはライセンス体系を買い切りからサブスクリプションのみに移行し、製品ラインアップを整理したため、企業からの反発を招いていた。

 今回の刷新は、VCFをBroadcomのプライベートクラウドの中核製品としてあらためて定義し、その価値と長期戦略を示すことで、企業の懸念を取り払う狙いがある。Broadcomは今回の刷新を、「インフラの簡素化」「費用対効果の高いAI技術の導入」「サイバーレジリエンスの強化」といった、企業からの要求に応えるものだと位置付けている。

 刷新の目玉は、GPU(グラフィックス処理装置)ベンダーNVIDIAとの協業で生まれたAIモデル実行・開発環境「VMware Private AI Foundation with NVIDIA」が、VMware Private AIを通じてVCFのサブスクリプションライセンスで利用できるようになったことだ。この変更によって、VCFユーザーは追加ライセンスなしでAIモデルの開発から運用までの一連の工程を支援するツールが使えるようになる。

 VMware Private AIには、GPUの仮想化機能が含まれる。この機能は仮想マシン(VM)を停止せずに移動できる「vMotion」、VMを物理マシンに自動配置する「Distributed Resource Scheduler」(DRS)といった技術が利用でき、GPUの利用率向上に貢献する。VCFはNVIDIAのGPU「Blackwell」で動作する他、半導体ベンダーAdvanced Micro Devices(AMD)のGPUも利用できるようになった。

vSANの機能強化と開発者支援

 ストレージ仮想化ソフトウェア「VMware vSAN」では、オブジェクトストレージサービス「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)と互換性のあるオブジェクトストレージが扱えるようになった。これによって、VCFは従来のブロックストレージとファイルストレージに加え、オブジェクトストレージも管理可能になった。これはモダンなアプリケーションやAIモデルを利用するアプリケーションに不可欠なストレージだ。

 BroadcomでVCF部門の製品マーケティング担当バイスプレジデントを務めるプラシャンス・シェノイ氏によると、VMware vSANの強化によって、企業はデータの種類を問わず、シンプルなワークフローでストレージを一元的に運用し、データ復旧やAIワークロード(AI技術関連の処理)を実行できるようになる。開発者もインフラの複雑さを意識することなく、オブジェクトストレージを導入、利用可能になるという。

 開発者の体験向上を図るために、Broadcomは「Linux」ディストリビューション(配布パッケージ)の「Ubuntu」を開発するCanonicalと提携した。企業が開発したアプリケーションをコンテナで稼働させる場合、そのベースイメージとして活用できる「Chiselled」版(最小限の構成要素だけで作られたバージョン)Ubuntuを提供開始した。このコンテナイメージは依存関係を最小限に抑えることで軽量化と高速化を図っており、攻撃対象領域の縮小にもつながる。シェノイ氏は、こうした開発者向けの革新によって開発者の生産性が向上することに期待を寄せる。

 セキュリティ面では、セキュリティサービス群「VMware vDefend」に新たな自動化プロセスを導入する。この自動化は、インフラを支える基礎的なサービスの評価と保護、アプリケーションのゾーニング(グループ分け)、アプリケーション単位での詳細なアクセス制御といった一連のプロセスが対象だ。Broadcomでアプリケーションネットワーキングおよびセキュリティ担当のバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーを務めるウメシュ・マハジャン氏は、「従来数カ月かかっていた基本的なセキュリティ対策を数週間で完了できるようになる」と、その効果を説明する。

 厳しい規制要件を抱える企業向けには、アドオンとして「VCF Advanced Cyber Compliance」を提供する。VCF Advanced Cyber Complianceは、コンプライアンスと構成の一元管理、サイバー攻撃対策と災害復旧の一元化、脆弱(ぜいじゃく)性管理を一括で支援するサービスだ。シェノイ氏はVCF Advanced Cyber Complianceについて、「規制の厳しい業界にいる企業が、コストと運用の両面でより効率的にコンプライアンス要件を満たせるよう設計されている」と語る。

 Broadcomは、IT運用におけるAI技術の将来的な方向性も示した。マハジャン氏によると、画像やテキストを自動生成するAI技術「生成AI」を搭載したアシスタントを開発する計画が進んでいる。動的に変化するシステムの稼働状況から迅速に洞察を導き出し、IT部門が「どのファイアウォールルールが通信を妨げているか」といった複雑な問題を特定したり、システムのパフォーマンス問題を診断したりするのを支援するという。

 これらの一連の発表は、VCFを「プライベートクラウドを実現するための総合サービス」とするBroadcomの「オールイン」戦略を明確に示している。VMware Private AIやAmazon S3互換のオブジェクトストレージ互換性を中核製品に組み込むことで、同社は企業の不満を招いたサブスクリプションモデルの価値を示そうと試みている。

 2025年8月開催のイベント「VMware Explore 2025 in Las Vegas」の基調講演で、BroadcomのCEOであるホック・タン氏は、この戦略を象徴する「VCF 9.0」について言及した。タン氏は、VCF 9.0を「VMwareが技術革新を続けながらも実現できなかった、プライベートクラウドの構成要素を真に集約させるための『困難な技術的作業』の成果」だと述べた。その上で「VCF 9.0は、VMwareの25年にわたる技術と革新の集大成であり、未来を担う中核製品だ」と同氏は締めくくった。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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