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「16歳未満はSNS禁止」「無限スクロールも規制」 波紋を呼ぶ英国の“超強硬策”子どものVPN利用も制限?

英国政府が16歳未満のソーシャルメディアの利用を制限する案を検討している。オーストラリアでは、既に同様の規制が進んでいるが物議を醸している。どのような危うさをはらんでいるのか。

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 英国政府は、16歳未満よるソーシャルメディアへのアクセスの禁止を検討している。この規制案には、無限スクロールなどの中毒性がある機能を制限したり、VPN(仮想プライベートネットワーク)へのアクセスを制限したりする内容も含まれる。児童性的虐待の疑いのあるコンテンツが送受信されないようにテクノロジー企業がデバイスを制限する方法についても議論する方針だ。

AIチャットbotの抜け穴を塞ぐ

 2026年1月、イーロン・マスク氏が率いる「xAI」の生成AI(ジェネレーティブAI)技術を活用したチャットbot「Grok」が、女性のヌードコンテンツを本人の同意なしに大量に生成していると非難を浴びた。2週間足らずで約300万枚の性的画像が生成され、その中には子どもを描いたと思われる画像が2万3000枚含まれていた。

 Grokが本人の同意なく大量の画像を生成したことを受け、英国のキア・スターマー首相は「既存の法律を改正し、AIチャットbot開発者にユーザーを保護する義務を課す」と表明している。

 スターマー首相は、協議の上でオンラインの安全性に関する迅速な措置を講じることができるよう、新たな法的権限を導入するとも約束した。英国政府は、プレスリリースの中で「技術が進化するたびに新たな法律が制定されるまで何年も待つのではなく、数カ月以内に協議の結果に基づいて迅速に行動できるようになる」と説明する。

 2025年3月に全面施行された英国のオンライン安全法(OSA:Online Safety Act)は、世界で最も厳しいオンライン上の法規制の一つとされるが、一部の活動家らはこの法律が不十分であり、テクノロジー企業が罰せられることなく事業を継続できることを許していると警告している。

 英国情報通信庁(Ofcom)は、 1人の人物とのみやり取りをするチャットbotの活動は、オンライン安全法の適用範囲外であるため、Grokを調査対象にできない。技術担当大臣のリズ・ケンドール氏は、新たな法的権限を導入できれば、こうしたAIチャットbotのサービスも停止できるだろうと述べている。

 AIチャットbotの抜け穴を塞ぐことは歓迎されている一方、英国政府が協議を検討しているその他の事項はあまり好意的に受け入れられていない。英国児童虐待防止協会、モリー・ローズ財団などを含む42団体による共同声明では、善意によるものではあるものの、全面的なソーシャルメディア禁止では、緊急性の高い児童の安全は実現できないだろうと警告している。

「16歳未満はSNS禁止」には批判の声も

 オーストラリアは2025年12月、世界で初めて16歳未満のソーシャルメディア利用を禁止する国となった。スペインとフランスも今後、同様の禁止措置を講じると表明している。ポルトガルは13歳〜16歳までの子どもがソーシャルメディアを利用する際、保護者の明確な同意を求める法案を承認した。

 オーストラリアの取り組みでは、Facebook、Instgram、TikTok、Snapchatなど一部のプラットフォームに焦点を当てており、順守しない場合は最高4950万オーストラリアドルの罰金を科す。

 ソーシャルメディアの運営企業は、16歳未満のユーザーの既存アカウントを閉鎖し、新規アカウントの作成を禁止する必要がある。オーストラリア政府は1月下旬時点で、ソーシャルメディアの運営企業はすでに、児童のものと特定された約470万件のアカウントへのアクセスを無効にしており、10社のテクノロジー企業全てが規制を順守していると発表した。

 一方、Snapchatのエヴァン・シュピーゲルCEOは、これによって規制対象ではない何千もの他のアプリケーションが野放しになると警告した。オーストラリア政府が導入した年齢推定技術は不完全で、特に若いユーザーに適用した場合、2〜3歳も誤差が出ることが分かったとも指摘した。

 シュピーゲル氏は、年齢確認を個々のアプリケーションではなくアプリケーションストア全体で実施することを提言している。適用範囲を広げ、ポリシーの統一を確保するためだ。シュピーゲル氏は、これによって個人情報の共有が制限され、プライバシーに関するリスクが軽減されると述べる。

 オーストラリアのこうした禁止措置に対し、国内外140人以上の専門家が首相宛ての公開書簡に署名し、反対を表明している。また15歳の若者2人が、この禁止措置はオーストラリアの若者の政治的コミュニケーションの自由な権利を否定するものだとして、オーストラリア政府を提訴している。

 英国を拠点とする若者の自殺防止慈善団体、モリー・ローズ財団の会長、イアン・ラッセル氏は、全面禁止に警鐘を鳴らす。「対症療法では根本的な原因を解決できないため、意図しない結果を招くリスクがあり、子どもたちがより大きな危害を受けるリスクが高まる」(同氏)

 インターネット監視財団(IWF)のCEO、ケリー・スミス氏は、この禁止措置は児童性的虐待コンテンツの取り締まりには不十分だと付け加える。同氏は「AIツールなどの新技術の開発に安全対策を組み込む『セーフティ・バイ・デザイン』の原則を、企業が全面的に採用する必要がある」と主張する。

 英国の全国児童虐待防止協会のCEO、クリス・シャーウッド氏は、「提案されている内容には、われわれが求めてきた適切な年齢制限、中毒性のある機能の廃止など強力な対策が含まれている」と述べ、「これらの措置が迅速に実施されれば、全面禁止をしなくても安全性を確保できる」と指摘する。

 シャーウッド氏は、ソーシャルメディアは多くの子どもたちにとって贅沢品ではなく命綱であり、アイデンティティーを確立したりコミュニティーに所属したりために必要だと強調する。禁止措置によってそうした場が失われ、ティーンエージャーがインターネット上の規制の行き届いていない暗部に追いやられるのではないかと懸念している。

 「われわれは、子どもたちの声をこの議論の中心に据えることを強く支持する」とシャーウッド氏は述べる。「子どもたちはオンラインのメリットとリスクの両方を理解している。これまでの議論では、子どもたちの意見が軽視されてきたが、今回の意思決定には生かされるべきだ」(同氏)

「VPN利用制限」の危うさ

 オンライン安全法の場合、年齢確認措置は2025年7月下旬に始まり、プラットフォーマーはユーザーが特定のコンテンツにアクセスする際、年齢を確認することが義務付けられている。しかしユーザーはVPNを使用すれば、実質的にIPアドレスや位置情報を隠すことができ、特定のコンテンツのブロックを回避できる。

 オンライン安全法の専門家であるジェイミー・ハースワース氏は、「政府がVPNの規制に取り組むまでは、オンライン安全法に違反する行為は比較的簡単に回避される可能性がある」と説明する。

 「説明責任は、システムを設計・展開するプラットフォームから、執行を担う規制当局、匿名性を実現する仲介者に至るまで、エコシステム全体に及ぶ必要がある。さもなければ堅牢に見えても実際には脆弱(ぜいじゃく)であることが露呈し、子どもたちが危険にさらされ、効力のない枠組みになる危険性がある」とハースワース氏は述べる。

 今回の協議では、子どもたちが年齢確認措置を回避できないように、VPNの利用に年齢制限を設けることを検討する方針だが、この提案もまた懸念を引き起こしている。

 英国を拠点とする人権団体Big Brother Watchの法務・政策担当官マヤ・トーマス氏は、子どものVPN利用を制限することは「子どもと大人両方の人権に対する侵害を意味する」と述べる。

 トーマス氏は、この措置は「子どもに限らず全てのユーザーに対して年齢確認措置を導入することにつながる」と付け加える。何百万人もの人々が個人のプライバシー保護とセキュリティの確保のためにVPNを利用している現状を踏まえると、年齢確認措置を導入することは、プライバシーツールを使用する「本来の意味を完全に無意味にする」という。

 「家庭内暴力などの被害者にとって、VPNはオンラインで助けを求める最良の方法の一つだ」とトーマス氏は指摘する。加えて「数え切れないほど多くの教育機関や職場がテレワークやファイル共有にVPNを利用しており、国家の監視なしに情報を共有できることは、自由な民主主義国家で生活する上で不可欠な要素だ」と同氏は主張する。

 VPNプロバイダーのSurfsharkの法務責任者であるギティス・マリナウスカス氏は、同社は既に18歳未満のユーザーによる利用を禁止していると説明。有料のサブスクリプションを導入すれば、未成年者に対する安全策として機能するのではないかと持論を展開する。

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