“Excelシート47枚によるデータ突合”はもう限界 配車・配送大手のAI業務改革:GrabがAWS上で進めるAI時代の業務再設計
配車・配送サービス企業Grabはパンデミック下、Excelのシートを40枚以上も開いてデータを突合していたが、AIを使って手作業を60%削減した。具体的に何をしたのか。
AI(人工知能)の導入が進む中、企業では「AIをどのように業務へ組み込むか」という段階から、「AIを前提に業務そのものをどう再設計するか」という段階へ移りつつある。
2026年5月6日、シンガポールで開催された「AWS Summit Singapore」では、配車・配送サービス大手Grabや警備サービス企業Certisが、AIを活用した業務変革の事例を紹介した。
Grab、“シート開き過ぎ”問題からどう脱却した?
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東南アジアで配車・配送サービスを展開するGrabでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行時、配車予約数が最大約80%減少した。一方、フードデリバリーの需要は急増した。この頃、同社の財務部門や運用部門は別々のデータソースを参照していたため、数値確認やデータ突合に数週間を要していたという。財務チームは、ロックダウン継続時のシナリオ分析を「47枚のシート」で実施していた。
Grabのマネージングディレクター兼戦略財務・IR責任者のケン・レック氏は、「数百万人の利用者を抱える企業として、会社の存続に関わる意思決定をしていたが、その基盤となるインフラは十分ではなかった」と振り返る。
この経験をきっかけに、Grabは「Project Grabhouse」を開始した。オブジェクトストレージ「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)やオープンソースのデータ表形式「Apache Iceberg」などを用いてAWS上にデータ基盤を再構築し、全社共通の“単一の正しいデータソース”となるデータレイクを整備した。これによって、手作業によるデータ照合作業を最大60%削減でき、コスト配賦もサポート担当者単位まで追跡可能になったという。
Grabはその後、このデータ基盤に企業向けAIプラットフォームを重ね、ノーコードでAIエージェントや業務自動化ワークフローを構築できる環境を整備している。レック氏は、「財務部門がデータ抽出や照合ではなく、戦略立案や経営支援に時間を使える道筋が見えてきた」と述べた。
AIとロボットで警備業務を変革
警備サービス企業Certisも、AIを現場オペレーションへ組み込む取り組みを紹介している。
同社は、自律移動型ロボットコンシェルジュ「Max」や警備巡回用ロボット犬「Ace」を、AIベースの統合運用基盤「Mozart」と連携させている。Mozartは、人間のオペレーターが異常検知や状況判断、リアルタイム対応を実施するための中央管理プラットフォームとして機能する。
Certis Group CEOのン・ティアン・ベン氏は、「AIは単なる分析ツールではない。運用判断をオーケストレーションし、リソースを調整し、現実世界で行動を起こすために利用している」と説明する。
同氏はさらに、ロボットによって危険度の高い業務や身体的負荷の大きい作業を代替することで、人間の警備員が“共感”や“高度な判断”を必要とする業務へ集中できるようになると説明する。一方、「現場の担当者がシステムを理解し、信頼できること」が重要であり、その前提として強固なサイバーセキュリティが不可欠だとした。
AI導入、“活用格差”が広がるSME
一方、AWSと調査会社Strand Partnersが発表した調査によると、シンガポールの中堅中小企業(以下、SME)ではAI活用が広がっているものの、本格活用には至っていない企業もあるという。
金融サービス業界のSMEの75%、医療業界の61%がAIを利用している一方、AIを複数の中核業務へ統合している企業は少数にとどまった。
AWS Singaporeのマネージドディレクター、プリシラ・チョン氏は次のように述べる。「シンガポールのSMEはAIの導入に迅速に対応している。次の段階で必要なのは、単一のチームや用途にとどまらず、ビジネス全体の運営にAIを組み込みその活用を継続的なものにすることだ」
チョン氏は、成功している企業は共通して「自由な実験のための安全な環境」と「実運用に向けた厳格なガードレール」という2つの戦略を併用していると指摘する。
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