“AIで業務効率化”の落とし穴? 警戒すべき「ベンダーロックイン」と対策:加速する囲い込み戦略
大手ソフトウェアベンダーは、自社製品にAI機能を実装し、その便利さをアピールしている。しかしその裏では、自社製品にロックインする強力な手段としてAI機能を利用する動きもある。企業は何に警戒すべきか。
大手ソフトウェアベンダー各社が、自社製品におけるAI(人工知能)技術を活用したユーザー体験を押し出している。調査会社Forrester Researchの分析によると、こうした潮流には慎重な判断が必要だ。Forrester ResearchはMicrosoftやOracle、SAPなどのベンダーが提供するAI技術搭載製品には、厳格な財務管理が求められると指摘する。その上で、ITリーダーはシステムのオープン性(連携のしやすさ)を重視し、データが特定のシステム内で孤立する「サイロ化」を避ける必要があると警鐘を鳴らす。
AI技術がもたらす「ベンダーロックイン」の脅威
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ソフトウェアベンダーは、エンドユーザーの指示を受けて特定タスクを実行する「AIアシスタント」、自律的にタスクを実行する「AIエージェント」を、ソフトウェアを操作するための「新たなOS」に等しいものとして位置付けているとForrester Researchは分析する。
一方でForrester Researchは、「ベンダーの巧妙なデモに惑わされてはいけない」とも呼び掛けている。AIアシスタントやAIエージェントの価値は、企業が業務プロセスの見直しにどれだけ真剣に取り組むかにかかっているからだ。
Forrester Researchによれば、現在のエンタープライズソフトウェアにおける大きな課題は、AIモデルの性能そのものよりも、新しい業務フローに合わせて従業員を再教育することだ。再教育にかかる企業の負担は大きく、特定ベンダーの製品やサービスからの乗り換えを困難にする「ベンダーロックイン」のリスクを大幅に高める。結果として、それぞれの業務に最適な製品を自由に選ぶ余地が失われてしまう。
「単一ベンダーの製品やサービスに集中投資することは、リスクを集中させ、ユーザー企業が契約交渉における影響力を失うことにもつながる。これは、今後数年間の技術革新を単一のベンダーに委ねる賭けに等しい」と、Forrester Researchは警告する。
ITリーダーが取るべき戦略
Forrester Researchは、ベンダーが掲げる「オールインワン」という考え方に対抗するために、ITリーダーに対して「コンポーザブルエンタープライズ」(組み立て可能な企業)という発想でのシステム設計を助言する。これは中核となるシステムを定めつつ、サービス同士の連携を実現するクラウドサービス「iPaaS」(Integration Platform as a Service)やAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)などを活用する戦略だ。システムのオープン性やデータのエクスポート機能を評価することが、これまで以上に重要になっているという。
Forrester Researchによると、Salesforceの「Data Cloud」やSAPの「SAP Business Data Cloud」など、ベンダーは各自のデータ集約・管理システムを、自社のAIサービスへの商業的な入り口として位置付けている。ITリーダーは、ベンダーが自社製品やサービスにユーザー企業のデータを囲い込もうとする動きに抵抗することが重要だとForrester Researchは指摘する。IT部門は、データを1カ所に集めずに分散管理する「データファブリック」や「データメッシュ」といった設計を採用し、特定ベンダーに依存しない体制を築く必要がある。
「データガバナンスへの投資は、データに関する主導権を自社が握り、単一のベンダーや戦略に縛られず、データを連携できる形で実施すべきだ」とForrester Researchは述べる。
Forrester Researchは、データ集約・管理システムの製品化が、ベンダーによる割引の終了やセット販売の強制と連動しており、企業の予算に関するリスクを増大させることに懸念を示す。ITリーダーには、厳格なコスト管理、臨機応変なシステム設計、事業目標の明確化を柱とした、戦略的な行動が求められている。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。