なぜクラウド全盛の今「メインフレーム」が再び脚光を浴びるのか:古びた資産か、成長の起点か?
メインフレームを支える人材の高齢化が進み、企業の基幹IT運用に大きなリスクが迫っている。一方で、メインフレームは再評価の時を迎えている。
メインフレーム担当者の高齢化が進んでいることは、以前から指摘されている。それに伴い、スキル開発や後継者育成の必要性がしばしば話題に上る。今後、定年退職の波が避けられないことから、深刻な人材リスクが生じるという課題もすでに多くの場面で懸念されてきた。現役のメインフレーム担当者が定年を迎えると、企業の基幹業務を支えるメインフレームの運用を担える人材が不足し、対応が困難になる恐れがある。
まさにいま注目を集めるメインフレーム
この状況を受けて、IBMのようなメインフレームベンダーや、Broadcom、BMC Softwareといったメインフレーム関連ソフトウェアベンダーは、メインフレームを利用する企業が次世代の担当者を採用・育成できるよう、さまざまな支援プログラムを策定してきた。これらのプログラムには、クロストレーニング(複数の職務スキルを習得する訓練)や、高額な補助金が含まれるケースも少なくない。これらの取り組みの狙いは、メインフレームの人材不足という課題に先回りして対応し、将来的に深刻な人材危機へと発展するリスクを未然に防ぐことにある。
こうした支援プログラムに加えて、自社独自の取り組みを組み合わせることで、メインフレームの継続的な運用体制を安定的に確立している企業もある。一方で、「本質的にはリスク管理であり、明確な収益を生まない取り組みに予算を割くことは難しい」という理由から、対応が後手に回っている企業も少なくない。加えて、経済状況や地政学的リスクの変動といった外部要因も影響し、メインフレーム人材や運用体制の整備が、かつてよりもさらに困難になっているのが現状だ。
メインフレーム分野で注目されている点の一つは、IBMのメインフレーム用アーキテクチャ「z/Architecture」の進化により、多くの企業が抱える新たなニーズに応える機能や仕組みが登場している点だ。クラウドモデルの優位性を評価するIT部門の責任者は増えているが、その先に見据えるべきはクラウドとオンプレミスのハイブリッド環境だ。
そうしたハイブリッド環境では、パブリッククラウドが持つ経済性やスケーラビリティに加え、オンプレミスやプライベートクラウドが提供する独自の可用性やセキュリティといった利点を兼ね備えたプラットフォームが求められている。こうした複合的な要件を満たす基盤として、メインフレームが改めて注目を集めている。
IBMのメインフレーム「IBM Z」シリーズは、従来のメインフレームの役割を再定義し、新たな価値を引き出す基盤として機能し得る存在となっている。近年はパブリッククラウドの導入が進み、クラウドファーストを掲げる企業も増えているが、パブリッククラウドが常に最適な選択肢とは限らないという認識も広がってきた。実際、状況によっては利便性が高い一方で、制約やコストの面で課題を抱えるケースも少なくない。
こうした背景を踏まえると、IT基盤には柔軟性や応答性が一層求められるようになっている。そうした特性を最大限に引き出すためには、クラウドネイティブなアーキテクチャの採用も不可欠だ。そうしたニーズに応える“第3の選択肢”として、IBM Zを再評価する動きが企業の間で広がっている。
メインフレームのスキルに関する議論を見直すべき時期を迎えているのは明らかだ。人材不足を単なるリスク管理の課題として捉えるのではなく、新たなビジネスチャンスと見なす視点が今後は重要になる。メインフレームの世界に新たな人材を迎え入れることは、既存のインフラとして活用されてきたプラットフォームから、次のレベルのビジネス価値を引き出す取り組みを後押しすることにつながる。
もっとも、メインフレームのスキルに関する問題をビジネスチャンスと捉えるか、それともリスク管理上の課題と見なすかは、企業が置かれている状況や事業戦略によって左右される。
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