脱パブリッククラウド? 最短6時間で「プライベートAI」を構築するDellの新兵器:「プライベートAI」の勝機
AIインフラ構築の難所は、もはや計算資源の確保だけではない。Dellは5000社の導入実績を武器に、ネットワークや冷却まで統合した「AI Factory」を刷新。最短6時間で稼働する垂直統合型システムに加え、OpenAIなどの最新モデルを自社環境で安全に運用する「プライベートAI」の現実的な手法を提示する。
Dellは、AIインフラ構築ソリューション「Dell AI Factory」にネットワークとストレージのスタックを追加した。同社幹部は、これらが先行して提供している製品と同様に、AIインフラの他の要素にも変革をもたらすと主張している。
コンピューティング分野でNVIDIAと提携したDell AI Factoryは、現在までに企業向けシステムの売上をけん引している。2年以上前にNVIDIAとの提携をいち早く開始したDellは、サーバ市場で存在感を示している。
調査会社IDCの「Quarterly Server Tracker Report(第4四半期版)」によると、同社は10%の市場シェアで世界のサーバ売上をリードした。同レポートは、Dellの当該四半期の売上高が126.7%増加した要因として、GPUなどの特殊プロセッサを搭載したアクセラレーテッドサーバの好調を挙げている。Dellは年次カンファレンス「Dell Technologies World」で、Dell AI Factoryの顧客数が5000社に達したと報告した。
5000社がDell「AI Factory」を選んだ決定的な理由
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Dellのインフラストラクチャソリューションズグループ(ISG)でプロダクトマーケティング担当シニアバイスプレジデントを務めるヴァルン・チャブラ氏によると、この数字は個別の企業数で、同一企業内の複数アカウントは含まないという。
チャブラ氏はTechTargetのポッドキャストインタビューで次のように語った。「顧客の大部分はエンタープライズだが、大手ネオクラウドやソブリンAI(自国のデータを国内で管理・活用するAI)に取り組む層という、他に二つの比較的大きなセグメントも存在する」
業界アナリストは、世界的なAIインフラ構築の拡大によりハードウェアリソースの確保が難しくなっている中、この顧客数に驚きを示している。
調査会社theCUBE ResearchおよびSmuget Consultingのアナリストであるロブ・ストレチャイ氏は、「DellがGPUやフラッシュメモリを確保し、出荷できていることが要因ではないか」と分析する。同社幹部は大規模な受注残があるとしているが、これは業界全体に共通する課題だ。
調査会社Moor Insights & Strategyのアナリスト、マイク・レオーネ氏は、5000社という節目について「モジュール型でユースケースを優先するアプローチが、急速に拡大するラックスケール市場以外の購入者も引きつけている証拠だ」と述べている。
また、レオーネ氏はDell AI Factory向けに発表されたAIおよびIT自動化ソフトウェア企業との新たな提携にも注目している。具体的には、NVIDIAの「NemoClaw」AIエージェントサンドボックスのサポートや、プライベートインフラ上での「Grok」や「Gemini」といった先端AIモデルのサポートが含まれる。さらにServiceNowなどサードパーティーベンダーが提供するエージェント型オートメーションツールの事前統合済みカタログなども含まれる。
「GrokやOpenAI、Geminiのモデルをプライベートインフラで稼働できることは、機密データをパブリックなエンドポイントに送ることなく、企業が望む先端モデルを自社の境界内に維持できることを意味する」とレオーネ氏は指摘する。PalantirやServiceNowを管理カタログに組み込むことで、パブリッククラウドに近い体験をオンプレミスで実現できる。これはレファレンスデザインを複製するよりもはるかに困難なことだ。
PowerRackによるネットワーク、冷却、自動化の強化
Dellは今週、ネットワーク、ストレージ、データセンター冷却用の新しい「PowerRack」システムを投入し、Dell AI Factoryの勢いを加速させようとしている。同社は過去にもラックスケールシステムを販売してきたが、新ユニットは単一のシステムとしてテストおよび納品される。チャブラ氏によれば、Dellのプロフェッショナルサービスによる全面的なサポートを受け、6時間強で稼働を開始できるという。
ネットワーク向けの新しいPowerRackは、800Tbpsを超えるスイッチング容量を備える。これには、NVIDIAの次世代GPU「Vera Rubin」(開発コード名)世代のシステムとともに発表されたASIC「NVIDIA Spectrum-6」を搭載した、8台の新しい「Dell PowerSwitch SN6600 LD」イーサネットスイッチが採用されている。
また、新しい「PowerCool C7000」冷却分配ユニット(CDU)も、Vera Rubinシステムをサポートする設計となっている。220キロワットを超える冷却能力を持ち、最大40度までの温水冷却に対応する。C7000は床置き型ではなくラック内設置型のため、データセンターのスペースを節約できるという。
「C7000は高度な管理機能とリーク検出機能を備えている。インテグレーテッドラックコントローラー(IRC)や管理ソフトウェア『Dell OpenManage』を介して、追加のセンサーレイヤーとアラートが統合されている」とチャブラ氏は説明する。サーバ、CDU、スイッチにわたるリモート接続とオーケストレーションを拡張したことで、ラック全体を単一のUIで制御可能になった。
IRCとOpenManageは、電力、熱、またはハードウェアの問題に自動で対応する。故障したコンポーネントを切り離し、影響を受けるノードをシャットダウンできる。
統合に焦点を当てたPowerRackのロードマップ
ストレージ用の新しいPowerRackでは、3月のNVIDIA GTCで発表された「Exascale」ストレージシステムに加え、スケールアウトファイルストレージ「PowerFlex」のサポートが追加された。これにより、AIやHPC用途だけでなく、高い要求が求められるエンタープライズストレージのワークロードにも対応できるようになった。顧客はビジネスの成長に合わせて、アレイレベルでストレージの特性を入れ替えることも可能だ。
業界アナリストは、今後Dell AI Factoryが非AIシステムとの統合を拡大し続けることが重要になると見ている。
調査会社Omdiaのアナリストであるロイ・イルズリー氏は、「IBMが先日、将来的にCPU、GPU、量子チップが共存することになると指摘した。いずれそれら全てを統合することが必要になるが、これについて積極的に語っている人はほとんどいない」と話す。エージェントによる管理やオーケストレーションに加え、セキュリティ、ガバナンス、コスト管理を維持しながらこれらを連携させるには、より高次の運用管理ビューが必要になる。
IRC(Integrated Rack Controller)やOpenManageのようなインフラ自動化ツールは個別のラック管理には有効だが、今後はデータセンター全体を網羅し、複数のベンダーのツールとも連携できるように拡張する必要があるとイルズリー氏は言う。
ストレチャイ氏は、インフラ管理にエージェント型のAIOpsが役割を果たすと予測する。これにより、将来の自動化では、AIがワークロードの最適な配置場所を判断できるようになるという。
Dellの広報担当者は、今後のロードマップの詳細は明かさなかった、「データグラビティが勝利する」という原則がインフラ統合計画を導くとコメントした。
「AIから価値を得るために顧客がデータを移動させるべきではない。データがどこにあってもDell AI Factoryがそのデータを処理できるようにすることに注力している」と広報担当者は述べる。また、Dellの管理プレーン開発はヘテロジニアスなシステムのオーケストレーション簡素化に焦点を当てていると説明し、「インフラ層でも、エージェント層と同様にオープンなエコシステムが重要だ」と付け加えた。
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