評価されるのは「書かない」技術者?
AIで3年後に最も姿を変えるIT職種は? 6人のリーダーが明かす未来
AIはITの仕事を奪うのではなく、その本質を「実行」から「判断と調整」へ激変させる。3年後、評価されるのは作業をこなす人ではなく、AIを指揮する「オーケストレーター」だ。IAMやサポート、開発の現場で起きる地殻変動と、情シスが今すぐ手に入れるべき新たなスキルの正体を解き明かす。
AIは、ちまたでいわれるほど多くのIT職を奪うわけではないかもしれないが、その多くを変容させるのは確実だ。
企業がAIの試験運用を終え、日常業務への組み込みを開始する中で、ITリーダーは従業員に新たな役割を求めている。それは、AIの監視、ガバナンス、オーケストレーションを中心とした業務への適応だ。この変化は、採用やリスキリング、組織設計に影響を与える。今後数年でどのIT職がより戦略的な役割を担うかという点も変わるだろう。
TechTargetは、6人のシニアITリーダーに「AIの影響で、3年後に最も姿を変えているIT職種は何か」という同じ質問を投げかけた。回答は一貫しておらず、ソフトウェアエンジニア、インフラエンジニア、ITサポート、アイデンティティーアクセス管理(IAM)担当者などが挙がった。しかし、IT業務の本質が「実行」から「判断、ガバナンス、オーケストレーション」へと移るという点では、ほぼ全員の意見が一致した。
エグゼクティブサマリー
3年後に最も変化しているIT職種について、ITリーダーたちは以下の見解を示している。
- ソフトウェア開発、ITサポート、アイデンティティーアクセス管理の各役割は、AIエージェントのプロビジョニングやガバナンスへの対応に伴い再編が進む
- IT業務は、直接的な作業の実行から、AIシステムのオーケストレーションやエージェントのワークフロー管理へと移行する
- AIガバナンス、セキュリティ、コスト効率、エンタープライズオーケストレーションに関連するスキルが新たな優先事項となる
- IT職種はより戦略的で判断力が求められるものになり、意思決定の設計やAIの適用モデルの設計、AIの適用時期・方法の判断が重視される
AIによって3年後に最も姿を変えているIT職種は何か
ハリッシュ・ヴンダヴァッリ(高等教育サービス企業Strategic Educationシニア・テクニカル・アーキテクト)
最大の変化は、人員削減ではなくITエンジニアの働き方に現れる。コラボレーション相手の多くは、人間ではなくエージェントになるだろう。エンジニアはエージェントで構成される小規模なチームを管理し、人間同士の協力はより高いレベルへと移行する。実行そのものよりも、監視や判断、調整といった役割が中心になるのだ。
スキルの需要は急速に変化しており、その兆候は既に現れている。今後は、企業全体でエージェントをいかに安全かつコスト効率よく管理するかという、エージェント環境のセキュリティ分野に役割が集中すると予測される。トークンの消費量を削減し、経済的にAIを活用するワークフローを設計できるエンジニアは、高く評価され高報酬を得るだろう。
だが、最大の課題はエンタープライズレベルでのオーケストレーションの意思決定だ。どのワークフローやプロセスにAIによる調整が必要で、どれが必要ないのかをどのように判断し、ベンチマークを行うべきか。この判断を正しく行うことは難しく、そこが今後数年で大半のITエンジニアがリスキリングを行い、自らを再定義する場になるはずだ。
ジョー・ウィルソン(顧客エンゲージメント・収益管理ソフトウェア企業CSGのCIO)
最も変化するのは、現場で手を動かすインフラエンジニアだ。現在、手作業でファイアウォールのルールを書き、スイッチを設定し、一行ずつ接続を構築している人々だ。3年後、それはもはや仕事ではなくなっているだろう。
こうした専門性への障壁は取り払われつつある。既にGeminiやClaudeなどに「こういった動作をするルールが必要だ」と伝えれば、推奨されるアクションを生成し、ルールそのものを書き出してくれる。さらに「全てのファイアウォールを簡単に制御できるアプリを作ってくれ」といえば、大規模言語モデル(LLM)はそれさえもこなす。従って、役割の価値は「書けるかどうか」から「書くシステムをオーケストレートできるか」へと移る。
これは、下積みの料理人から総料理長になるようなものだ。下積みの料理人は全ての材料を刻み、コードの一行一行を手作業で作る。一方で総料理長は、複数のエージェントが作る多様なコンポーネントをオーケストレートし、仕上げのタッチを加え、全体として成立させる。私の優秀な同僚たちの多くは、既にエンジニアリングAIツールのヘビーユーザーだ。一度解決した問題を何度も適用できる仕組みを作れば、役割は「ライター」から「エディター」へと変わる。
この変化で生き残れるかどうかを決めるのは、好奇心だ。毎日時間をかけて作業をしながら「これはAIで解決できないだろうか」と考えない人は、既に取り残されている。スキルやワークフロー、肩書は後から付いてくるものだが、個人レベルでの差別化要因は、その問いを投げ続けられる資質があるかどうかだ。
セルゲイ・イリソフ(水素電気航空企業ZeroAviaのIT・DX担当責任者)
最も変わるのは、エンタープライズプラットフォームとDXを担当するITマネジャーだろう。
この役割がなくなるわけではないが、重心が移動する。現在、大半のITマネジャーはシステムの納期、ベンダー調整、サポートパフォーマンス、予算管理、ガバナンスによって評価されている。だが3年後、優れたITマネジャーは、組織がより良い意思決定を迅速に行えるよう、人、プラットフォーム、AIを活用したワークフローをオーケストレートする能力で評価されるようになる。
ITマネジャーは、従来のサービスオーナーというよりも「意思決定のアーキテクト」としての側面が強くなるだろう。技術的な知識は変わらず重要だが、差別化要因はオペレーティングモデルの設計になる。具体的にはデータの所有権、プロセスアーキテクチャ、決定権、サイバーセキュリティ、追跡可能性、AIガバナンス、そして導入の推進だ。ツールを管理するだけのITマネジャーは存在価値を失う。リスクを制御しつつAIをビジネス成果に結び付けられる人材は、より戦略的な存在になるだろう。
ケン・リングダール(出張・経費管理ソフトウェア企業EmburseのCTO)
ソフトウェアエンジニアの役割は劇的に変わるだろう。AIによって、仕事の内容がコードの作成から「成果の演出(ディレクティング)」へと変化しているからだ。優秀なエンジニアとは単にコードを書くのが速い人ではなく、何を構築すべきかを判断し、業務を適切に分割し、コーディングエージェントを指揮し、何が本番環境に耐えうるかを見極められる人を指すようになる。
役割の中心になるのはプロダクトエンジニアリングの考え方だ。この概念自体は新しくないが、AIによってより普及し、価値が高まるだろう。コード生成やテスト、文書化、プロトタイプ作成といった定型的な作業をAIが引き受けるようになれば、エンジニアは顧客の課題やビジネスの文脈を技術的な実行に結び付けることにより多くの時間を割く必要がある。最も価値のあるエンジニアは、単に決められたチケットをこなす人ではなく、プロダクトと技術のトレードオフを強力に判断できる人だ。
また、エンジニアはAIの熟練したオーケストレーターになる必要がある。本番レベルのソフトウェアを書き、レビューし、運用するための深い技術的理解は依然として必要だが、開発速度はコーディングエージェントをいかに適切に導けるかに依存するようになる。同様に重要なのは、いつ、どのAIを、どの程度使うべきかを知ることだ。ソフトウェア開発のライフサイクル全体でAIのコストが上昇する中、AIを効率的に使いこなすこともエンジニアリングの技能の一部になる。
ボリス・コレフ(起業家精神教育などを提供するNPO法人JA Worldwideのテクノロジー部門グローバルヘッド)
「同僚たちの役割は、生産重視からオーケストレーション重視へと移行している。彼らはもはや自らコードを書くのではなく、日々エージェントを管理し、指示を出している。狭い範囲の専門スキルを持つ人々は、AIエージェントと効率的に働くために、より幅広いIT分野の要点を知る『広範な知識のオペレーター』にならなければならない。
20年前のIT職種は、ネットワークやシステム管理、バックエンド、フロントエンドを兼ねる幅広いスキルセットを必要としていた。その後、専門分化が進んだが、今は再び状況が逆転している。AIエージェントのチームを管理するために、より広範なスキルセットが求められているのだ。ITチームには、厳密な技術知識よりもビジネススキルが必要になる。広範なビジネスニーズや運用ニーズを理解し、それをAIエージェントへの指示に翻訳するためだ。
最も姿を変える職種の1つはITサポートだろう。その名称さえ変わるかもしれない。「サポート」という言葉は、何かが壊れた後に始まる受動的な印象を与える。AIの導入により、この機能はより能動的になり、「デジタルエクスペリエンスオーケストラレーター」や「AIサービスコンシェルジュ」のようなものへと進化する。単にチケットを処理するのではなく、人々がどのように助けを得るかのプロセスを設計し、ナレッジを維持し、AIが一次サポートを安全に処理できるようにする役割だ。
かつてのITは地下室の整備士だった。AIはITを管制塔へと変えようとしている。システムはより速く、より自律的に動くようになる。人間の役割の価値は、デジタル空間全体が調整され、安全で、理解可能な状態に保たれることを保証する点にある。
ウィル・ベングトソン(アイデンティティー・ガバナンス・ソフトウェア企業C1のCISO)
最も変化するのは、カンファレンスの発表資料にはあまり登場しない役割、すなわちアイデンティティーアクセス管理(IAM)の管理者だ。現在、この仕事の大半は「人間の配管作業」だ。従業員のプロビジョニングを行い、アクセス権の確認を行い、誰がなぜ何にアクセスできるのかを解明することに多くの時間を費やしている。今後3年間で、人間についての部分は簡単な仕事になる。難しいのはAIエージェントだ。彼らは認証情報を持つ「非人間のアイデンティティー」であり、自らアクセスを要求し、マシンスピードで動作し、さらに多くのエージェントを増殖させる。
私は長年、Netflixでクラウド上の侵害されたアイデンティティーを検出し、最近ではHashiCorpでインフラとマシンの認証情報の保護に携わってきた。権限を与えすぎたエージェントは、かつて私が追跡していた脅威によく似ている。そのため、日常業務は「人のオンボーディング」から「人のように振る舞うソフトウェアの統治」へとシフトする。エージェントが何に、いつまで、どのような条件で接触してよいか。予期せぬ動作をしたときに、いかに速やかにアクセスを遮断できるかが重要になる。
私の立場からすれば、これらの役割の重要性は低下するどころか、むしろ高まっている。過剰な権限を持つエージェントの影響範囲(ブラストラジアス)は、過剰な権限を持つ新採用の人間よりもはるかに大きい。しかも、私たちが長年頼りにしてきた人間特有の予兆を見せることもないのだから。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
市場調査・トレンド
[アイティメディア株式会社] AI Overviews時代のB2Bマーケ! 成長企業が選ぶ戦略とは? -
市場調査・トレンド
[アイティメディア株式会社] なぜあの施策は失敗したのか? B2Bマーケ施策を成功させる3つの鉄則 -
市場調査・トレンド
[株式会社Zendesk] 調査で判明:AIを活用したCX変革、成功に向けて押さえておきたい5つのトレンド -
製品資料
[三菱HCキャピタルITパートナーズ株式会社] ランサムウェア対策の第一歩、業務PC上で“感染させない”仕組みの作り方 -
製品資料
[株式会社シーイーシー] 失敗しない「脱VMware」の進め方、検討のステップと2つのユースケースを解説
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
Microsoft 365侵害企業の9割はMFA導入済み 1002人調査で見えた盲点
-
2
「アップグレードできないJava」をどう守る IBMとRed HatがAIで400件超修正
-
3
「GitLab」に最高深刻度の脆弱性 2014年以降の全版に影響を及ぼす恐れ
-
4
PHP脆弱性「PHP2Shell」で2260万件に影響 情シスの緊急チェックリスト
-
5
OpenAIやAnthropicでさえ制御不能 2026年夏「3大サイバー攻撃」の衝撃
-
6
PHPはそもそも必要か? 脆弱性で問われる自社サイト安全性と保守負担のバランス
-
7
米国防総省で300万人分の個人情報が流出 その「意外な原因」と教訓
-
8
金融・通信で情報漏えいが続出 IPAとJPCERT/CCが情シスに求める緊急点検
-
9
「Copilot」がIT予算を食いつぶす? 高額請求を招く課金体系と節約術
-
10
テザリングにも「限界」がある モバイルルーターを選んだ方がよい基準は?
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
3
10G回線の真価をフルに享受するには? 導入前にチェックしたいポイント
-
4
SCS評価制度時代の「SASE選定」ガイド
-
5
顧客対応自動化の要点:RAGとデータ連携で“業務で使える生成AI”にする方法
-
6
マンガで解説:情シスの負担を減らす「MDRサービスのインシデント対応」の中身
-
7
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
-
8
経験豊富な即戦力人材に直接アプローチできる、「攻めの採用」への転換術
-
9
2026年のサイバーセキュリティには何が必要か? 最新データに学ぶ傾向と対策
-
10
「EDR」選定ガイド:比較・検討フェーズで整理すべきポイントを解説
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー