「IBM Z」が進化
「メインフレーム」でAIを扱う? IBMとArmが手を組む“異例の連携”
IBMが、同社のメインフレーム「IBM Z」の開発におけるArmとの協業を発表した。強固な信頼性を誇る製品が、なぜ今になって異なる設計思想を取り入れるのか。そこにはある“限界”が関係している。
金融機関や公的機関のシステムを支え続けてきたメインフレーム「IBM Z」が変革の時を迎えている。背景にあるのは、現代のシステムが直面しているAI(人工知能)という巨大な壁だ。膨大な計算量と電力を消費するAI活用の波は、これまでの伝統的な設計思想だけでは越えられない限界を突き付けている。
この難局を打破するためにIBMは2026年4月、半導体メーカーのArmと共同で、IBMが「デュアルアーキテクチャ」と呼ぶハードウェアの開発に着手したことを発表した。その狙いは、企業がAI処理や膨大なデータを扱うシステムを運用する際の自由度を高めることにある。伝統的なメインフレームの信頼性に、Armの圧倒的な電力効率を組み込むデュアルアーキテクチャは、基幹システムの在り方を根本から変える革命になり得るのか。
「AIが動くメインフレーム」をどう実現するのか
両社の最終的な目標は、スケーラビリティ(拡張性)に優れた次世代のコンピューティングシステムを構築することだ。IBMがIBM Zで培ってきたシステムの信頼性やセキュリティ、拡張性に関するノウハウと、Armの省電力設計や幅広い開発用ソフトウェア群を組み合わせ、それらを一元化したシステムの構築を目指す。
これまでArmは、一般的なサーバで主流の命令セットアーキテクチャ「x86」に代わる選択肢として、データセンター市場での普及を進めてきた。同社は2026年3月にデータセンター向けCPU「Arm AGI CPU」を発表しており、自律的にタスクを処理する分散型AI(エージェンティックAI)システムを大規模かつ効率的に稼働させるためのプロセッサと位置付けている。Arm AGI CPUは、AIアクセラレーター(AI処理を高速化するハードウェア)の制御、メモリとストレージの管理、処理の分散管理、システム間でのデータ転送といった役割を担う。
今回の協業によって、Armのソフトウェアエコシステムに企業が求める強固な信頼性が加わる。IBMには、2000年に導入した「Linux」専用の処理機能「Integrated Facility for Linux」(IFL)をはじめ、IBM Z向けのコプロセッサ(メインプロセッサを補助するプロセッサ)を提供してきた実績がある。その後、同社はIBM ZのアーキテクチャをベースにしたLinux専用エンタープライズサーバ「IBM LinuxONE」を発表した。これは、メインフレーム内のデータがある場所でLinuxの処理を実行できるもので、データの移動に伴う手間を省けるように設計されている。
IBMのシステム開発部門で最高技術責任者(CTO)兼IBMフェローを務めるクリスチャン・ジャコビ氏は、「今回の提携は、IBM ZやIBM LinuxONEの進化に向けた重要な一歩だ」と述べる。
ArmのクラウドAIビジネス部門エグゼクティブバイスプレジデントであるモハメド・アワド氏は、「IBMとの協業によって、Armのエコシステムを企業のミッションクリティカルなインフラへと広げることができる」と期待を込める。
両社は、Armアーキテクチャ向けに開発されたソフトウェア群をIBMのコンピューティングシステムで稼働させるため、仮想化技術を強化している。この取り組みはソフトウェアの互換性を高め、開発者や企業がArmアプリケーションをミッションクリティカルなシステムへ円滑に導入できるようにすることを目的としている。
セキュリティと信頼性の面では、AI処理や大量のデータを扱うアプリケーションなど、最新のシステムが求めるパフォーマンスや効率性の要件を満たすための新しい手法を追求する計画だ。両社はソフトウェアのエコシステムを拡充し、アプリケーションの導入や管理をより自在に行えるようにすることを目指している。その具体的な計画として、IBMは物理的なハードウェアを置き換えるのではなく、仮想化技術を活用し、自社の企業向けシステム上でArmベースのアプリケーションを直接認識して実行できる新たな実行環境を顧客向けに提供する計画を立てている。
IBM ZおよびIBM LinuxONE担当の最高製品責任者(CPO)、ティナ・タルクィニオ氏は「信頼性とセキュリティは維持しつつ、ソフトウェアの選択肢を広げて企業システムの性能を向上させることが目標だ」と説明する。
今回の協業は、企業が拡張性と適応力を備えたインフラをどう構築すべきかという問いに対する方向性を示す指標になる。調査会社Moor Insights & Strategyの創設者でCEO兼チーフアナリストのパトリック・ムーアヘッド氏は次のように語る。「両社の動きは、企業が最新システムの拡張を考える際の視野を広げるきっかけになり得る。長期的な革新や市場拡大に向けた両社の投資は、一般的な提携の域を超えた深いレベルにある」
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