「脱VMware」の新たな選択肢 中小企業が注目するeuroNASの仮想化OSとは:コスト面と運用の両面で現実的な選択肢となるか
BroadcomによるVMwareの買収を受け、仮想化環境の見直しを迫られる中小企業が増えている。そのような中、欧州発のHCIが新たな選択肢として注目されている。
「脱VMware」したい――。中小企業のIT部門でVMware(Broadcomが2023年11月に買収)のハイパーバイザー「ESXi」やストレージ仮想化ソフトウェア「vSAN」に代わる製品を探しているのであれば、euroNAS社のHCI(ハイパーコンバージドインフラ)「Enterprise Virtualization OS」(以下、eEVOS)は選択肢の1つだ。同製品の詳細を紹介する。
脱VMwareでeEVOSが選択肢となる理由
「当社の名前があまり知られていないのは、これまでの売り上げの80%が、ストレージベンダーへのOEM提供(ホワイトボックス製品への組み込み)によるものだったからだ」。EuroNASでCEOを務めるトゥブルトコ・フリッツ氏はそう語る。
フリッツ氏は具体的な企業名を明かさなかったが、テレビドラマ『Game of Thrones』シリーズを手がけた米国の制作会社やBBCなど、メディアのポストプロダクション分野で業績を上げているという。
「euroNAS社のパートナー企業数社が、Nutanixと競合するようになった経緯があった。その中で、ストレージ管理ソフトウェアベンダーである当社に、仮想化製品も提供してほしいという要望が上がった」とフリッツ氏は説明する。続けて、「2023年のBroadcomによるVMware買収完了後、2024年に価格が刷新された。そのことに不満を持ちBroadcomから流出したユーザー企業からのHCIへの需要が爆発的に高まった。こうして当社は本格的にvSANと競合するようになった」と語る。
中小企業をターゲットとするVMwareの代替サービスはeEVOSだけではない。フリッツ氏は、eEVOSの競合製品である、オープンソースの仮想化プラットフォームベンダーProxmox Server SolutionsのProxmox Virtual Environment(以下、Proxmox VE)を挙げて次のとおり説明する。「Proxmox VEには無料版が存在するのに対し、当社製品は有料だ」。「最初はこの点を懸念した。しかし、eEVOSにはProxmox VEにはない強みがある。eEVOSはVMwareやNutanixの製品のようにデータを可視化できる。Proxmox VEが可視化できるデータとは範囲に差がある」と語る。
フリッツ氏はProxmox VEの操作性について、以下の見解を示す。「Proxmox VEを使いこなすには、OS『Linux』の知識が求められる。単純な作業でさえ、コマンドラインに何を打ち込むべきかドキュメントを何ページも読んで調べなければならない場合がある」
euroNAS社は創業当初から、複数のドライブを搭載したサーバを、共有ストレージNAS(ネットワーク接続ストレージ)として機能させる同名製品を提供してきた。Appleのファイル共有プロトコル「Apple Filing Protocol」をはじめあらゆるプロトコルに対応している。
euroNASは、以下の技術を利用する複数の外部ストレージに接続し、高速かつ信頼性の高い共有ストレージ環境を提供する。
- ファイバーチャネル(Fibre Channel)
- 光ファイバーや同軸ケーブルを使うデータ転送技術
- iSCSI(Internet Small Computer System Interface)
- SAN(ストレージエリアネットワーク)を構成する際に使われるストレージインタフェース
- NVMe-oF(NVMe over Fabrics)
- フラッシュストレージ専用に開発された転送プロトコルNVMeをイーサネットやファイバーチャネルに拡張する仕組み
信頼性の確保には次世代ファイルシステムZFS(Zettabyte File System)を採用している。ZFSは以下の機能を備えている。
- ソフトウェアRAID
- 複数台のストレージデバイスを1台にまとめ、冗長化や読み書きのパフォーマンを向上させる仕組みであるRAIDを、ソフトウェアを使って実施する仕組み
- データ圧縮
- スナップショット
- ファイルやストレージのある時点の状態を記録したもの
フリッツ氏によると、euroNASはHDDベンダーSeagate Technologyのブロックストレージシステム「Exos CORVAULT」と組み合わせて使われることが多いという。Exos CORVAULTは、数百台のドライブを搭載可能で、最大2.5PB(ペタバイト)の容量を提供する。しかし、Exos CORVAULT単体は、サーバのストレージ領域の役割を担うことしかできない。
Exos CORVAULTとeuroNASを組み合わせることで、SSDを搭載したサーバ経由での高速な共有アクセスが可能となり、データはグラフィカルなユーザーインターフェース(UI)でインデックス化される。3台のユニットを組み合わせることで、最大7.5PBの単一ボリュームとして運用することも可能だ。
Exos CORVAULTとeuroNASの組み合わせは、高可用性クラスタ(HAクラスタ)の登場によりその信頼性が一段と向上したとフリッツ氏は説明する。この構成では、2台のeuroNASサーバが1台のExos CORVAULTストレージを共有して管理し、障害に備えて連携する。
2016年には、「euroNASの製品で『仮想マシン(VM)を実行できるようにならないか?』と尋ねられるようになった」とフリッツ氏は振り返る。「当時、NutanixのHCIが当社のパートナーと競合していた。実質的には、サーバベンダーSuper Micro Computerのサーバ上で動作するストレージシステムで、バックアップアプリケーションの実行とデータ管理の機能が可能だった」(同氏)
「この実現は容易に見えた」とフリッツ氏は言う。続けて同氏は、「当社のシステムにはLinuxカーネル(OSの中核ソフトウェア)に統合されたオープンソースのハイパーバイザー『KVM』が搭載されていたからだ」とその理由を述べる。
ただし、KVMには好ましくない点もあったという。「特に不満だったのはスナップショットの仕組みだ。データの復元時に“合成スナップショット”を生成しなければならず、仮想マシンのサイズによっては復元に数時間かかることもあった。そこでeuroNASは、KVMをベースに独自技術を開発し、スナップショットのためのファイルの複製技術を実装した」(フリッツ氏)
2024年時点で、eEVOSは中小企業がVMware製品で稼働させていたさまざまな仮想マシンアプリケーションの多様なワークロードを十分に処理できるほど堅牢(けんろう)ではなかったとフリッツ氏は述懐する。
フリッツ氏は、「問題は仮想化の処理能力ではなく、拡張性にあった」と語る。「VMwareやNutanixの顧客は、必要に応じてサーバを段階的に追加し、シームレスに拡張できる機能を求めた。しかし、ZFSではそれは不可能だった。そこでeuroNASはZFSをオープンソースの分散ストレージソフトウェア『Ceph』に置き換えた」(同氏)
この切り替えが機能したことから、euroNASは2025年、従来型のストレージ製品にもCephを採用することにした。
新たなバージョンは「eEKAS」と呼ばれている。eEKASは拡張性に優れたストレージ市場におけるeuroNASの新たな展開の主力となる見込みだ。主なターゲットは、従来から同社が強みを持つ映像制作の分野である。この分野では、Dellの「PowerScale」や、Hewlett Packard Enterpriseの「Qumulo」といった競合製品が存在する。
2025年9月時点、eEVOSとeEKASのクラスタは最大60ノードまで拡張可能だ。
従来、euroNASの年間売り上げは約500万ユーロ(約8億8500万円)だった。しかし「次の決算では2000万〜3000万ユーロ(約35億4000万円〜約53億1000万円)を達成する見込みだ」とフリッツ氏は述べる。
同氏は、「従来は1社の顧客に対して1〜2台のeuroNASサーバ用に1ライセンスを販売していた。」と語る。続けて、「これからは、クラスタ全体に対してライセンス販売を進めていく。最近、60ノード構成のeEVOSの契約を結んだばかりだ。この構成のカタログ価格は90万ユーロ(約1億6000万円)だ。仮に半額の割引を適用するとしても、当社の売り上げが急増することは明らかだ」と述べる。
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