役割分担と準備は外注前に
なぜ外注しても情シスは楽にならないのか? 「丸投げ企業」5つの失敗
情シス業務の外注が人手不足対策として広がる一方、負荷が減らないケースもある。外注で陥りやすい問題と、丸投げを防ぐために発注側が取り組むべき準備、運用方法を解説する。
情報システム(以下、情シス)部門の外部委託(以下、外注)は、人手不足や業務過多を補う手段として広がっています。しかし、外注すれば自動的に負荷が下がるとも限りません。
本稿では、外注しても楽にならない企業に共通する落とし穴と、丸投げを防ぐための準備・運用のポイントを紹介します。
外注に失敗する企業の共通点5選
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SmartHRが2025年10月に公開した「情報システム業務のアウトソーシング」実態調査によると、外注業務として次の3つが上位に挙がっています。
- 「システム監視・運用」(50.5%)
- 「アカウント管理・権限設定」(44.6%)
- 「ヘルプデスク・問い合わせ対応」(40.7%)
いずれも定型的な作業を切り出しやすく、外注対象として選ばれやすい業務だと考えられます。同調査では、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を導入した企業の62.7%が、月20時間以上の工数削減を実感しているという結果も示されています。
一方、工数を削減できても、外注先との調整や品質管理に手間がかかり、「期待したほど負荷が下がらない」と感じるケースもあります。ひとり情シスや少人数の情シスにとって、外注は単なる選択肢の1つではなく、業務を継続するための現実的な手段になり得ます。では、外注しても負荷が下がらない企業には、どのような共通点があるのでしょうか。
外注しても楽にならない企業の共通点
SmartHRの調査では、BPOに対する不満として、次の回答が上位に挙がっています。
- 「社内の意図や業務内容を正しく理解していない」(37.3%)
- 「業務品質にムラがある・ミスがある」(35.2%)
- 「対応範囲が限られており、柔軟な対応ができない」(30.6%)
- 「コミュニケーションに時間がかかる・認識ズレが起きやすい」(27.2%)
こうした不満は、外注先のスキルや対応だけが原因とは限りません。発注側が外注の目的や業務範囲、判断基準、情報共有の方法を十分に定めていないために、認識のズレや品質のばらつきが生じることもあります。外注でつまずく会社には、以下の共通点があります。
共通点1.コスト削減だけを目的にしている
外注を「コストを下げるための手段」とだけ捉えると、品質の低下や管理の手間が増えるリスクを見落としやすくなります。値段の安さだけで外注先を選ぶと、契約範囲外の作業に追加費用がかかったり、対応漏れを自社で補ったりすることになります。その結果、総コストが膨らむことがあります。
共通点2.責任範囲が曖昧なまま外注している
「どこまでが外注先の責任で、どこからが自社の責任か」が明確でないまま契約を結ぶと、障害対応や問い合わせ対応の場面で混乱が生じやすくなります。責任の所在が曖昧なままでは、トラブル発生時に対応が後手に回ります。
共通点3.セキュリティリスクと外注先管理を軽く見ている
業務を外注しても、発注側が自社の情報資産を適切に管理し、外注先を監督する責任は残り続けます。外注先の対策状況を確認し、必要な安全管理措置を契約や運用に組み込む必要があります。
共通点4.現場とのコミュニケーション設計がない
外注先と現場部門の間に認識のズレがあると、対応遅延やトラブルが多発します。これを防ごうと、全てのやりとりを情シスが中継する体制にしてしまうと、今度は情シスの負荷が下がりません。誰が問い合わせを受け、どの条件で情シスにエスカレーションするのか、連絡経路と役割を事前に決めておく必要があります。
共通点5.業務がブラックボックス化している
外注先に任せ切りにしてしまうと、社内に業務知識が残らなくなります。手順書や台帳、判断基準などのノウハウが外注先に蓄積し続ける状態は、担当者の交代や障害対応、外注先の変更においてリスクになります。必要な情報を社内ですぐに確認できず、障害時の初動が遅れたり、新たな外注先への引き継ぎが難しくなったりする恐れがあります。
丸投げを防ぐ「外注前の準備」
外注先を探す前に、まず自社側で整えておくべき準備があります。
外注前の準備1.業務を棚卸しし、社内と外注に切り分ける
外注先に業務を任せる前に、自社の業務内容を棚卸しします。まず、業務を性質に応じて「定型業務」「判断業務」「戦略業務」に分類します。その上で、以下のように「外注しやすい仕事」と「社内に残す仕事」に切り分けます。業務量や頻度、属人化の程度、リスクの大きさも合わせて確認し、外注前に現行の手順を文書化しておくと、外注先との認識合わせがスムーズになります。
以下の業務は外注しやすいです。
- ヘルプデスク一次対応
- PCキッティング
- 端末の調達・配布・回収・廃棄に伴う定型作業
- アカウント発行・削除
- アカウント登録やライセンス付与など、定型的なSaaS設定
- 監視・一次切り分け
- 定期レポート作成
一方で、以下のような業務は社内に残すことをお薦めします。
- IT戦略の立案やIT投資の判断
- セキュリティ方針の策定
- 事業部門との優先順位調整
- 例外対応の判断
- 外注先評価・契約管理
- システム全体の構想
- 経営層への説明
少人数の情シスで全業務の棚卸しをする余裕がない場合は、問い合わせ一次対応やPCキッティング、アカウント発行・削除など、頻度が高く手順化しやすい業務から着手することも1つの手です。
外注前の準備2.外注先を選ぶ前に運用の5項目を決める
外注先を選ぶ前に、成果の基準だけでなく、セキュリティや情報共有、運用後の改善方法まで決めておく必要があります。そのために決めておきたい項目が次の5つです。
- SLA(サービスレベル契約)とKPI
- 対応時間や可用性など、契約上守る水準をSLAとして定めます。加えて、解決率や満足度、エスカレーション件数や、その判断の適切性などをKPIとして設定し、運用状況を評価します。
- セキュリティ要件
- 外注先に付与する管理者権限の範囲や、閲覧・操作を認めるログの種類を明確にします。情報の持ち出しルール、再委託の可否、インシデント発生時の報告フローも含めて確認しておかなければ、いざというときに対応が後手に回ります。
- ナレッジ管理
- 業務に関する知識を誰が、どこに残すかを決めておきます。先に述べた通り、手順書やFAQ、構成情報、アカウント台帳が外注先だけに蓄積される状態は、後々のブラックボックス化につながるため注意が必要です。手順書や台帳は自社が閲覧できる共通基盤に保存し、更新者と更新頻度を定めておきます。
- エスカレーションルール
- 手順書通りに処理できる案件は外注先で完結させ、例外対応、権限変更、重大障害などは社内情シスにエスカレーションする、といった基準を定めます。ここが曖昧だと、ささいな確認まで情シスに回ってきたり、逆に判断すべき場面を外注先任せにしてしまったりしてトラブルにつながる可能性があります。
- 定例会と改善サイクル
- 外注して終わりにせず、継続的に見直す仕組みを作ります。月次でのレビューや課題の管理、改善提案を出し合う場を設けておくことで、外注後も業務の質を保ちやすくなります。
外注前の準備3.小さく始めて、効果を検証してから広げる
少人数の情シスでは、負荷が高い業務の中から、手順化しやすく切り出しやすいものを優先すると、効果を実感しやすくなります。最初から広い範囲を外注するのではなく、例えば3カ月程度の試行期間を設け、ヘルプデスク一次対応やPCキッティングなど手順化しやすい業務から始め、効果を確認する進め方が望ましいです。
効果を確認する指標としては、問い合わせ件数や対応時間、同一原因による問い合わせや障害の再発件数、現場の満足度、社内情シスの削減工数などがあります。検証結果をもとに、アカウント管理やSaaS管理、監視運用などへ範囲を広げるかどうかを判断します。
外注後に情シスが担うべき役割
外注は契約して終わりではありません。外注後は、情シスの役割の比重は、個々の作業から業務全体の設計や外注先の品質・リスク管理へと移ります。品質やコスト、セキュリティを管理するとともに、継続的な業務改善を進める必要があります。
経済産業省が公開している「システム管理基準」(令和5年4月改訂)でも、外部委託や外部サービスの提供状況を継続的に確認し、不整合や不具合があれば対応することが求められています。そのため、発注側は外注先の対応品質を定期的に確認する必要があります。問い合わせ件数や対応時間、再発件数を見える化した上で、現場からの不満や改善要望を拾い上げることが欠かせません。月次の定例会で課題と改善策を確認し、契約更新のタイミングでは費用対効果と業務範囲をあらためて見直すことをお薦めします。
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