「AIが仕事を奪う」は本当か?──Amazon、IBMなど相次ぐ“人員削減ラッシュ”の衝撃:中長期的にはメリット?(1/2 ページ)
Amazon.comやIBMなど米国の大手IT企業が相次いで人員削減を計画している。AI技術の普及に伴う人員削減という見方があり、雇用減少を懸念する声が上がる一方、中長期的にはメリットが大きいという主張もある。
人工知能(AI)技術の活用を見据え、米国で大手IT企業の人員削減が相次いでいる。Amazon.comは2025年10月、事業部門の従業員1万4000人を削減すると発表した。Microsoftも5月と7月に人員削減を発表。IBMも2025年末までに人員削減を計画していると報じられた。AI技術の普及に伴い、雇用減少を懸念する声は少なくない。一方、中長期的には労働者にメリットが大きいという見方もある。
Amazon.comが人員を削減する理由
Amazon.comの人員削減は、AI技術の普及に伴う人員配置の適正化という見方がある。同社のテクノロジー部門上級副社長ベス・ガレッティ氏は、従業員に宛てた通知で「当社の業績が好調なのに、なぜ人員削減をするのかと疑問に思う人もいるかもしれないが、世界は急速に変化している」と述べ、人員削減の要因の一つがAIであることを明かした。
「AIはインターネットの登場以来、最も革新的な技術だ。既存の市場にとどまらずあらゆる領域で、かつてないスピードでイノベーションを起こしている。われわれは顧客とビジネスのために、組織の階層を減らし、機動的で無駄のない組織でなければならない」(ガレッティ氏)
人員削減の動きは、Amazon.comに限らない。IBMも2025年末までに人員削減を計画していると、ロイター通信などが報じた。人員削減の要因がAIに起因するかどうかは明かしていないが、報道によると、全世界の従業員数27万人(2024年12月時点)のうち1桁台のパーセントの人員を削減する見通しだ。Microsoftも2025年、AI技術への投資に伴うコスト削減などのため、2度の人員削減を発表した。
こうした動きに対し、AIを理由とした雇用減少を懸念する声は少なくない。米国の調査会社Challenger,Gray&Christmasによると、米国企業が2025年1〜9月に発表した人員削減の人数は94万6426人に上り、2024年の同時期と比べると55%増の水準だ。このうちテクノロジー関連企業の人員削減は、10万7878人を占める。
Challenger,Gray&Christmasは「テクノロジー企業は、AI技術による信じられないほどの混乱に直面しており、雇用が減るだけではなく、特にエントリーレベルのエンジニアにとって、仕事を得ることが難しくなっている」と指摘。「テクノロジーリーダーは、AIが仕事の性質を変えていると強調しており、従業員に対してAIに関するトレーニングを求めることが増えている」という。
AI技術の普及に伴い、雇用が減少するというのは、中長期的には「限定的」という見方もある。調査会社Gartnerのシニアディレクターアナリスト、ネイト・スーダ氏は「Amazon.comの人員削減は、一部の分野でコストを削減し、優先度が高いAIやクラウドなどの分野に投資するための戦略的な人的資本の再配分だ」と主張する。AI技術の普及によって役割が不要になった従業員を解雇するのではなく配置転換を図るという動きで、Gartnerは「人材リミックス」と呼んでいる。
AI技術による生産性向上を、好意的にみる研究もある。シンクタンクのThe Autonomy Instituteは2023年11月に発表した報告書の中で、「大規模言語モデル(LLM)による自動化は、生産性を高めながら労働時間を短縮できる可能性がある」と指摘。AI技術を活用すれば生産性が向上し、2033年までに英国の労働者880万人が週休3日を実現でき、約2800万人の労働時間を10%削減できると試算している。
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