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“iPhone一強”は終わり? 現場で「Android Enterprise」が選ばれる理由2026年のモバイルデバイス注目トピック7選【前編】

業務用のモバイルデバイスOSとして企業が「iOS」に信頼を寄せる一方、現場では「Android Enterprise」による管理を前提とした「Android」の採用が進みつつある。モバイルワークの在り方はどう変わるのか。

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 企業におけるモバイルデバイスは、単なる「メールチェック用デバイス」から、現場の生産性を左右する「業務インフラ」へと進化しており、現代のビジネスにおいて欠かせない存在となった。企業が生産性とセキュリティを維持しつつ、従業員の多様な働き方を実現するための新しいモバイルツールや技術が次々に登場している。

 ただし、モバイルデバイスを導入して使えばよいというわけではない。高騰する運用費、複雑化するOS管理、AI(人工知能)ツールの搭載による新たなデータ漏えいリスクなど、情シスが解決すべき課題は山積みだ。「うちはiPhoneだから安全だ」という考えの企業は、手痛いしっぺ返しを食らうことになる可能性がある。本稿は、2026年に企業向けモバイルデバイス分野で注目すべき7つのトレンドのうち、従業員の働き方に関わる4つを紹介する。

1.「Android Enterprise」が現場の“標準”に

 2026年には、「Android」デバイスを企業で管理するための機能「Android Enterprise」がエンタープライズモビリティ管理(EMM)の標準機能として、その地位をより強固なものにするだろう。2014年に提供開始されたAndroid Enterpriseは、企業がAndroidデバイスやAndroidアプリケーションを簡単かつ効果的に利用、管理、保護するための仕組みを備える。

 一部の企業はAndroidの採用に消極的だった。セキュリティへの懸念、既存の業務システムとの連携の難しさ、開発や最適化にかかる費用や工数の大きさなどが障壁になっていたからだ。Android Enterpriseは、企業での利用に特化したEMMツールやサービス、API(アプリケーションプログラミングインタフェース)を提供することで、上記の課題を解消している。

 これらの仕組みはサードパーティー製のEMMサービスと連携して動作するため、企業は社用デバイスの登録、プロビジョニング、管理をスムーズに実行できる。Android Enterpriseはデバイスのセキュリティ、データ保護、アプリケーションの更新、コンプライアンス(法令順守)の監視と管理を一元管理する機能も提供する。

 高耐久性デバイス(ラギッドデバイス)やキオスク端末など、多様なデバイスで利用可能な点もAndroid Enterpriseの強みだ。IT部門はオフィス、工場、産業現場など、さまざまな場所のシステム構成に合わせてデバイスを設定、管理できる。

 Android Enterpriseは、BYOD(私用端末の業務利用)デバイスで業務データと個人データを分離する「仕事用プロファイル」や、用途を特定のアプリケーションに固定する「ロックタスクモード」など、多様な利用シーンを想定した機能を提供する。IT部門はこれらを使い分けることで、エンドユーザーのプライバシーや生産性を阻害することなく、企業データを安全に保つことが可能だ。

 こうした特徴から、Android Enterpriseは2026年も引き続き、特に現場の最前線で働く従業員(フロントラインワーカー)やシフト勤務者の間で普及が進むと推測される。

2.共有デバイスの運用とシフト勤務体制の標準化

 企業は従業員に対して、スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスを含め、業務に適したデバイスを配備する必要がある。しかしシフト勤務者や大規模な現場組織を持つ企業にとって、全従業員に1台ずつデバイスを支給することは、費用や手間の面で現実的ではない。大量のデバイス群の登録、設定、資産管理、セキュリティ対策を手動で実施することは、IT管理者にとって大きな負担になる。こうした状況では、複数人でデバイスを使い回す「共有デバイス」(シェアードデバイス)の導入が現実的だ。

 2026年には、シフト勤務で用いられる共有デバイスの運用体制の標準化が進むことが推測される。共有デバイスの運用においては、モバイルデバイス管理(MDM)ツールへのデバイス登録が重要だ。MDMツールを活用することで、管理者はエンドユーザーごとの要件を微調整しつつ、デバイスの設定やセキュリティ管理を効率化できる。以下のタスクを実行できるMDMツールは、企業の共有デバイス管理で役立つだろう。

  • 共有デバイス上での高速なユーザー切り替えと認証
  • シフト終了時刻に合わせた自動ログアウト
  • データセキュリティ確保のためのセッション保護

 市場の状況も整いつつある。GoogleとAppleは、モバイルデバイス用OSでの共有デバイス管理を可能にしている。

 シフト勤務での共有デバイス管理でよく利用されるID管理ツールの例が「Microsoft Entra ID」だ。Microsoft Entra IDには、iOSや「iPadOS」、Androidを搭載するモバイルデバイスを複数人で安全に共有するための「共有デバイスモード」(SDM)がある。SDMではSSOも利用でき、エンドユーザーがアプリケーションごとにログインする手間を省き、業務効率の向上を後押しする。

3.ナレッジワーカーは引き続きiOSを支持

 先進国の企業に勤めるナレッジワーカー(知的労働者)にとって、「iPhone」は業務に欠かせないデバイスだ。「iOS」は動作が安定しており、使いやすいアプリケーションやツールをそろえている点も評価されている。Apple製品はデバイス間の相互接続性に優れるため、異なるApple製デバイス間でのシームレスな連携を実現する。エンドユーザーは複数のデバイスを行き来しながら、業務ドキュメントをスムーズに作成、編集、保存、共有できる。

 強力なセキュリティとプライバシー保護も大きなメリットだ。アプリケーションが個人データ取得時にエンドユーザーの許可を必要とする「App Tracking Transparency」、ハードウェアレベルの暗号化、「Face ID」「Touch ID」といった生体認証機能などが利用できる。これらを通じて、エンドユーザーは業務ファイルや機密データを安全に扱うことが可能だ。

 しかし企業での利用になると、高度なセキュリティ統制が求められるため、OS標準の機能だけに頼る運用には限界が生じる場合がある。機密情報を扱うナレッジワーカーや経営層の間でiOSが広く利用されている現状を踏まえると、デバイス単体の保護に加えて、より厳格で一貫性のあるセキュリティ対策が必要だ。そこで鍵となるのが、「ID」(アイデンティティー)を中心とした管理だ。

 AppleはID管理の厳格化を進めている。同社のIDサービスは、IDを基点としたガバナンスの構築に活用できる。IDを企業におけるモバイルデバイス利用の主要な制御ポイントとして扱うことによって、IT管理者は企業全体のパスワードやユーザー名を安全に管理できるようになる。

 Appleは、GoogleやMicrosoftといった主要ベンダーが提供するIDサービスとの「IDフェデレーション」(連携機能)を強化している。これらのIDサービスは通常、管理者向けにユーザーIDやパスワードを一元管理する機能を提供する。Apple製デバイスとIDサービスを連携させることによって、業務で使用するGoogleやMicrosoftのアカウントによるiPhoneの認証が可能になる。エンドユーザーは新しいIDを覚えることなく、社内システムや業務データにスムーズにアクセスできるようになる。IT管理者も、既存のID管理システムを活用することで、セキュリティポリシーを一元的に適用可能だ。

 ただしナレッジワーカーや経営層の間でiOSが人気だということは、裏を返せば攻撃者の標的になりやすいことでもある。2026年には、機密性の高いワークフローを保護するために、より厳格なID制御が特別な対策ではなく企業のセキュリティにおける必須要件として定着するだろう。こうしたセキュリティ体制を構築するために、企業は以下のベストプラクティスに従う必要がある。

  • 条件付きアクセスの厳格化
    • 許可されたエンドユーザーかつセキュリティ要件に準拠したデバイスのみに、社内システムや業務データへのアクセスを許可する。
  • デバイスのポスチャー(健全性)の確認
    • 暗号化の状態、セキュリティ機能を解除する「ジェイルブレーク」(脱獄)の有無、OSのバージョン、セキュリティ更新の適用状況など、デバイスが安全な状態かどうかを示す指標を継続的に検証する。
  • ID主導のガバナンス
    • 多要素認証(MFA)、シングルサインオン(SSO)を活用し、アクセス制御を検証済みのユーザーIDにひも付ける。
  • コンプライアンス監視と適用の自動化
    • デバイス、アプリケーション、通信のログをリアルタイムで監査し、セキュリティ基準を維持する。
  • 機密情報のセグメンテーション(分離)
    • 役割やリスク、デバイスの信頼度に基づいてアクセス権を付与し、データ漏えいのリスクを低減する。

4.生成AIがモバイルデバイスでの業務体験の中核に

 企業は、テキストや画像などを自動生成する人工知能(AI)技術「生成AI」をすでに業務に取り入れている。中でもAIアシスタントは、生成AIの代表的な用途だ。エンタープライズソフトウェア製品は、こぞってAIアシスタントを搭載するようになっている。メール、CRM(顧客関係管理)、スケジュール管理など、モバイルアプリケーションへのAIアシスタント導入も急速に進んでいる。

 大規模言語モデル(LLM)に基づいたAIアシスタントは、自然言語を理解して回答を生成できる仮想アシスタントだ。AIアシスタントが実行可能なタスクの例としては以下がある。

  • 定型業務の自動化
  • コンテンツ作成
  • データ分析
  • 長文の要約
  • テキストのトーンや構成の修正提案
  • プレゼンテーション資料の作成
  • 業務レポートの下書き作成
  • テキストの翻訳

 AIアシスタントは従業員の生産性と効率性を飛躍的に高める可能性を秘めている。一方で、企業はAIツール利用に伴うガバナンスやプライバシーの課題にも対処しなければならない。AIモデルが生成した提案の正確性やコンプライアンスへの準拠の保証に加え、モバイルアプリケーションで扱う従業員や顧客の機密データのプライバシー保護も懸念材料だ。モバイルデバイスでAIアシスタントを利用する際は、遅延(レイテンシ)や通信路容量(帯域幅)の制約、処理能力の限界といった問題も発生し得る。

 「オンデバイスAI」は、こうした課題の一部を解決する手段となり得る。AIモデルをクラウドサーバではなくデバイス内で稼働させることで、機密情報をデバイス内にとどめ、データ漏えいのリスクを低減できる。オンデバイスAIは、クラウドサービスと通信せずにデバイス内で処理が完結するため、インターネットに依存しないのが強みだ。電波が届かない場所や通信が不安定な場所であっても、エンドユーザーはAIアシスタントによる業務支援を途切れることなく受けることができる。

 AIアシスタントがモバイルデバイス向けに最適化されるにつれ、AIアシスタントはあらゆる業務に不可欠な存在になるだろう。AIアシスタント導入の成功の鍵は、インテリジェントな自動化の利便性と、強力なガバナンスやプライバシー保護、オンデバイス処理による安全性のバランスをどう取るかにある。


 次回は、5〜7つ目のトレンドを紹介する。

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