「AIaaS」導入が失敗に終わってしまう“5つの共通点”とは?:導入前に自問すべき3つの問い
クラウドサービスでAI技術を利用する「AIaaS」(AI as a Service)を導入して成果を上げるには、事前の慎重な検討が欠かせない。AIaaS導入プロジェクトを進める上で、企業が明らかにしておくべき3つのポイントを解説する。
AI(人工知能)技術の導入に際しては、スタートアップから大企業まで、あらゆる規模の企業がさまざまな課題に直面する。周到な導入戦略を携えて導入に臨めば、AI技術は企業全体の働き方を一変させる力を持つ。
自社でAI技術を導入する場合、オンプレミスシステムの構築に伴う初期投資や、複雑なインフラを管理するための社内人材の確保が負担になる場合がある。これに対して、クラウドサービスとしてAI技術を利用する「AIaaS」(AI as a Service)は、そうした課題を解消する有用な選択肢になり得る。どの規模の企業でも、利用料金を抑えながらAI技術活用を始めることが可能だ。AIaaSは、サプライチェーンの自動化やEC(電子商取引)ツールの構築、医療診断、システムの予兆保全など、幅広い分野で活躍する。
クラウドサービスはAI技術導入のハードルを下げる一方で、データ準備やAIモデルの学習、学習済みモデルによる推論といった各段階で、特有の課題が生じることがある。本稿は、企業がAIaaSの導入戦略を検討する上で指針となる“3つの問い”とその答えを紹介する。
なぜ企業はAIaaSを選ぶべきなのか?
AIaaSという選択は、企業が従量課金制であるクラウドサービスを活用し、AI技術がもたらすビジネス上の成果を手に入れる近道になる。AIaaSの具体的な利点は以下の通りだ。
利点1.クラウドサービスへの順応性
大半の企業は既に何らかのクラウドサービスを導入しており、中にはその操作に慣れている従業員もいる。そのため、AIaaSの導入においても、全く新しいシステムを導入する場合と比べて従業員の学習コストを抑えやすく、比較的スムーズにAI技術を使い始めることができる。
利点2.費用の抑制
社内でAIモデルやAIアプリケーション開発体制を整えたりするために必要な人材、インフラ、資金が不足している企業にとって、AIaaSは特に有力な選択肢だ。AIaaSを導入すれば、既存のインフラを改修したり新たなインフラを構築したりすることなく、クラウドサービスとしてAIモデルやAIアプリケーションを利用できる。AIモデルの学習に不可欠な、膨大な計算能力を利用することも可能になる。
利点3.ビジネスへの集中
複雑なインフラ管理や不慣れなシステムの運用から解放され、企業は本来の目的であるビジネスの成長に集中できる。データに基づいた洞察を基に、プロセス自動化を実現したり、ベンダーの専門知識を活用して適切なAIモデルを選定したりといった、より戦略的な取り組みに人材や資金を投入できるようになる。
AIaaS導入を阻む主な課題は何か?
AIaaS導入の課題は業界ごとに異なるが、企業に共通する主な課題は以下の5つに集約される。
課題1.データの形式と品質
企業のデータは、部門ごとに分断(サイロ化)したシステムや、非構造化データを集積するデータレイクに散在しがちだ。AIモデル、特に大規模言語モデル(LLM)の学習にデータを利用するには、まずこれらのデータが適切な形式で整備されているかどうかを確認しなければならない。データが不完全であったり、不適切であったり、古かったりすると、AIモデルは誤った結果を導き出し、企業のAI技術導入にかけた労力が無駄になってしまう恐れがある。
課題2.既存システムとの連携
先進的なAIaaSを既存のレガシーシステムと連携させようとする際に、問題が生じやすい。旧式のソフトウェアや企業が独自にカスタマイズしたソフトウェアは、AIaaSとの間で互換性の問題を引き起こす可能性がある。AIaaSベンダーはAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)や学習済みAIモデルを提供して、企業のAIaaS導入を支援しているが、AIモデルの基礎となるアルゴリズムを変更することは難しいため、企業がのニーズに合わせてカスタマイズするには限界がある。
課題3.専門人材の不足
熟練したデータアナリストやAI技術の専門知識を持つ社内人材の不足は、企業にとって深刻な課題だ。企業はAIaaSベンダーと協力して、ベンダーの専門知識やツールを活用することによって、AI技術に関する社内の知見不足を補い、導入プロセスを円滑に進めることができる。
課題4.ベンダーの選定
AIaaSベンダーを選定する際は、自社データの形式や量と適合するサービスを提供しているかどうかといった基本的な要件に加えて、ベンダーの将来性を評価する必要がある。具体的には、企業の事業の成長に合わせてシステムを拡張できるかどうか、AIモデルは定期的に更新されているかどうか、将来的な処理需要の増加に応えられるかどうかといった点を、慎重に見極めなければならない。
課題5.セキュリティ体制
企業はデータガバナンスとコンプライアンスの観点から、セキュリティリスクの対策に取り組む必要がある。システム管理者やIT部門の責任者は、AIモデルの学習データの漏えいやプライバシー侵害を防ぐために、AIaaSベンダーが提供するセキュリティ機能と、自社独のセキュリティ対策の両方が適切に働いていることを確認すべきだ。
どうすればAIaaS導入を成功させられるか?
AIaaSの導入効果を増やすためには、社内の業務プロセスとAI技術をいかにうまく連携させられるかが鍵になる。AIaaSの導入を成功させるための具体的なベストプラクティスを以下に示す。
ベストプラクティス1.スモールスタートを心掛ける
AIaaS導入プロジェクトを進める上では、まずは試験的な取り組みから着手して、リスクを抑えた状態で小さく始めるべきだ。テストを繰り返して改善を加え、本格的にAIaaSを展開する準備が整ったら、段階的に展開規模を拡大していく。
ベストプラクティス2.自社の目的に合うベンダーを選ぶ
業務自動化、高度な顧客サービス、ITシステムの予測保守など、自社がAI技術で何を実現したいのかを明確にし、その分野に特化したベンダーを選ぶべきだ。そのベンダーが提供するサービスが、自社のデータ形式やデータ量を扱えるかどうかも確認する必要がある。自社のデータ保管場所を整理、分析し、AIモデルがデータをすぐに使える状態に整備しておくことで、AIモデルがより正確な結果を生成できるようになる。
ベストプラクティス3.データの品質を確保する
質の高いデータは高性能なAIモデルに不可欠であるため、適切なデータ管理重要だ。特に、顧客情報や機密データをどのように収集、配布、保護するのかを定めた明確な利用方針は、データの不適切な利用を防ぐ安全装置(ガードレール)として機能する。低品質なデータは、分析を複雑にするだけではなく、情報の陳腐化を招くなど連鎖的な問題を引き起こしかねない。
ベストプラクティス4.客観的な指標を設定する
企業はKPI(重要業績評価指標)を設定することで、AI技術導入の進展状況と効果を客観的に把握できるようになる。KPIを用いてROI(投資収益率)を算出し、AI技術への投資がどれだけの成果を生んでいるのかを評価すれば、短期および長期的な目標達成度を計測可能だ。
ベストプラクティス5.人材に投資する
従業員を対象としたリスキリング(再教育)プログラムは、従業員がAI技術を「仕事を奪う脅威」ではなく「業務を助けてくれるパートナー」と認識し、AIaaS導入プロジェクトに当事者意識を持つきっかけになる。AIaaSの導入は社内の専門知識不足を補う助けになると同時に、専門的なトレーニングも実施すれば、従業員がAI技術活用を本格化させ、絶えず変化するAI技術に適応するための知識やスキルを手に入れやすくなる。
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