米自動車メーカーのBYOD事例【前編】
Ford担当者に聞く、携帯端末持ち込み制度に求められる条件とは
7万人以上の従業員を対象に、私物端末の持ち込みを許可(BYOD)した米自動車メーカーのFord Motor。担当者にBYOD導入の経緯や生じたリスク、参加合意書の重要性を聞いた。
自動車メーカーの米Ford Motorは2007年、7万人以上の従業員を対象に、個人の端末を持ち込むBYOD(Bring Your Own Device)プログラムの模索を開始した。加えて2009年までには、会社責任および個人責任端末プログラムを20カ国の従業員向けに導入した。本稿では、FordモバイルコンピューティングITエンタープライズ技術調査部門の上級ネットワークエンジニア、ランディ・ヌニェス氏に聞いた、同社がBYODプログラムを導入した経緯や、導入に伴うリスク、参加合意書の重要性について、インタビュー形式で紹介する。
本稿に続くインタビューの後編「Ford担当者に聞く、私物スマートフォン持ち込み許可時のセキュリティ対策」では、BYODのセキュリティプラクティスをテーマに、モバイルを含むITのコンシューマー化によって、ITサポートと業務へのサービス提供の在り方がどう変わったか、そして会社の携帯電話コストを抑えるためにユーザーに何ができるかを語ってもらった。
── FordでBYODプログラムの導入を決めた理由は?
ヌニェス 真の要因となったのは、特にITのコンシューマー化という概念に関する会社環境の実態でした。会社の立場からITを導入して社員がそれを使う代わりに、社員がこの種の技術を私生活から持ち込むことが可能になってきたのです。こうした技術は社員が直接利用でき、手ごろでもあります。会社環境に比べてずっと早く使いこなせるようになります。そうした事情から、大勢の社員が私物のスマートフォンを持つようになり、こうした端末を私生活だけでなく仕事にも使えるようにしてほしいと思うようになりました。
── BYODには複数の種類がありますか?
ヌニェス 当初は会社責任プログラムのみでした。同プログラムでは何台かの機種を指定してFordが端末を提供し、サービス料金を払ってヘルプデスクのサポートを提供します。これが非常に生産的であることが分かったため、この環境の中でスマートフォンの台数を増やすことの代替策を検討しました。
代替策の1つは、会社責任プログラムの拡大です。これについて検討した段階で、端末、プラン、そして特にサポートの観点から見たコストは極めて高額でした。そこで個人に端末の責任を持ってもらうILD(Individual-Liable Device)プログラムに目を向けるようになり、会社がどの程度のサポートを提供できるか、どんな端末をサポートできるか、そして誰がどの料金を負担するかという予算モデルについて選択肢を検討しました。
そして確立したのが、ePOD(email on Personally Owned Devices)というプログラムです。この制度では個人が端末を購入してプラン料金を負担し、サポートは自立型のコミュニティー方式を採用します。技術通のユーザーも多数いることから、情報を交換できるフォーラムを設置すれば、コストがかさむヘルプデスク方式のサポートではなく、コミュニティー性の強いサポートモデルを提供できると考えました。
── 各従業員にどちらの制度の方が適しているかはどう決めるのですか。
ヌニェス ILDはどちらかというと必要度の低いユーザー向きです。職務をこなすためにスマートフォンが不可欠な場合、会社責任プログラムへの参加が望ましい。これが非常に重要なのは、障害が発生した場合に(個人責任のILDプログラムの)コミュニティーサポート方式では、復旧は(個人の)努力次第になってしまうためです。
われわれのフォーラムの1つでは、各プログラムの特徴を解説し、会社責任プログラムが適しているユーザーと個人責任プログラムが適しているユーザーの違いを列挙しています。
── 会社のBYODプログラムと個人責任/ePODプログラムでは、どんな端末をサポートしているのですか。
ヌニェス 会社のプログラムではカナダのResearch In Motion(RIM)のBlackBerry数機種をサポートしています。ePODではBlackBerryとiPhone、iPod touch、iPadなどのiOS搭載端末を相当数サポートしています。
── 社内の各部門の潜在リスクやセキュリティ問題に対応するためには、どのような担当者がBYODプログラムの立案にかかわる必要があるのでしょうか。
ヌニェス われわれが設置した機能横断的な作業部会は、IT担当者だけでなく、監査、法務、人事など、その影響を受ける部門の担当者で構成されています。これにより、自分たちの声が届き、自分たちの懸念がくみ取られ、自分たちの考えが尊重されていると感じてもらえます。これら全グループの担当者は、個人の生産性にも関心を持っています。また、例えばセキュリティ対策や合法性を確認するといった特定の部分において、特に強い関心を持っているかもしれません。
── BYODプログラムで企業が背負うリスクは増大しますか。
ヌニェス いくらかでも紛失したり置き忘れたりする恐れのある端末にコンテンツを保存すれば、情報流出などにまつわるリスクはある程度増大するものです。実際にはこれが一助となって、セキュリティのために大切なことは何か、そうした最低限のセキュリティ条件を守るためにどんなツールや技術が利用できるかに目を向けるようになります。
── BYODプログラムの導入に関心を持つ企業にアドバイスをお願いします。
ヌニェス 参加合意書を作成すべきです。参加合意書は何がFordの責任で、何が自分の責任かをユーザーが正確に知るために作成します。ユーザーにはどんな形でサポートが提供され、誰がどのコストを負担し、どのような条件が付くかを理解してもらいます。このようなプログラムでは、全員が自分の役割と責任について理解しておくことが極めて重要なのです。
もう1つのアドバイスとして、スマートフォンを取り巻く現在の環境について理解しておくことが挙げられます。これは、1つの支配的なOSが存在するPC環境とはまったく異なります。現在使われているスマートフォンOSは複数あります。この選択は極めて個人的なものであり、ユーザーは自分の好きなようにこれを使いたいと思っています。従って特定のスマートフォンOS、あるいは特定機種を指定することさえも極めて難しい。例えば仮想キーボードかハードウェアキーボードかといった選択について、それぞれの好みがあります。
そこでスマートフォンOS環境に目を向けて自社のセキュリティ条件を理解し、その条件をかなえてくれるスマートフォンOSの機能、あるいはモバイル端末管理など自社の条件を満たしてくれる追加的セキュリティツールに目を向ける必要があるでしょう。
モバイルを含むITのコンシューマー化と、それによるITサポートと業務へのサービス提供の在り方がどう変わるかなどについては本編の後編「Ford担当者に聞く、私物スマートフォン持ち込み許可時のセキュリティ対策」で触れる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
米自動車メーカーのBYOD事例
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
4
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
5
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
9
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
-
10
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー