注目のOpenStackプロジェクトの全体像:OSSクラウド基盤 OpenStackの全て【前編】
数あるオープンソースクラウド(IaaS)基盤構築ソフトウェアの中でも注目度の高いOpenStack。OpenStackプロジェクトがなぜ注目されるのか、その理由と全体像を解説する。
オープンソースのクラウド(IaaS:Infrastructure as a Service)基盤構築ソフトウェアは、国産も含めてかなりの数に上る。その中でも2010年7月に発表されたOpenStackは、突如現れたにもかかわらず本命の呼び声が高い。今回から前後編の2回にわたり、OpenStackプロジェクトがなぜ注目されるのか、その理由と全体像を解説する。
オンプレミスでクラウドを運用する意義
「OpenStack」とは、一言でいえばIaaSを構築するためのオープンソースソフトウェア(以下、OSS)である。OpenStackプロジェクトの本題に入る前に、クラウドとは何か、また、パブリッククラウドとプライベートクラウド(オンプレミスクラウド)のメリット/デメリットについて整理しておく。
クラウドとは
クラウドを定義する際には、NIST(米国国立標準技術研究所)による「NIST Cloud Computing Program」の定義が用いられることが多い。本稿でも基本的にNISTの定義に従う。定義について詳しくは、TechTargetジャパンの記事にNTTコミュニケーションズの林 雅之氏による解説があるので参照してほしい(参照:「エンタープライズクラウドを構成する4つの利用モデル」)。
本連載に関連するポイントとしては、利用者に提供されるサービスのレイヤーごとに、インフラ側からIaaS、PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)の3種類があること、利用者が誰なのかによってプライベートクラウド、コミュニティークラウド、パブリッククラウド、ハイブリッドクラウドの4種類に分類されるということである。
パブリッククラウドとプライベートクラウド
「パブリッククラウドとプライベートクラウドのどちらが優れていて、どちらを使うべきなのか?」――よくこのような問いがなされるが、「その問いには意味がない」というのが答えである。どちらにもメリットとデメリットがあり、利用者のニーズに応じて使い分けるべきである。以下、具体的に見ていく。
Amazon Web Services(AWS)に代表されるパブリッククラウドのメリットとしては、リードタイムの短縮(すぐに使える)、従量課金制(必要なときに必要なだけ使い、不要になったらやめられる)、無限ともいえる膨大な貸し出し可能リソースなどが挙げられる。これに加えて、サービスを運用するのに必要な設備を自社で所有しなくてよいため、バランスシートの改善効果もある。なお、リースについては、2007年の税制改正以降、一定以上の規模の企業ではリース品も資産計上して償却対象とする必要があることに注意が必要である。
これに対して、プライベートクラウドを持つ(オンプレミスで設備を所有する)ことの意義は、一般にリソースの利用率が高く、長期間使い続けるのであれば、自前で設備を持って運用した方が長期的なTCOは安く済むことである。そのほか、データの保管場所といったセキュリティの観点を挙げる人もいるし、インフラ運用ノウハウの担保、つまり現場力の維持も意義になるだろう。日本の産業界を支えてきた最大の要因は現場力の強さであったことを思い起こしてほしい。なお、現在は仮想プライベートクラウドというサービスもあり、オンプレミスで設備を所有せずにプライベートクラウドを構築することもできる。この場合、通常は利用者と提供者のサイト間をVPNで接続する(例:Amazon Virtual Private CLoud(VPC)、NTTコミュニケーションズ Bizホスティング ベーシック)。
しかし現在のビジネス環境では、ヒットするサービスの見極めや、サービスごとのピーク予測、すなわち必要リソース(設備)の見積もりが困難なことも事実である。そのため、必要最低限の設備はオンプレミスで所有・運用しつつ、変動分はパブリッククラウド事業者から購入するという考え方、すなわちハイブリッドクラウドの概念が注目されている。筆者は、少なくとも国内ではハイブリッド型のクラウド利用モデルが主流になっていくと予測している。だがハイブリッドクラウドにはまだ解決すべき技術課題も残っている。このための取り組みについては文末のコラムを参照してほしい。
以下、ハイブリッドクラウドの一翼を担うプライベートクラウド(IaaS)環境を構築するOSSを中心に解説する。
OSSクラウドインフラの動向
冒頭でも触れた通り、IaaS基盤を構築するためのソフトウェアは、OSSだけでもかなりの数に上る。ここでは代表的なものを幾つかピックアップして紹介する。
(1)Eucalyptus
「Eucalyptus」は、米国のカリフォルニア大学サンタバーバラ校での研究プロジェクトとして始まったソフトウェアである。現在はベンチャー企業としてスピンアウトし、米Eucalyptus Systemsとして開発を行っている。Amazon EC2 互換APIを実装しているのが特徴で、NASAのNebula Cloudで使用されているほか、Ubuntu Enterprise Cloudでも採用されている実績がある。Eucalyptus SystemsはOpen Core戦略を取っているが、付加価値版のEucalyptus Enterprise Editionは、WindowsゲストサポートやiSCSI、SAN、NASといったストレージの統合的な管理ができるなど、OSS版とはかなりの機能差がある。
(2)OpenNebula
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