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アマゾンのレイオフに見る、AI時代に生き残れる企業やエンジニアの特徴は?自動化“だけ”では変われない

Amazon.comは2025年10月、1万4000人の従業員を削減すると発表した。ある専門家はこの動きを、AI技術の普及に端を発した動きではなく、企業の将来的な在り方を見据えた取り組みであると指摘する。

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 2025年10月、Amazon.comは事業部門の従業員1万4000人を削減すると発表した。対象となる部門はAmazon Web Services(AWS)、デバイス、動画配信サービス「Prime Video」、広告、物流、人事などだ。同社の発表では、人員削減の理由として、従来のような経済的な不確実性ではなく、「人工知能(AI)を中心とした組織変革」を挙げた。

 だが、ある専門家は「AIによる生産性向上が直接的な引き金になったわけではない」と指摘する。むしろ、Amazon.comの人員削減からは、AI技術の活用で業務効率化を目指す企業や、これからのキャリアを構築していくITエンジニアにとって学びがあるという。

Amazon.comからの学びは

 調査会社Gartnerのネイト・スダ氏(シニアディレクターアナリスト)は、AIによる生産性向上と今回のAmazon.comの人員削減の関連性は、あってもごくわずかだと説明する。同氏は、「Amazon.comが実施した2025年前半の人員削減のうち約8割はAIとは無関係であり、AIによる生産性が直接の要因だった事例は1%にも満たない」と指摘する。

 Gartnerによると、Amazon.comの動きはAIによる省力化ではなく、Gartnerが「talent remix」と呼ぶ、優先度の高い事業分野へのリソースの再配分を指すものだ。人員削減自体は発生するものの、それはAIによって職務が不要になったからではなく、事業の重点分野に合わせて、従業員を再配置しているのだ。「AIインフラやクラウド投資に資源を集中させることであり、従業員の役割そのものをAIに置き換える動きとは異なる」とスダ氏は述べる。

 Futurum Groupのデイブ・ニコルソン氏(エグゼクティブアドバイザー)も、「今回の人員削減は、AIによる即効的な効率化というよりも、AIサービスの提供体制を支えるための先行的な取り組みだ」と語る。

 こうした動きに対し、DeVry Universityのクリス・キャンベル氏(CIO)は「IT部門の未来は、AIと協調できる、より少数精鋭の専門的なチームに再構成される」とIT企業全般の将来像を見通す。

 Amazon.comのようにAI関連の変革を背景に管理層の削減を進める企業が増えている。業務の遂行速度や効率を注視するあまり、従業員を管理するための職位や階層といったルールの縮小と、役割構造のフラット化を進めれば、企業の中でガバナンスやリスクへの影響を過小評価する動きが発生する恐れがある。ニコルソン氏は、「AIがあるからといって、フラット化に伴う統制リスクが軽くなるわけではない」と警鐘を鳴らす。

 スダ氏は、AI技術を使った業務の自動化や効率化に伴う最大のリスクとして「経験の枯渇」を挙げる。従来は、ベテランの従業員が業務に関する知見やノウハウを、経験を積む過程にある従業員に共有することで、従業員の成長は促されてきた。一方AIツールの導入や利用が進めば、ベテランの従業員は経験を積む過程にある従業員の手を借りずにAIツールを活用するようになる。その結果、経験を積む過程にある従業員はベテランの従業員の業務に関与する機会を失ってしまう。しかし、AIツールは人間の従業員が経験に基づいて培ってきた判断力を、人間の従業員に継承することはできない。

 その結果、企業は将来のリーダー候補となる人材を育てる機会を失い、未来のリーダー層を消滅させてしまう可能性がある。

 企業の中には、AIツールの稼働を見込んだ人員計画を検討する際、どの役割を自動化できるかという問いからアプローチしがちだ。「この問いは直感的ではあるが、課題を根本的に単純化し過ぎている」とスダ氏は指摘する。

 Forrester Researchのマーク・モッチア氏(バイスプレジデント兼リサーチディレクター)は、役割ベースではなくタスクベースでの見極めが重要だとし、自動化に適した業務の棚卸しに際して以下3ステップで考えることを提案する。

  • 繰り返し可能で、変化の少ない業務から着手する。
    • 人間の従業員の判断が多く必要で、結果が多様になる業務は、最後まで取っておく。
  • 業務の優先度とリスクを加味して、以下の観点から選定する。
    1. ビジネスへの効果が高いか
    2. エラーのリスクが低いか
    3. 企業の優先事項に合っているか
  • 役割への影響を見極める
    • 業務単位での分析を行った後に、役割全体の変更を検討する。いきなり職種や部署の再編を考えるのではなく、まずは個々の業務から見直す。

 ニコルソン氏は「AIツールが生成する成果物を自分の仕事としてそのまま出せるか?」と問うよう提案する。「答えが『NO』である限り、そこには人間の判断が必要ということだ」

 「最も重要なのは、人員を減らすことではなく、どう再配置し、どうプロセスを再設計するかだ」。キャンベル氏はこう述べる。

 「まずプロセスを見直し、次に自動化する。そして、そのプロセスを正しく運用できる人材を残すことがAI時代の原則だ」と同氏は強調する。

 AIツールを使った業務の自動化と従業員の配置を見直すだけでは、本質的な組織の変革にはならない。Amazon.comが示すように、AI時代の再構成は、従業員、技術、ガバナンスの三位一体でなければ持続しない。企業のITリーダーは、リストラを“終わり”ではなく“再設計の始まり”と捉えるべきだ。

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