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PCも情シスも足りない ないものだらけの企業がWindows 11移行を乗り切るにはWindows 11移行期に陥る「調達の限界」

Windows 10のサポートが終了した。一方2026年は、メモリ価格の高騰と需要集中で法人向けPCを調達しにくい状態だ。予算不足を突破し、経営層を納得させる“一斉更新に頼らない”新戦略とは。

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 「Windows 10のサポートが終わっているのは分かっているが、まだ使えないか?」「見積もりを取ったら想定より高額だった」「PCの台数は確保できそうだがキッティングや管理を担う人員が足りない」「とりあえず今年は延命で様子を見よう」――。

 これらの会話は、特定の企業だけに見られる特殊な状況ではない。Windows 10のサポートが終了した結果、このような言葉を耳にしたIT部門の従業員はいるはずだ。Windows 11への移行が必要であることは、もはや誰の目にも明らかだ。しかし、いざ具体的な調達計画を立てようとすると、予算や人手といった現実的な制約が立ちはだかり、判断が先送りされてしまう企業もある。

 現場からは、現状のPCに対する不満が寄せられる。一方経営層からは、コスト抑制や予算削減の圧力がかかる。その板挟みの中で、現実的な落としどころとして選ばれがちなのが、「延命」という判断だ。

 重要なのは、2026年のPC調達が単なる買い替えの問題ではなく、価格、供給、人員という複数の制約が同時に発生するという構造的問題になっていることだ。従来通りの進め方を前提にしていると、判断も運用も気付かないうちに限界を迎える可能性がある。

なぜ2026年にPC調達が一気に難しくなるのか

 2026年を境に、PC調達を取り巻く環境は変わりつつある。その背景には、短期的には解消しにくい複数の要因が重なっている。

要因1.メモリの製造

 近年、法人向けPCの価格は下がりにくい傾向にある。調査会社IDCが2025年12月に発表した調査(注1)はその要因として、「メモリチップを中心とした半導体供給の逼迫(ひっぱく)」を挙げている。メモリベンダーは、スマートフォンやPC向けの従来型DRAM(Dynamic Random Access Memory)やNAND型フラッシュメモリの製造を縮小。AI(人工知能)データセンター向けメモリに製造能力をシフトしているという。限られた製造能力を、PCだけでなくスマートフォン、データセンター向けサーバ、AI関連設備が奪い合う構図だ。

 IT部門からすると、AI投資の拡大は一見すると自分たちの業務とは無関係と感じられるかもしれない。しかし、さまざまな設備や製品と共通の半導体リソースを使っている以上、その影響は法人向けPCにも及ぶ。

 従来は、PCのモデルチェンジのタイミングや年度末を待てば価格が落ち着く、という経験則が通用していたと考えるIT部門のリーダーもいるだろう。しかしその前提は崩れつつある。価格が下がるのを待つ判断が、結果的に調達条件を悪化させる可能性すらある。

 例年どおりの価格水準を前提に調達計画を立てることが難しくなっている点は、IT部門にとって厳しい変化だ。

要因2.Windows 10のサポート終了で需要が集中

 もう1つの要因が、Windows 10のサポート終了だ。Windows PCを使う企業が同じタイミングで移行を迫られることで、法人向けPCの需要が一斉に発生した。

 この動きは、大企業だけに限らない。中堅・中小企業も同時期にPCの調達に動く。そのため、見積の取得に時間がかかる、納期が不透明になる、在庫が安定しないといった状況が起きやすくなる恐れもある。

 IT部門の従業員の中には、これまで計画的に進めてきたPCの調達が、状況依存の判断になりつつあると感じる人もいる。調達時期や条件を自分たちで完全にコントロールできない経験は、PCの更新担当者にとってストレスになる可能性もある。

見落とされがちな本質

 PC調達の議論では、価格や台数といった数字がテーマとなりがちだ。しかしIT部門の実務という観点で見ると、負担があるのは調達後の運用だ。

1.PC管理の人員不足

 PCレンタルサービスのSSマーケットが2025年10月に発表した調査(注2)によると、PCの調達、運用、管理を兼任で対応していると答えた回答者は61.4%だった。専任のIT部門の要員を確保できているケースは少なく、他業務との兼任が当たり前になっているという企業もある。

 その結果、PCを調達できたとしても、キッティングや更新作業が追いつかなくなる場合がある。特にPCのキッティングや更新作業は、「業務計画に組み込まれた定常業務外の作業になりがち」という企業もある。

 「PCの更新作業が後回しになり、その状態が常態化する。その結果、更新作業が定着しない運用が続く」という問題も起こり得る。この問題は、IT部門の努力不足ではなく、構造的な制約によって生まれる。

2.予算不足と交渉力の弱さが生む悪循環

 PCの価格高騰と必要なPCの台数が重なると、予算がオーバーする企業も出てくる。しかし、PCベンダーとの交渉において、予算オーバーは交渉の材料としては弱いと見なされる場合がある。

 その結果、更新対象のPCの台数を少なくする、スペックを下げる、更新せず延命を選ぶといった判断を下すという選択肢を選ぶ企業もある。これが人手不足と重なり、老朽化したPCが残り続けるという構造が生まれる。

 この悪循環は、短期的にはコスト削減という結果につながる。中長期的には、セキュリティリスクや運用負荷の問題が蓄積する。

2026年のPC調達を整理するための枠組み

 こうした状況下で、「全端末を一気に入れ替える」ことを前提に考えるのは困難だ。ここでは、IT部門が整理すべき視点を提示する。

1.まず整理すべき3つの視点

 1つ目は、本当に全台数の同時の更新が必要かという視点だ。全従業員に同じスペックのPCを配る前提を疑い、業務や部門、稼働時間といった要素で状況を切り分ける。高スペックのPCを必要とする業務とそうでない作業では、PCに求められる性能も更新の優先度も異なる。CAD、開発、データ分析など高負荷業務に必要な端末と、メールや文書の作成が中心の事務作業を仕分ける。

 2つ目は、スペックが適正かという視点だ。前回のPC調達時に想定したCPUやメモリ性能が、実際の業務でどの程度使われていたかを振り返る。利用実態を踏まえ、標準構成と高性能構成を分けて設計できないか検討する。

 3つ目は、PCの運用や管理を十分にこなせる業務体制になっているかという視点だ。一斉更新を前提とせず、OSサポートやセキュリティリスクといった条件に基づき、対象の端末から順次更新する運用に切り替える余地はないかを考える。台帳管理も、あらゆる情報を網羅することを目的にせず、OS、利用部門、業務上の重要度など、判断に必要な情報に絞ることが現実的だ。

2.パターン別に考える

 全社一斉更新を前提にしないと決めた場合、IT部門に求められるのは、個別の事情に振り回されずに判断できる軸を持つことだ。

 まず検討すべきは、全社一斉リプレースが現実的かどうかである。PC本体の価格高騰などにより予定台数を確保できない場合、無理に全社分をそろえようとするよりも、調達可能な条件を前提に計画を引き直す方が合理的なケースもある。

 次に、部署や業務単位での段階導入を考える。全ての業務が同時に最新のPCを必要としているわけではないという企業もある。業務の性質に応じて更新の優先度を分けることで、限られた予算や人手を重点的に使う対象を“見える化”していく。

 合わせて、標準構成の見直しも重要だ。高負荷業務と事務作業を同じ構成で扱う前提を改め、必要な業務にだけ高性能構成を割り当てることで、コストと供給の両面で現実的な設計が可能になる。

 さらに、調達や管理プロセスの簡素化も検討したい。例外対応や個別判断が増えるほど、IT部門の負荷は高まる恐れがある。IT部門以外でも対応できる作業を切り出し、運用負荷を軽くする視点も欠かせない。

 全社一斉更新をやめることは妥協ではない。制約を前提に運用を安定させる現実的な選択肢である。

IT部門が今からできること

 2026年のPC調達に向けて重要なのは、価格や台数の議論だけではない。IT部門が業務のボトルネックにならないためには、調達そのものよりも運用をどう回すかという視点を固めておく必要がある。

1.「いつ買うか」ではなく「どう回すか」を先に決める

 まず意識したいのは、個別対応や例外判断を前提にしないことである。人手が限られている状況で、都度の判断や特例対応が増えれば、その分だけIT部門の負荷は積み上がっていく。

 キッティングや台帳管理、更新作業まで含めて、現実的に対応できる台数がどこまでかを見極めることが重要だ。管理しきれない規模の調達を前提に計画を立ててしまうと、結果として更新が滞り、運用が破綻しやすくなる。

 全ての端末を一律に更新するという考え方を一旦横に置くことも一考だ。業務内容やリスクを踏まえたうえで、延命が許容できる端末と、優先的に更新すべき端末を切り分け、その判断を運用に組み込んでおく。

2.調達判断を属人化させない

 次に重要なのが、PC更新の判断を特定の担当者の感覚に依存させないことである。OSのサポート期限やセキュリティ要件、性能といった条件をあらかじめ整理し、それに基づいて更新可否を判断する仕組みを作る。

 更新基準を明示しておくことで、経営層や現場に対して「なぜ今年は更新しないのか」「なぜこの端末は優先されるのか」を説明しやすくなる。説明に毎回苦労しなくて済むことは、IT部門の精神的な負担を減らす効果にもつながる。

 判断理由を毎年ゼロから作り直すのではなく、同じ基準で判断し続けられる状態を維持することが重要だ。調達判断を仕組みに落とし込むことが、結果として情シスを守ることにもつながる。

まとめ:2026年はPC調達の設計力が試される

 2026年のPC調達は、IT部門の設計力が問われる年になる。メモリやPC本体の価格高騰、供給不安、人手不足は短期では解消しない。だからこそ、台数や部署単位ではなく、業務リスクを基準に判断し、一斉更新をやめ、回し続ける前提で運用を設計することが重要になる。

 全部を買い替えるかどうかではなく、限られた条件の中でどう回し続けるか。2026年のPC調達は、その問いに正面から向き合うタイミングである。

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