MaaS市場が年平均1154%超で成長 爆伸びする中国のAI投資が抱く野望とは?:IDC Directions 2026
世界のAI支出は2029年に2.1兆ドルへ達し、インフラ構築から「企業実装」へと主戦場が移る。特に中国はMaaSやロボティクスで圧倒的成長を見せ、評価指標もFLOPSから「電力あたりトークン数」へ変容した。急加速するAIスーパーサイクルで、情シスが決断すべきコスト管理と戦略的投資のポイントとは?
世界のAI産業がインフラ構築から大規模な企業アプリケーションへと移行する中、中国は既に走り出しており、他の多くの市場との差を広げつつある。北京で開催された「IDC Directions 2026」には、400人以上の技術意思決定者やアナリスト、投資家が集まった。
イベントの冒頭、IDCのCEOであるロレンツォ・ラリーニ氏が、中国で製造・展開され、既に世界と競合しているAI搭載ロボットとともに登壇した。ラリーニ氏は「1986年からこの地で活動してきたが、現在のような変化の速さは見たことがない」と述べる。「中国は遠くから観察するだけの市場ではない。世界の動きを形作るテクノロジーの原動力となっている」と強調した。
AIスーパーサイクルとは何か、現在はどの段階か
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IDCによると、世界の企業によるAI支出は2026年に9400億ドルに達し、2029年には2兆1000億ドルに成長する見通しだ。中国はその中でも世界で最も成長が著しい市場の1つである。IDC Chinaのマネージングディレクター、キティ・フォク氏によると、AIスーパーサイクルの第1段階は計算能力、基盤モデル、インフラが中心だった。現在進行中の第2段階は、企業向けアプリケーション、エージェンティックAI、そして大規模なインテリジェントサービスが焦点となる。フォク氏は「市場はインフラ構築から企業アプリケーションの爆発的普及へと移行した」と指摘する。
中国のロボット市場の規模
中国は2029年までに世界最大のロボット市場となる見通しだ。中国のメーカーは、既に複数のカテゴリーで世界的な出荷量をリードしており、IDCの調査予測によれば、中国のエンボディードインテリジェンス(身体化された知能)への支出は、今後5年間で14億ドルから770億ドルへと急成長し、年平均成長率(CAGR)は94%に達すると予測されている。
企業AIのコストとROIを左右するもの
企業AIで、コストと価値を定義する単位は「トークン」に移行している。IDC Chinaのバイスプレジデント、ジェンシャン・ジョン氏は、企業AIが「生成」から「実行」の段階に入ったと述べる。トークンはコストの中核で、エージェントは価値の中核となる。
中国のMaaS(Model-as-a-Service)市場は、2024年から2030年にかけて1154.9%のCAGRで成長する見込みだ。2026年にはトークン呼び出し回数が4京回に達し、収益は約186億人民元に上る見通しとなっている。中国の主要企業の60%以上が、既に生成AIを中核的なビジネスプロセスに統合している。
「FLOPS」に代わり「(キロ)ワット当たりのトークン」が指標に
生身の計算性能(FLOPS)だけでは、もはや実態を測れない。現在重要な指標は「(キロ)ワット当たりのトークン」、つまりエネルギー単位当たりどれほど効率的に有用なAI出力を生成できるかだ。2027年までに、インテリジェントコンピューティング需要の70%以上を推論が占めるようになり、エッジインフラはコアデータセンターよりも速く成長する。
世界のアクセラレーテッドコンピューティングサーバ市場は2029年までに1兆ドルを超え、毎年30%以上の成長が見込まれる。IDC Chinaのバイスプレジデント、トーマス・ジョウ氏は、AIの競争優位性は「計算能力の多さ」から「いかに低いトークンコストで、AIを持続可能なビジネス能力に変換できるか」に移ったと分析する。
第15次5カ年計画がデジタル経済をどう変えるか
2026年に始まった第15次5カ年計画では、「ビジネス機会の創出」「デジタル主権」「グローバルな能力の再構築」の3つが優先事項となっている。AI、データ、計算能力が融合する中で、中国のデジタル技術支出は数年にわたり2桁成長を維持するとIDCは予測している。
中国企業の戦略は、製品の輸出から「能力、プラットフォーム、エコシステム」の輸出へとシフトしている。IDC Chinaのチーフアナリスト、リエンフェン・ウー氏は、AIネイティブなプラットフォームを早期に構築し、業界特有のシナリオを深め、開発者エコシステムを拡大する企業が次の成長サイクルを制するとみる。
インダストリアルAIが変える中国の製造現場
インダストリアルAIは試行段階を終えた。企業はAIを生産、サプライチェーン管理、業務上の意思決定、アフターサービスに統合し、バリューチェーン全体のアップグレードを推進している。従来の産業用ソフトウェアが「記録と制御」に焦点を当てていたのに対し、新世代のシステムは「知覚、予測、協調実行」の機能を備えている。IDC Chinaのアシスタントリサーチディレクター、カイ・ツイ氏は、データのサイロ化を解消し、研究開発からサービスまでの連携を再構築することに真の価値があると指摘している。
AIネイティブ時代のスマートデバイス
2026年の中国のスマートデバイスの出荷台数は、前年比約0.3%増の9億台に達する見込みだ。メモリなどの主要部品の供給逼迫(ひっぱく)により、市場は大幅なコスト圧力に直面している。しかし、より重要な変化は購入者が何を求めているかだ。
IDCのグローバルおよび中国リサーチ担当バイスプレジデント、アントニオ・ワン博士は、ハードウェアのスペックではなく、インテリジェントな体験とエコシステムの能力が購入の動機になっていると分析する。AIネイティブなエンドポイントは、単なる製品のアップグレードサイクルではなく、価値の分配とエコシステム競争の新たな局面を表している。
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