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「AIを同僚として歓迎」が7割超え 積極派と慎重派、それぞれの見方AIとの協働に見る新たな職場像(1/2 ページ)

職場でのAI活用が進む中、従業員の75%が「AIエージェント」との協働を歓迎する一方、管理される立場には抵抗感を示す。この対照的な反応の背景には何があるのか。

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 人工知能(AI)エージェントの職場導入が加速する中、従業員の受け止め方に興味深い傾向が見えてきた。人材管理・財務ソフトウェアベンダーのWorkdayが、リサーチ会社Hanover Researchに依頼して実施した世界規模の調査によると、従業員の75%がAIエージェントとの協働に前向きだった。一方、AIに管理されることには30%が抵抗感を示している。

  この対照的な反応は、AIとの関係性における「対等なパートナー」と「上下関係」の違いを浮き彫りにする。調査は2025年5〜6月に世界2950人のIT意思決定者を対象に実施されたもので、職場におけるAIエージェントの受容度と課題を詳細に分析している。

AIへの期待と不安が併存 働く人の本音とは

 今回の調査が焦点を当てるのは、一般的なAI技術ではなくAIエージェントだ。報告書ではAIエージェントを「定義された範囲内で自律的または半自律的にタスクを遂行し、意思決定や対話を行い、必要に応じて学習や適応を重ねながら特定の目標を達成するAIシステム」と定義している。広義のAIが知能を持つ技術全般を指すのに対し、AIエージェントは一定の独立性を持ってユーザーやシステムの代理で行動する点が特徴だ。

 WorkdayのAI担当バイスプレジデント、キャシー・ファム氏は次のように語る。「AIは人間の判断力やリーダーシップ、共感を補完する優れたパートナーとなり、新しい働き方の時代を切り開いている。信頼を築くためにはAIの使い方に明確な意図を持ち、常に人を意思決定の中心に据えることが重要だ」

 ファム氏は報告書の中で「AIエージェントへの期待は、AIに任せる領域と人間が関与すべき領域を分ける『境界設定』によって支えられ、目的に沿った責任ある導入に欠かせない。誤用への不安にとらわれるのではなく、AIの可能性を前向きに活用していくことが求められる」と述べている。その上で「リーダーは従業員がAIをいつ、どのように使うべきかを理解できる研修を優先すべきであり、技術提供者はその境界をシステムに組み込む必要がある。特に人事や財務といったリスクの高い領域では、その重要性が一層高まる」と強調している。

経験蓄積による信頼度の変化と現実的な評価

 AIエージェントの利用経験と信頼度には明確な相関が見られる。導入を始めたばかりの探索段階では「自社は責任を持って運用できる」と答えた企業は36%にとどまったが、経験を重ねて規模拡大を検討する段階では95%にまで上昇した。

 同じ調査で、回答企業の82%がAIエージェントの利用を拡大していると答えており、そのうち90%はAIエージェントの活用が社会に良い影響を与えると見ている。

 一方で、人間が気付かないうちにAIエージェントが裏で動作する環境を「快適だ」と答えたのは24%にとどまった。多くの人は「見えないAI」に不安や違和感を覚えていることになる。同程度の割合が「AIエージェントは過大に宣伝されている」とも回答しており、期待と慎重な姿勢が併存している様子もうかがえる。

 全体として約9割が「AIエージェントは業務の達成を後押しする」と認めているが、同時に次のような懸念も挙げられている。

  • 業務圧力の増加(48%)
  • 批判的思考の低下(48%)
  • 人間同士の交流の減少(36%)
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部門別の信頼度と活用領域

 多くの回答者はAIエージェントを「重要なチームメイト」と捉えているが、現時点ではまだ「完全なチームメンバー」とまでは見なしていない。信頼度が比較的高いのはITサポートやスキル開発の分野であり、採用、財務、法務といった領域では慎重な姿勢が目立つ。

 一方で財務部門では、具体的な利点を見いだしやすい傾向がある。財務担当者の76%は「人材やスキル不足の解消に役立つ」と回答し、失業を懸念する割合は12%にとどまった。財務領域における主な活用例は以下の通り。

  • 予測と予算編成(32%)
  • 財務報告(32%)
  • 不正検知(30%)

統治体制構築の重要性

 AI導入に当たり、33%の回答者が「倫理上の課題」を主要な懸念として挙げている。このため、特定の部門だけでなく全社横断の監督体制が不可欠となる。ITリーダーは従来の役割を超え、責任あるAI活用に積極的に関与する必要があり、人事部門は教育やルール整備で戦略的な役割を担うことが求められる。

 総じて調査結果は、AIエージェントの職場導入には、技術機能の優秀さだけではないと示している。人間を中心に据えた設計思想、透明性の高い運用ルール、明確な統治体制の整備が成功の鍵を握る。

翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)

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