「塩漬けCOBOL」をAIで救い出す IBMがメインフレーム特化のAIエージェントを放つ理由
IBMは、新型AIコーディングエージェント「IBM Bob」と、AIOps基盤「Concert」を発表した。単なる開発支援にとどまらず、複雑化したインフラ管理やガバナンス欠如といった企業の「痛点」を突く。AIスキル不足に悩む情シスが、レガシー資産をどうモダナイズすべきか、その現実的な解を示す。
ボストンで開催されたイベント「IBM Think」で、開発者やプラットフォームエンジニアに向けた更新情報の目玉として、AIコーディングエージェントの一般提供開始と、AI駆動の自動化ツールを統合する計画の詳細が発表された。
「IBM Bob」は2025年10月にプレビュー公開、2026年4月28日に正式リリースされた製品で、従来の「Watsonx Code Assistant」の後継として位置付けられる。単なるコード生成にとどまらず、他のAIエージェントのオーケストレーションやMCP(Model Context Protocol)サーバへの接続を通じて、ソフトウェアデプロイ全体の自動化を可能にする。タスクの適性に応じて、複数の大規模言語モデル(LLM)から最適なものを自動的に選択する機能も備える。また、メインフレームアプリケーションと連携する「IBM Bob Premium Package for Z」のプライベートプレビューも開始された。
IBM BobがAIコーディングエージェントの競争に参戦
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AIコーディングエージェント市場は既に飽和状態にあり、Anthropicの「Claude Code」やMicrosoftの「GitHub Copilot」、Amazonの「Amazon Q Developer」、Googleの「Gemini Code Assist」など多くの競合がある。そんな中、IBMはメインフレーム市場における自社の優位性を強調している。
IBMのロブ・トーマス氏(ソフトウェア担当シニアバイスプレジデント兼チーフコマーシャルオフィサー)は、「COBOLはマシンレベルに近いコードで、他環境への移行時には再現性や性能が損なわれやすい。IBM Bob for Zではコードのスキャンに注力し、ビジネスオブジェクトとビジネスロジックを正確に把握できるようにした」と語る。
市場調査会社Moor Insights & Strategyのジェイソン・アンダーセン氏は、IBM Bobが既存顧客にとって、同社の自動化ツールセットへの新たな入り口になると評価する。「IBMは非標準的なプラットフォームや言語を多く抱えている。プラグインを構築するのではなく、独自のツールセットを持つことで、統合の質を高め、開発スピードを上げられる」と指摘する。
また、市場調査会社Futurum Groupのブラッドリー・シミン氏は、企業ガバナンスを組み込んだ独自のワークフロー構築の重要性を説く。「汎用(はんよう)的なIDEは万人に向けたものだが、企業が求めているのは、成果に責任を持つ開発者自身が構築し、管理するツールチェーンだ」と述べている。
IBM ConcertとHashiCorpによる「Infragraph」
もう1つの注目は、HashiCorpと共同開発したナレッジグラフ「Infragraph」を、HashiCorp Cloud Platform(HCP)TerraformやIBMのAIOpsツール「Concert」に導入するプレビューだ。トーマス氏は「Infragraphはマルチクラウド環境のCMDB(構成管理データベース)で、Concertはその上で動作しハイブリッド環境全体の管理を自動化するAIだ」と説明する。
IBM Concert Platformは、ハイブリッドクラウド管理の6つの領域をカバーする。
- Concert Observe:可観測性(Instana、SevOneとの統合)
- Concert Optimize:性能とコストの最適化(Turbonomic)
- Concert Operate:インシデントの検知と対応(Cloud Pak for AIOps)
- Concert Protect:脆弱(ぜいじゃく)性とリスクの管理
- Concert Resilience:信頼性の把握と予防的な運用
- Concert Workflows:ローコードによる自動化
アンダーセン氏は、Concertの次の焦点はレジリエンスになると予測している。「CloudabilityやApptio、Instana、さらにはRed Hat製品など個別のサービスを統合し、自律的なヘルスチェックを実現する接着剤のような役割を果たすだろう」と語る。
今回、コードやOS、ミドルウェアなどの脆弱性を自動で修正する「Secure Coder」機能も公開された。IBM BobやVS Codeと連携し、優先順位付けから修復までをサポートする。
加速するAIアップデート
Thinkでは他にも多くの発表があった。買収したConfluentのデータパイプラインとWatsonx.dataの統合、ハイブリッドクラウドAIフレームワーク「Sovereign Core」の一般提供、さらにはServiceNowやSalesforceなどのサードパーティー製AIエージェントをサポートする「Watsonx Orchestrate」のカタログ追加などだ。
こうした統合スタックの提供背景には、深刻なAIスキル不足がある。Futurum Groupが2024年9月と2025年1月に実施した調査「Data Intelligence, Analytics, and Infrastructure Decision Maker Survey」では、800人以上の回答者の約半数が「エージェンティックAI」を主要な目標として挙げた。さらに、2025年1月の調査では、AIスキル不足を組織における最大の課題として挙げた回答者の割合が5%から10%へと倍増した。
シミン氏は「統合されたスタックは性能向上やコスト最適化をもたらすだけでなく、顧客が直面する困難な作業を肩代わりしてくれる」と、その意義を強調している。
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