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「銀価格100ドル突破」で“静かな予算崩壊” IT機器値上げ連鎖に備えよ:サーバ、PC、クラウド……「調達コスト増」への防衛策
銀価格が史上初の100ドルを超えた。優れた導電性を持つ銀の高騰は、企業のIT調達コストを直撃する。「予算不足でDXが止まる」を防ぐには、どうすればいいのか。
銀の価格上昇が止まらない。2026年1月23日(米国時間)、銀1トロイオンスの価格が100ドルを突破した。銀価格が100ドル台に乗るのは史上初めてだ。銀は優れた導電性といったことから、半導体や回路基板などのIT部品にも使用されている。そのため、銀の価格上昇はIT製品の値上げにつながる可能性があり、企業のIT戦略に悪影響を与えかねない。
銀の価格はそもそも、なぜ上昇しているのか。ITのユーザー企業は銀の価格上昇を受け、コスト増を避けるためにIT戦略においてどのような工夫を凝らせばいいのか。「銀とITの関係」に迫る。
「銀ショック」はなぜ起きているのか
銀の価格上昇には複数の要因がある。
- 産業需要
- 半導体、回路基板、太陽光パネル、バッテリー、データセンターコンポーネントにおける銀の役割が重要になっている。AI(人工知能)技術の普及を背景に、半導体をはじめ、特にIT部品は需要が高まりつつある。
- 需要と供給のギャップ
- 銀の需要が、銀の生産量を上回っている。世界の主要な銀山において採掘量が足りないことが背景にある。銀は基本、リサイクルされることがなく、永久に使い続けられる。
- 「グリーンエネルギー」への移行
- 太陽光パネルや電気自動車(EV)の普及が、銀の使用を増加させている。国際エネルギー機関(IEA)の予測によると、2030年の太陽光パネル製造用の銀需要が世界の総銀生産の3割を超える可能性がある。
- 金融市場の圧力
- 特に、中国の財政戦略が銀の価格に影響している。ソフトウェアベンダーInterosのCEO、テッド・クランツ氏によれば、中国は金と銀の輸出制限をドルに対する切り下げの手段として使用している。
企業のIT幹部はなぜ、銀の価格に関心を持つべきか
表面的には、銀の価格変動は貴金属や株式市場の問題に見えるが、企業のIT戦略にも影響を与えかねない。主な影響は以下の通りだ。
- IT予算の予測しにくさ
- 銀の価格上昇はIT製品の価格上昇につながり、ユーザー企業にとって必要なIT費用を予測しにくくする。
- ベンダーによる価格設定の変更
- ITベンダーが中長期的に、製造費の増加をIT製品の価格設定に反映させる可能性がある。
- サプライチェーンの混乱
- IT製品の供給が逼迫(ひっぱく)すると、納期が延びる恐れがある。
- デジタルトランスフォーメーション(DX)への影響
- IT製品の価格上昇と不確実な供給によって、企業がDXプロジェクトに取り組みにくくなると考えられる。
具体的には、どのようなIT製品が影響を受けるのか
- 半導体や高性能チップ
- 調査会社The Futurum GroupのCIO(最高情報責任者)兼プラクティス担当副社長を務めるディオン・ヒンチクリフ氏によれば、半導体や高性能チップが特に値上げの対象になる可能性がある。
- データセンター向けインフラ
- サーバを中心としたIT機器に加え、電力システムや冷却システムにも銀が使用されており、非IT機器も影響を受けると考えられる。特にAI技術の処理によって、データセンターの電力需要が高まりつつある。
- クラウドサービス
- クラウドサービスも上記の製品や部品を必要とするので、中期的に利用料金が上がる可能性がある。
では、ユーザー企業はどうすればいいのか
企業は銀の価格上昇を受け、IT予算を早めに最適化することが重要だ。IT製品の調達、システムの構築方法など、多方面での対策や求められる。
ベンダーとの関係
- 長期契約の締結
- 銀の価格上昇は今後も続くとみられる。企業はベンダーと長期的な契約を結べば、当面はさらなる価格上昇が防ぎやすくなる。
- ベンダーの多様化
- さまざまなベンダーからIT製品を購入することで、特定のベンダーへの依存度を減らし、値上がりのリスクを軽減できる。
- 価格設定の透明性の要求
- ベンダーに対し、価格設定に関する詳細な情報を求める。
技術面での施策
- IT製品を「長く使う」
- IT製品のライフサイクルを延ばし、交換を遅らせる。
- 仮想化技術の活用
- 仮想化によって物理的なハードウェアの必要性を減らせる。
- クラウドサービスの利用を広げる
- 上記で取り上げた通り、クラウドサービスも銀の価格上昇の影響を受けるが、クラウドベンダーはユーザー企業と比べ、コスト削減策を実施しやすい。
財務面での施策
- IT製品の価格変動を費用予測に織り込む
- IT製品の価格変動は今後も続くとみられるので、デフォルトで財務に反映させることが重要だ。
- ベンダー契約の固定
- ベンダーとの契約をできる限り固定させることで、値上がりリスクを低減できる。
- 資源不足を企業リスクとして捉える
- 銀をはじめとした資源が不足することを新しい常識として捉え、リスク分析の要素として考える。
サステナビリティとイノベーション
- 材料効率に注力するベンダーを選ぶ
- 銀をリサイクルしたり、使用量を減らしたりすることに取り組んでいるベンダーを優先する。
- 代替案を考える
- 銀を代替する素材開発の動向をみる。
結論
「銀は今後も価格が上昇し続け、これを考慮しないITリーダーは『静かな予算の侵食』を経験することになる可能性がある」。調査会社Info-Tech Research Groupプリンシパルリサーチディレクターのマニッシュ・ジャイン氏はそう語る。ITリーダーは「銀の専門家」になる必要はないが、銀の価格推移を注意深くみて、IT戦略への影響を考えなければならない。
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