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オンプレミス回帰が起きる中「プライベートクラウド」を打ち出すBroadcomの思惑VMware新製品戦略の行方は

クラウド回帰の潮流が強まる中、BroadcomはVMwareを「AIネイティブ」なプライベートクラウド基盤として再定義する戦略を打ち出した。

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VMware | プライベートクラウド


 「プライベートクラウドの時代が到来した」――年次カンファレンスVMware Explore 2025の基調講演で、BroadcomのCEO、ホック・タン氏はこう語った。「Amazon Web Services」(AWS)や「Microsoft Azure」といったクラウドサービスへ移行したアプリケーションやデータを、オンプレミスに戻す「オンプレミス回帰」の動きが加速している。そのような潮流の中でタン氏は、クラウドインフラを自社専用で構築・運用する「プライベートクラウド」を中核に据えた戦略を打ち出した。

プライベートクラウド重視の思惑は

 タン氏は前年のVMware Exploreでも「プライベートクラウドこそ企業の未来だ」と述べていたが、2025年はその実行計画を具体的に示した。「多くの企業はプライベートクラウドに投資したいと考えている。しかし、VMwareは長年イノベーションを続けてきたが、クラウドの構成要素を十分に統合できていなかった」と語る。その解決策としてVMwareが管理するプライベートクラウドサービス「VMware Cloud Foundation」(VCF)を一体型で提供する方針を前面に押し出した。

 最新版の「VCF 9.0」では、プライベートAI(人工知能)基盤「VMware Private AI Services」が標準コンポーネントとして組み込まれ、VCFが「AIネイティブ」なプラットフォームとして位置付けられた。これにより、導入した直後から以下のAI関連機能を利用できる。

  • システム運用を支援するサポートアシスタント「Intelligent Assist」
  • 外部のAIツールやサービスと接続するための「Model Context Protocol」(MCP)対応
  • NVIDIAやAdvanced Micro Devices(AMD)を含む多様なハードウェアやGPU上でAIモデルを実行できる柔軟性

 TechTargetの調査部門Enterprise Strategy Group(ESG)のアナリスト、トルステン・フォルク氏は「現在の業界で最も重要なテーマはAIエージェント(自律的にタスクをこなすAI)であり、VCFがAI機能を中核に据えるのは当然の流れだ」と指摘する。

 BroadcomでVCF向けのAIおよび先進サービスを統括するグローバル責任者のクリス・ウルフ氏は、Private AI Servicesが初公開から約3年間で着実に進化してきたと強調した。同氏は「世界は今、『データのある場所にAIモデルを持ち込む』というアプローチを理解し始めている。これにより、プライバシーやデータ管理を犠牲にすることなく、より低コストでモデルを動かせる」と述べた。

セキュリティとコンプライアンスの強化

 Broadcomは新たにVCF向けの「 Advanced Cyber Compliance」を発表し、金融や医療など規制の厳しい業界でもプライベートクラウドを安心して使えるよう、セキュリティとコンプライアンスを強化した。Advanced Cyber Complianceは、コンプライアンスと構成の一元管理、サイバー攻撃対策と災害復旧の一元化、脆弱(ぜいじゃく)性管理を一括で支援するサービスだ。この中にはセキュリティサービス群「VMware vDefend」とロードバランサー「VMware Avi Load Balancer」のアップデートが含まれている。

 さらにBroadcomは、コンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」で、広く利用されている主要OS「Ubuntu Pro」を顧客が利用できるよう、開発元であるCanonicalとの提携を拡大した。フォルク氏は「この提携は、従来型システムからクラウドネイティブ環境への移行が容易であることを市場に示す点で大きな意味を持つ。VCFはKubernetesワークロード分野でRed Hatといった競合に迫るだろう」と述べている。

中堅・中小企業への訴求強化

 2023年にBroadcomが約690億ドルでVMwareを買収した後、同社のサービスはバンドル提供となり、サブスクリプション(定額課金)方式に一本化された。その結果、契約更新時の価格が従来の8〜15倍に跳ね上がったという報告が相次ぎ、中堅・中小企業にとって大きな負担になるとの懸念が広がった。

 VMware Explore 2025では、そうした企業規模のユーザーでも仮想化サービスのメリットを享受できることをアピールしようとした。米国アイオワ州の保険会社Grinnell MutualのITインフラ責任者であるジェレミー・ライト氏は、自社での導入経緯を紹介した。ライト氏は「価格が大幅に上がったという話を耳にしていたため、その答えを求めて2024年のVMware Exploreに参加した。大企業には理想的に見えるが、少人数のITチームでも本当に使いこなせるのか疑問だった」。そう振り返る。

 しかしライト氏は、個別に管理していたストレージクラスタをVMwareのストレージ仮想化ソフトウェア「vSAN」に切り替えることで、約100万ドルのコスト削減が可能であることを確認したという。「VCFは当社にとって過剰な投資ではなく、小規模なチームでも無理なく活用できると実感し始めた」と語った。

 その後ライト氏は、他のソフトウェア更新の最適化や支出削減によって導入資金を捻出し、経営陣から正式に導入の承認を得た。「VCFは当社のインフラを根本から変革している。IT環境の統合の中心となり、従来のサーバやインフラという発想から、プライベートクラウドという“体験”を軸に考えるようになった」と述べた。

翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)

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