企業向けシステムを構築するパブリッククラウド【第6回】
高品質なネットワークと豊富なサービスメニューを備える国産クラウド「GIO」
国産のクラウドベンダーであるIIJが提供する「GIO」。日本の事業者ならではのきめ細やかさと、「個別対応/別途見積もり」に逃げないサービスメニューの豊富さは特筆に値する。
本連載「企業向けシステムを構築するパブリッククラウド」ではパブリッククラウドを使った企業向けシステム構築について解説し、これまで5回にわたり、Amazon Web Service、Force.com、Google App Engine、Windows Azure、Verizon Business(CaaS)を取り上げた。ここまで連載して気付いたのだが、米国のクラウドベンダーばかりを扱っており、日本国内のクラウドベンダーにまったく言及していない。一部からもご批判・ご要望もあり、連載を再々延長して「第6回」をお届けすることとしたい。
今回は株式会社インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)が提供している「IIJ GIO」(以下、GIO)を紹介する。毎度申し上げていることではあるが、変化の激しい分野でもあるので、記載されている情報は原稿執筆時点のものであることをご了解いただきたい。
IIJの概要
ご存じの方も多いと思うが、IIJは日本のインターネットの黎明(れいめい)期に創立されたインターネット接続専業の通信事業者である。一般消費者向けのプロバイダー(ISP)の草分けとしても著名だが、得意分野は大規模な通信インフラを活用した企業向けインターネット接続および拠点間通信である。同社が日本の社会基盤として高品質なインターネットを整備してきたという実績は異論のないところだろう。
かつてIIJの子会社が、2000年より企業向けにITリソースをオンデマンドで提供するシステムインテグレーション、アウトソーシングサービス事業を実施していた。このサービスにおいては、顧客はサーバなどの機器類を保有する必要がなく、また課金も月額課金方式であった。今でいうクラウドに近いサービスだったわけだが、今般、IIJはこの子会社を吸収し、また、サービス内容を大幅増強して「日本のクラウド」と銘打って(再)参入を実現した。2009年12月に始まったクラウド系新サービスが「GIO」である。
GIOの概要
GIOは、3種類のサービスレイヤーで構成されている。最上位のレイヤーではアプリケーションをクラウド型で提供するサービス(いわゆるSaaS)がある。ここではサイボウズのガルーンや、自社開発のモバイルCRMサービスなどをレディーメードで提供している。残念ながらサービスのラインアップはあまり多くない。
2番目のレイヤーはプラットフォームサービスと呼ばれ、PaaSに近いHaaSである。こちらもレディーメード型でWebホスティングの開発環境/実行環境や、大規模ストレージ、シトリックス・システムズ・ジャパンの仮想デスクトップなどを提供している。このレイヤーのサービス内容と、ユーザー企業の利用目的とが合致した場合には、超短納期で利用開始が可能であり、非常に強力な武器となり得る。ただし、前項同様、サービスメニューは豊富とはいえないようだ。本稿ではこれらの上位2レイヤーについて詳解することは避け、次に述べる3番目のサービスレイヤーに注力したい。
3番目はコンポーネントサービスと呼ばれ、HaaS/IaaSに類するものである。この部分こそGIOの真骨頂である。
IIJ GIO コンポーネントサービス
一般にコンポーネントとは、「部品」「構成要素」という意味の言葉である。GIOの「コンポーネント」も多種多様な「構成要素」から成り立っており、ユーザーはそれらの選択と組み合わせによってサービスを受けられる。いわゆる、オーダーメード型である。「コンポーネント」にはサーバ類やストレージ、ミドルウェアは当然含まれるが、これらの要素のほかに、ネットワーク構成や監視サービス、オペレーションサービスなども含まれている点はほかのクラウドにはない興味深い点だ。また、部分的にユーザー独自の機器を持ち込んで利用することも想定されている点は特筆に値する。
サーバ関連
サーバは、仮想サーバ(共有タイプ、「Vシリーズ」と呼ばれる)と物理サーバ(専有タイプ、「Xシリーズ」と呼ばれる)が提供されている。仮想サーバは汎用性が高く、スペックの幅も広い(最小と最大で約16倍の差を持たせている)。Webアプリケーションサーバのようなスケーラブルな用途から、一般的な業務アプリケーションサーバとしても利用可能だ。仮想サーバでありながら、HA(高可用性)構成も標準メニューで提供できる点は特徴的といえる。
物理サーバは、エンタープライズシステムのデータベース(DB)サーバなど、ハイパフォーマンスマシンが必要な場合に選択するとよいだろう。現時点では1タイプしか提供されていない(コア数:8、メモリ:24Gバイト)が、徐々にラインアップは増強される見込みである。また、DBサーバはストレージとの間のI/O速度が問題になることが多い。CPUのパフォーマンスがいかに優れていても、書き込みや読み込みの速度が遅ければ意味がないわけだが、この点を明確に意識しているクラウドサービスはあまり見掛けない。GIOの物理サーバのストレージでは、通常のNAS(Network Attached Storage)以外にSAN(ファイバーチャネル接続)が用意されており、パフォーマンスを十二分に引き出せるようになっている点は秀逸だ。サーバ関連ではスペック、OS、ストレージ、ネットワーク回り(ロードバランサ、ファイアウォール、WAFの有無など)で、「1000通り以上の組み合わせ」を掲げている。
高品質なネットワーク
前回紹介したベライゾン・ビジネスの「CaaS」は「世界最大のネットワーク事業者が提供するクラウド」と説明した。GIOもIIJという「国内大手のインターネット接続事業者」が提供するクラウドであり、決して引けを取らない。むしろ日本企業のニーズをきめ細かく丁寧にすくい上げているという点ではGIOに軍配が上がるだろう。「日本の事業者」ならではの安心感とアドバンテージである。例えばユーザー企業とデータセンターの間は、VPN接続のみならず閉域網接続も選択可能だ。ユーザーは通信キャリアを自由に選択でき、自前のIPアドレスを自由に利用できる。IPv6対応も問題ない。WAFは国産のエンジンを利用しており、マルチバイトに完全に対応しているので安心だ。これらのいずれもが「個別相談」ではなく、標準メニューとして準備されている点は心強い。当然のことながら、共用インターネット接続を利用する場合には、何といってもIIJのバックボーンに直結しているという点もアドバンテージが高い。
コンポーネントとしてのサポートサービス
日本の事業者ならではのきめ細やかさという点では、サービスメニューの豊富さも特筆される。ほかの事業者では、ややもすると「個別対応/別途見積もり」という形で「何でもできます」というスタンスに陥りがちだが、GIOはこの点も「コンポーネント」としてメニュー化している。ミニマムな「モニタリング」から、フルマネージドとでも呼ぶべきアプリケーション関連の非定型業務まで、高い技術で24時間365日の運用が可能だ。当然、価格も相応のものとなるが、自社で情報システム部を抱え込み、スタッフの専門教育に腐心するコストを考えれば、圧倒的に安いといえるだろう。
以上相まって、GIOはデビューから1年弱で、既に金融、公共などをはじめ、多種多様な分野で多くの実績を誇っていることが知られている(参考:「IIJ GIO導入事例」)。
課題
あえて課題を挙げるとすると、Amazon Web Services(AWS)などのサービスと比較して、「オンデマンド」性が低い。サーバ類の利用開始やスペックの変更には申し込みから3営業日かかる。また、利用料金は全般的に安価であるものの、初期費用や設定変更に作業費が発生してしまう。課金の単位は月単位であり、AWSのEC2のような時間単位とはなっていない。もっとも、大規模オンラインゲームのインフラのような特殊な用途でない限り、通常のエンタープライズ利用においてほとんど問題はないと考えられる(ちなみに大規模オンラインゲームの基盤としては、前述したプラットフォームサービスを活用するケースが多いようだ)。
リードタイムが3日であるという点について、筆者自身は比較的好意的にとらえている。サーバやネットワークの設定(プロビジョニング)に必要な期間であるわけだが、すべて人手で実施するには短すぎるし、完全自動化されているなら長すぎる。ここには「半自動」という中庸的な「解」がありそうだ。つまり、最上流の設計および最下流のテストを人間系の作業とし、中間のプロビジョニングは自動化して設定ミスや結線ミスを排除する。これによってサービスの品質を高く保っているのである。
将来性
クラウドサービスにおいて「オンデマンド」「完全自動化」は確かに1つの「ゴール」ではあるが、こと「サービスの品質」と「オーダーメード性」を重視すれば、必ずしも「正解」ではなさそうだ。GIOは、IIJの人と技術を背景に、日本産クラウドという安心感と共に今後もサービス拡大を続け、国産最強クラウドの地位を確たるものとしていくだろうと筆者は予測している。
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