「あずきバー」の井村屋を“属人化の沼”から救ったAI需要予測 熟練を超える実力とは:チルド製品の需要予測精度が向上
食品業界における需要の読み違えという深刻なリスクに対し、井村屋グループは長年依存してきた「熟練者の勘」を見直した。AWSでAI需要予測ツールを構築し、どのように手作業による属人化から脱却したのか。
食品製造業において、賞味期間の短さや季節変動の激しさは、製品の欠品と廃棄に直結する深刻な課題だ。井村屋グループが手掛けるチルドタイプの肉まんやあんまんは、日々の気象条件や営業施策によって出荷量が大きく変動するため、高い需要予測精度が求められていた。
しかしこれまでの出荷数予測は、特定の熟練担当者の経験や勘に依存していた。担当者は毎日約2時間を費やして「Microsoft Excel」、「kintone」で構築した業務アプリケーション、基幹システムに散在するデータを手作業で抽出して整形を行っていた。運用当初から継ぎ足されてきた「秘伝のたれ」のような複雑な業務プロセスは、引き継ぎに対する潜在的なリスクを抱えていた。気象データといった予測に有効な外部情報を十分に活用し切れないという課題も存在した。
この属人化や人手不足といった課題を打破するため、井村屋グループはデータ活用に強みを持つHashupと連携し、「Amazon Web Services」(AWS)にデータレイクと時系列予測モデルを構築した。結果として、これまで手作業で行っていたデータ抽出や予測結果の出力作業を自動化し、業務工数にして90%の削減を達成している。
長年培われた属人的な業務ノウハウを、どのようにしてクラウドインフラに再現し、わずか4カ月で熟練者を超える予測精度を導き出したのか。
「毎日2時間」の苦行が5秒に
本プロジェクトにおいて、井村屋グループは大きく2つのアプローチでシステムの変革を推し進めた。
1つ目のアプローチは、散在するデータを一元化し、自動連携するデータレイクの構築だ。これまで担当者が手作業で実施していた、業務アプリケーションや基幹システムからのデータ抽出作業を自動化し、AWSに集約した。気象情報も自動で取得できる仕組みを構築し、予測の参考データとして恒常的に活用可能にしている。
開発においては、現場担当者への綿密なヒアリングを重ねることで、属人化していた複雑なデータの流れを把握した。新しいシステムへの移行に対する現場の心理的負担を軽減するために、自動出力される見込みシートの見た目を既存のファイルと極力同じになるように配慮する独自の工夫も施されている。この結果、毎日約2時間かかっていた見込みシートの作成作業が、ボタンを押すだけでわずか5秒で自動生成されるようになった。
2つ目のアプローチは、一元化されたデータを用いた高精度な時系列予測モデルの構築だ。井村屋グループは、機械学習モデルを視覚的に構築できる「Amazon SageMaker Canvas」を活用した。過去2年半の出荷実績データに加え、代表6地点の気温、販促施策の情報、前週のトレンドなどを学習データとして投入した。AIモデルが最適な設定値を自動で導き出し、最もパフォーマンスの高い予測モデルを選択する仕組みを取り入れた。その結果、日本の祝日情報、気温、小売業者の見込み数、前日実績、前週トレンドといった要素が、出荷予測に有効な因子であることが分かった。
このAI需要予測の結果は、熟練担当者の実績と比較しても極めて優秀だった。あんまんの翌日出荷数予測の誤差率において熟練担当者が6.2%であったのに対し、AI需要予測は6.0%と同等以上の精度を記録した。季節変動の影響を受けやすい「ゴールド肉まん」においては、熟練担当者の誤差率15.4%に対して、AI予測は9.8%へと大幅に精度を向上させている。
井村屋グループの担当者は、「機械学習の専門知識がなくても高精度な時系列予測モデルを構築できた。クラウドインフラにデータレイクを構築したことでデータが一元化され、今後のデータ活用基盤としても機能している」と評価している。クラウドサービスを適切に組み合わせたことで、開発開始から約4カ月で概念実証(PoC)を完了できたスピード感も評価点だ。
特定担当者の経験や勘に依存しない、再現性のある予測プロセスを確立した井村屋グループは、さらなる展望を見据えている。2026年の秋冬シーズンに向けては、業務自動化からAI需要予測までの一気通貫システムへの完全移行を計画している。業務アプリケーションの特売見込み情報と連携させたより長期的な出荷予測、AI技術による原材料発注計画の自動化、他カテゴリー製品への展開も目指している。
蓄積された多様なデータは、需要予測だけでなく経営判断に直結する資産となる。今後のロードマップとして、ビジネス解析ツールを用いてAIモデルの予測値と実績値のギャップをリアルタイムに可視化するダッシュボードの構築も検討されており、企業全体のデータ駆動型経営はさらに加速するだろう。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。