なぜOpenAIはNVIDIAともAMDとも提携するのか 「両てんびん」の真意は?:“二股”戦略の狙い
AIツールの開発に不可欠なGPUを巡り、OpenAIがNVIDIAに続きAMDとも契約を結んだ。しかしAMD製GPUには、性能以外の面で「見過ごせない弱点」も指摘されている。それでもOpenAIが2社と手を組む思惑は何か。
OpenAIは2025年9月22日(米国太平洋時間、以下同じ)、NVIDIAとの間で、電力消費量が10GW規模に相当する計算インフラをデータセンターに導入する契約を締結した。その約2週間後である同年10月6日に、今度はNVIDIAの競合であるAMDともデータセンターに関する契約を結んだことを発表し、業界に衝撃を与えている。
なぜNVIDIAとの契約だけでは満足できないのか
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ベンダーのGPU戦略
OpenAIとAMDの契約は、AMDのGPU製品「Instinct MI450」シリーズを、まず1GW規模の計算能力として購入するという契約を前提とする。Instinct MI450は、NVIDIAのGPU(グラフィックス処理装置)アーキテクチャ「Blackwell」搭載製品ファミリーへの対抗と位置付けられる製品だ。加えてOpenAIは、AMD製GPUの導入規模が合計6GWに達した場合、AMDの発行済み株式の最大約10%を取得できる新株予約権(ワラント)も得る。
AMDとOpenAIはこの提携を通じて、「増大し続けるAIモデルの計算需要に応えるためのインフラを構築する」と発表した。
「OpenAIとの提携は当社に数百億ドル規模の収益をもたらすと同時に、OpenAIのAIインフラ構築を加速させる。両社にとって戦略的に重要であり、株主価値を大きく高めるものだ」。AMDでCFO(最高財務責任者)兼財務部長を務めるジーン・フー氏はこう述べる。
この契約に先立って、OpenAIは2025年9月22日、NVIDIAともGPUに関する契約を結んでいる。その際、OpenAIの共同創業者兼社長であるグレッグ・ブロックマン氏は、「私たちはNVIDIAの技術は、何億人もの人が使うAIツールの開発を支えてきた。10GW規模の計算能力を導入し、AI技術の恩恵を人々に届けたい」と語った。
今回のAMDとの契約について、ブロックマン氏は次のようにコメントする。「AIの未来を築くには、ハードウェアベンダーとソフトウェアベンダーの緊密な連携が不可欠だ。AMDと協力することで、世界中の人々に恩恵をもたらすAIツールを大規模に展開できるようになる」
OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏もAMDの技術を称賛し、「今回の提携はAI技術の潜在能力を引き出す計算能力を確保する上での大きな一歩だ。AMDのGPUは当社の進歩を加速させ、高度なAI技術の恩恵をより速く、より多くの人々に届けてくれる」との意見を示す。
一方でアルトマン氏は、NVIDIAとの契約時には次のように述べた。「計算インフラは未来の経済の基礎になる。当社はNVIDIAと築くインフラを活用して、AI分野で新たなブレークスルーを起こし、人々と企業がその恩恵を享受できるよう尽力する」
これらの発言から明らかなのは、OpenAIが自社のAIインフラの拡充が急務であると考えており、その目標達成のためにNVIDIAとAMDの両社と手を組むという明確な戦略だ。
OpenAIがNVIDIAと結んだ契約の規模は、AMDと結んだものよりも大規模だが、この契約からはAMDが2024年にAI分野へ大々的に進出したことが実を結び始めていることがうかがえる。
戦略を確固たるものにするAMD
2025年7月、調査会社Forrester Researchのシニアアナリストであるアルビン・グエン氏は、2028年に起こるであろう「AI推論革命」に向けてAMDが進めている準備を分析した。グエン氏によると、AMDは同月に開催したイベント「Advancing AI 2025」で、自社の旧世代製品「MI300A/X」と、NVIDIAのGPU「GB200」「B200」の性能比較を公表した。「この動きは、AMDが自社のAIアーキテクチャとその計算能力に自信を持っていることの表れだ」とグエン氏は指摘する。
グエン氏は、AMDがオープンソースの開発環境「AMD ROCm」を提供している事実に触れ、次のように説明する。「これはオープンな開発環境を推進する同社の姿勢を示すものであると同時に、将来の計算需要拡大に合わせて規模を拡大できる、企業向けAIツールの実現を目指す強い意志も反映している」
実際に2025年10月時点で、サーバ向けプロセッサのベンチマーク「PassMark」では、絶対性能においてAMD製品がランキング上位を独占しており、競合相手であるIntel製品を圧倒している。価格性能比の面でも、AMD製品は競争力を誇示している。AMDは、CPU市場での成功をGPU市場でも再現し、AI処理を高速化するハードウェアがもたらす巨大な成長機会をつかもうと狙っている。
ただし、半導体分野の調査企業SemiAnalysisは、高性能なAMD製GPUは、同等のNVIDIA製GPUよりも総所有コスト(TCO)で優れる一方、専門的なクラウドベンダーからレンタルする場合の価格は割高になる傾向にあると分析する。これは主に、NVIDIA製ハードウェアの方が市場で入手しやすいためだ。
OpenAIから収益を得ることで、AMDは自社製GPUの供給状況を改善させる可能性がある。そうなれば、オンプレミスシステムでAIインフラを構築しようとする企業が恩恵を受けるだけではなく、AIインフラを提供するベンダーの調達費用の削減にもつながり得る。その結果、企業がクラウドサービス経由でGPUを利用する際のレンタル価格が下がることにも期待できる。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。