検索
特集/連載

AIが勝手に買い物する時代へ Googleが示した「安全な決済」の仕組みとはAIエージェント決済の新基盤

AIエージェントが自動で商品を購入する新しいECの時代が近づいている。しかし「誰が承認したのか」「安全なのか」という課題が浮上している。

Share
Tweet
LINE
Hatena

関連キーワード

人工知能 | Google


 人間に代わり、AIエージェントが商品を探し、比較し、購入する――。そうした新しいeコマース(EC:電子商取引)の形が現実味を帯びてきた。この状況に対し、Googleは新しいオープンプロトコル「Agent Payments Protocol」(AP2)を発表した。AP2は、Mastercard、PayPal、American Expressなど60社以上と協力し、AIエージェント決済の安全性を確保するという。

AIエージェント決済が直面する課題

 AP2が向き合うのは、人が主導していたこれまでの決済とは性質の異なる課題だ。従来のECでは、ユーザーが自ら購入ボタンを押すことで意思を確認できた。しかしAIエージェントが自動で取引を始める場合、その承認プロセスは格段に複雑になる。

 特に重要な3つのポイントがある。1つ目は、そのAIエージェントが本当にユーザーの代理権限を持ち、正しい意思を反映しているかどうか。2つ目は、購入リクエストが途中で改ざんされていないかどうかという真正性。3つ目は、取引の流れを後から検証できる説明責任と監査可能性だ。これらの疑問に技術的に答えられる仕組みがなければ、AIエージェントによる決済は安心して利用できない。

Mandateによる信頼性の担保

 AP2の中心となる仕組みが、暗号署名付きのデジタル契約「Mandate」だ。Mandateは暗号署名によって改ざんを防げるデジタル契約で、ユーザーの購入意思や条件を確実に証明する役割を持つ。

 リアルタイムの取引では「Cart Mandate」が用いられる。ユーザーがエージェントに商品の検索や購入を依頼した際、最終的なカートの内容を確認して署名することで、商品と価格を不変の記録として残せる。これにより、合意していない支払いが行われるのを防止できる。

 一方、条件付きでの自動購入には「Intent Mandate」が使われる。例えば「コンサートチケットが発売されたら上限5万円で購入」といった指示を事前に条件付きで署名しておく仕組みだ。条件が満たされれば、AIエージェントは人の介入を待たずに自動で取引を完了できる。

既存プロトコルとの統合

 AP2は単独で機能するのではなく、既存の技術基盤と組み合わせて使えるよう設計されている。具体的には、AIエージェント同士が安全に通信するための「A2A」(Agent2Agent)プロトコルや、外部のデータやツールに接続するための「MCP」(Model Context Protocol)の拡張として利用できる。

 これにより、ユーザーとの対話から実際の処理、決済までを一貫して安全に行えるようになり、AIエージェントが複雑なタスクを安心して処理できる基盤が整う。

新興決済手段への対応

 AP2の大きな特徴の一つは、従来のクレジットカードや銀行振込に加え、ステーブルコインや暗号資産といった新しい決済手段にも対応している点だ。Googleはすでに以下のような組織と連携し、AIエージェントによる暗号資産決済を実際の環境で利用できるよう準備を進めている。

  • 暗号資産取引所Coinbase
  • Ethereumの開発や普及を支援する非営利組織Ethereum Foundation
  • 暗号資産ウォレットのMetaMask

業界の期待と今後の展望

 以下のような幅広い企業がAP2を支持している。

  • Adyen、Ant International、UnionPay Internationalといった決済基盤事業者
  • Airwallex、Fiuu、Garena、Razerなどのアジアのテクノロジー企業
  • Lazada、Shopeeといった東南アジアの大手EC事業者

 その背景には、AIエージェント決済市場が急速に拡大すると見込まれていることがある。

 Airwallex共同創業者兼CTOのジェイコブ・ダイ氏は「AP2は、安全で相互運用可能なAIエージェント決済のエコシステムを実現する上で大きな前進だ」と評価する。Google Cloud東南アジア地域の事業統括責任者マーク・ミカレフ氏は、同地域のデジタル経済が、2024年までにECやオンラインサービスを通じて2630億ドルを超える規模に成長すると予測した。その上でAP2が「安全な取引の中心的役割を担い、業界全体に新たな革新の機会をもたらす」と強調している。

オープン開発による普及促進

 GoogleはAP2の技術仕様やドキュメント、参考実装をGitHubで公開し、幅広い開発者コミュニティーからの参加を呼び掛けている。オープンな開発体制によって相互運用性を確保し、エコシステムの拡大を加速させる狙いだ。

 AIエージェントが日常的に買い物を代行する時代を見据え、AP2が業界標準として定着するかどうかが今後の焦点となる。

翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る