業種別に切る! 中堅・中小企業のITソリューション【最終回】
外食サービス業が教える、売上高を引き上げるIT活用視点
中堅・中小企業のIT活用を業種という観点から俯瞰する本連載。今回は、消費スタイルが多様化する中、EDIやモバイルの活用で異業種とのエコシステムを構築する外食サービス業を取り上げる。
中食(なかしょく)や通販といった消費スタイルの多様化、少子高齢化など社会構造の変化により、外食サービス業は従来行ってきたIT活用による利益率の向上に加え、売り上げ(トップライン)を引き上げるための課題に直面している。そこでの取り組みには、外食サービス業以外の業種にも役立つ視点がある。今回はこうした外食サービスの取り組みを紹介していく。
従来型外食サービス業支援システムは本部中心の効率改善が中心
まず、外食サービス業を支えるITソリューションを概観しておこう。外食サービス業の業務は実際に飲食サービスを提供する「店舗」と管理業務を行う「本部」に大別される。店舗は各所に点在しており、それらが本部と密に連携している必要がある。こうした構造から、外食サービス業では比較的早い段階からASP/SaaS(Software as a Service)形態でのシステム導入が行われていた。以下は、外食サービス業を支援する一般的な業務システムを図示したものである。
それぞれの構成要素の主な役割は次の通りだ。
| 店舗側 | レシピ管理 | 各メニューに必要な食材や調理法を管理するシステム |
|---|---|---|
| 発注/仕入管理 | レシピ管理のデータに基づいた食材やナプキンなどの消耗品を本部へ発注する | |
| 勤怠/労務管理 | 社員やアルバイトのシフト管理などを担う | |
| 売上/損益管理 | POSシステムから得られたデータを本部へ送信するとともに店舗単位での売り上げや損益の状況を把握する | |
| 本部側 | 受注管理 | 店舗から送られた食材や消耗品の発注を受け付ける |
| 仕入れ先管理 | 食材や消耗品を仕入れ先に発注し、それらを各店舗に納品する役割を担う | |
| 支払い/請求管理 | フランチャイズ店舗に対する請求処理や仕入れ先に対する支払いなどを管理する | |
| 店舗管理 | 店舗の基本情報管理(出店計画管理など)やフランチャイズ管理などを行う |
上記のように、従来の外食サービス業支援システムは受発注処理を本部が担い、安価かつ迅速に食材や消耗品を調達することによって利益を改善している。さらに各店舗の売上状況を本部に集約し、計画的かつ効率的な店舗展開を進めるという、本部を中心とした効率改善が主眼であったといえる。
ごく小規模な外食サービス業では、売上管理をスプレッドシートで行っていたり、食材の受発注処理が紙面伝票ベースであったりといったケースもある。だが、IT投資余力を持つ一定規模以上の外食サービス業の大半には、POSシステムを含む上記のような業務システムが既に導入されていることが多い。それを裏付けるように、2010年11月時点で「IT投資を前四半期より減らす」と回答した中堅・中小のサービス業にその理由を尋ねた結果では「現状を維持する以外、特にITに対して投資をする必要はない」が50%近くに達している。
こうした状況に加え、中食や通販も含めた競合との価格競争、生活時間の多様化による長時間労働(開店時間の拡大)、少子高齢化による店舗従業員確保の困難といったように、業務システムによる効率化だけでは対処しきれない社会構造変化に起因する課題も発生してきている。こうした状況を乗り越えるためには、利益率の改善だけではなく、トップラインを引き上げる取り組みが必要になってくる。
EDI構築やモバイル活用によって他業種も巻き込んだサイクルを築く
こうした背景を受けて、昨今ではトップラインを引き上げるための外食サービス業支援ソリューションが登場してきている。以下では、その中でも特に注目すべき2つの取り組みを紹介する。
食材生産者とのパイプ強化
本部を中核とした食材調達の仕組みは、原価低減や安定供給といった観点では理想的だ。だが、例えば「千葉店のすぐそばには安価で高品質な畜産農家があるのに、食材は長野県の業者から中央の卸売市場を介して仕入れているので、地元の個人経営レストランと比べて鮮度が落ちてしまう」といったことも起こり得る。産地偽装問題や「プチぜいたく」といったトレンドもあって、産地明示へのニーズとそれに伴う食材に対するちょっとしたプレミア感の存在は、無視できない消費性向の1つとなってきている。また、安価で優れた農畜産物を仕入れたいと考える外食サービス業者と、モノは良いのに流通手段が見つけられない農畜産物の生産者とをマッチングさせる必要性は今後も高まっていくだろう。
こうした取り組みの1つの例が、ガルフネットの「GRuuS(グルーズ)」だ。マーチャンダイジング機能を備えたWeb-EDIで店舗、本部、農畜産物生産者を結び付けることにより、外食サービス業者だけでなく生産者も巻き込んだ形で、消費者にとって魅力的な食材を用いたメニューを安価かつ迅速に提供できる商流を実現しようとする業務システムだ。このように自社内での効率改善の視点にとどまらず、生産者側のメリットも考えた上で両者がWin-Winになれるエコシステムを構築するという発想には学ぶべきところがある。
GPS機能を活用した通販とのコラボレーション
通販というと、外食サービス業とは競合関係にある業種でもある。だが、外食サービス業の中で通販を行っているケースは、実は意外と多い。2004年~2005年に起こった、いわゆる狂牛病問題によって店舗収益が低迷した際、通販サイトでの冷凍パックが業績を下支えしたケースも過去にはある。うまく工夫をすれば、両者で相乗効果を見込める可能性はある。そこで有望なのが、携帯端末のGPS機能を活用したソリューションだ。
前回の小売業でも触れたように、最近では「チェックイン機能」と呼ばれる、現在の居場所に基づいたサービス展開を行える機能を持った携帯端末も増えてきている。これと通販を連動させると、「宮城県の店舗で食事をした場合には『宮城県ポイント』が付与され、提携している通販サイトの宮城県特産品を購入する際に割引となる」といった連携サービスも提供できる。現時点でのGPSの活用は「ワタミアプリ」のように「現在地から最も近い店舗を検索し、時限クーポン(※)を提供する」事例が主流だが、上記に述べたような通販サイトと外食サービス店舗との連携といったものも今後遠からず登場してくると予想される。
※店舗の混在状況などに応じて利用可能な時間帯が限定された割引券。
このように、通販という一見すると競合に見える業種との連携を図ることで、旅行先や出張先でのいちげん顧客の獲得など広い範囲での施策展開を実施することもできるわけだ。
このように、他業種も巻き込んだWin-Winサイクルを構築するという発想は外食サービスに限定されたものではなく、他業種におけるIT活用においても大きなヒントとなるはずだ。IT活用においては、各業種に固有の事情・特徴を踏まえた取り組みが欠かせないが、その点に注力し過ぎると特定の業種に限定されたビジネスモデルしか構築できなくなってしまう。「各業種の事情や特徴を踏まえつつ、他業種とのコラボレーションも視野に入れたIT活用を考える」という姿勢が今後は重要になってくるだろう。
これまで4回にわたり、「業種別のIT活用」という観点で調査データを踏まえながら最新事情を紹介してきた。他にもまだまだ多くの業種や業態があり、本連載で触れることができたのはほんの一部にすぎないが、今回で連載はいったん区切りとさせていただきたい。本連載がITを利用する側、活用する側の双方に一助となれば幸いである。
岩上由高
ノークリサーチ シニアアナリスト
ソフトウェアベンダー数社でソフトウェア製品の企画、設計、開発、コンサルティング、トレーニングなどに携わった後、ノークリサーチに入社。シニアアナリストとしてITのさまざまな領域の調査・分析に従事し、その成果を記事執筆やコンサルティング活動を通じて積極的に発信している。
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