Thunderboltストレージ、SMB市場での普及は期待薄:FireWireの二の舞になる可能性も
Intelの高速ストレージ技術として注目を集める「Thunderbolt」。同技術を搭載する製品リリースが控えているが、業界関係者の評価は分かれているようだ。
米Intelの高速ストレージ技術「Thunderbolt」がリリースされてすぐに、同技術を採用した初のストレージシステムが登場した(関連記事:SSDがネットワークとCPU使用率に与える影響)。今後も同技術を搭載した製品が出てくるのは間違いなさそうだが、業界関係者らは、Thunderboltは中堅・中小企業(SMB)向けのストレージ製品では重要な技術にはならないとみているようだ。
「ストレージ分野における今日のUSBの利用状況と同様、一部のニッチ分野や特殊な用途を除けば、ThunderboltはSMBの中間から上の部分および大企業のストレージ市場で大きな影響力を持つとは思えない」──米StorageIO Groupの上席アナリスト、グレッグ・シュルツ氏は電子メールの取材でそう指摘する。
Intelが米Appleと共同で開発したThunderboltは、PCI ExpressとDisplayPort I/Oをデュアルチャネルケーブルに統合したもので、各ポートにおいて双方向で10Gbpsの伝送速度を実現する。Intelによると、Thunderboltストレージ技術では1つのポートに最大7台の機器をデイジーチェーン接続できるとしているが、AppleのWebサイトでは最大6台までとなっている。Thunderboltの公称転送速度は、USB 3.0の5Gbps、FireWireの800Mbps、ファイバーチャネル(FC)の8Gbps(間もなく16Gbpsになる見込み)、eSATAの6Gbpsを上回る。
Thunderboltでは今のところ、機器の接続に3メートルの長さの銅ケーブルを使用するが、公表された資料によると、Intelは将来、伝送距離が長くて伝送速度もはるかに高い光ケーブルに移行する予定だとしている。Light Peak(Thunderboltのベースとなっている技術)に関する2010年のホワイトペーパーの中でIntelは「光ケーブルを使用することにより、データ転送能力が約100Gbpsに拡大する可能性がある」と述べている。
Appleのストレージパートナーである米Promise Technologyは早くも7月に、Thunderboltを採用したRAIDストレージシステムをリリースした。Promiseの「Pegasus」システムでは4ベイ構成と6ベイ構成が用意され、容量は4Tバイト(999ドル)から12Tバイト(1999ドル)まで。仏LaCieでは、外付けHDD「Little Big Disk」のThunderbolt対応版を計画している。同製品にはオプションで240Gバイトと500Gバイトのソリッドステートドライブ(SSD)が用意されている(関連記事:なぜ企業向けストレージシステムでフラッシュドライブが注目されるのか)。
LaCieのマーケティングディレクター、ミン・レー氏によると、Little Big Diskは、巨大なファイルを扱い、高速で簡単なバックアップソリューションを必要とするユーザー(プロのビデオ製作者など)に狙いを定めた製品だという。
「ストレージ分野の新技術ではよくあることだが、Thunderboltも最初にビデオ製作者やクリエイティブ分野のプロの間で成功するだろう」とレー氏は話す。「保存容量と速度の両面で最も高いニーズを抱えているのが、こういった分野のユーザーだからだ。この技術はその一方で、FC技術とも競合すると確信している。FCは優れた技術だが、その環境をセットアップするのには時間がかかる。Thunderboltの場合は、差し込むだけで使えるのだ」
米Western Digitalは、Thunderbolt市場に参入することを公式に表明しているが、詳細は明らかにしていない。Western Digitalの広報担当者スティーブ・シャタック氏は「現時点では、この計画に関してこれ以上詳しいことはいえない」と電子メールで答えた。
Thunderboltの詳細はまだ謎
Thunderboltの開発企業も、同技術の詳細を積極的に明らかにしようとしない。Appleの担当者に問い合わせたところ、Intelに聞いてもらいたいとのことだった。Intelの担当者は、同社のWebサイト上で公開されている資料へのリンクを教えてくれたにすぎない。
米IDCの調査アナリスト、リズ・コナー氏によると、IntelはThunderbolt技術をApple以外のベンダーにも提供すると思われるが、だからといって、広範に普及しているUSB標準の新バージョンにThunderboltが対抗できるというわけではないという。同氏はまた、Thunderboltはデスクトップ向けの製品であり、エンタープライズの舞台に進出する可能性は低いと考えている。
「ThunderboltがIntelの製品であることを考えれば、同社がこれをApple専用にするとは考えにくい。それではFireWireの二の舞になってしまうからだ」とコナー氏は語る。「いずれPCでも採用されるのは間違いないと思う。当面、これはデスクトップ向けのソリューションであり、データセンター向けのソリューションとはならないだろう。将来は状況が変わるかもしれないが、エンタープライズ市場のソリューションの大多数はネットワークベースだ。NAS(Network Attached Storage)、SAN(Storage Area Network)、iSCSIなど、これらは全てネットワークソリューションであり、ネットワーク分野は成長を続けている。これに対し、Thunderboltではストレージを直接接続する必要がある。彼らが本気で取り組み、私が想像もしなかったようなものにThunderboltを組み込むのであれば話は別だが」
StorageIOのシュルツ氏によると、ThunderboltはIT業界が必要としていないソリューションかもしれないという。「PCIeや10ギガビットイーサネット(GbE)、あるいはNAS、iSCSI、FCoE(Fibre Channel over Ethernet)をサポートする統合アダプターなど、既存のネットワーク技術の改良が進んでいる中で、Thunderboltはエンタープライズ市場への進出を狙っているようだ。しかし、Thunderboltが解決するような問題は残されていない」と同氏は話す。
「新しい技術は高速だというだけではだめだ。速度と機能を兼ね備えたクールな先行技術で既に市場はあふれかえっているからだ」と同氏は付け加える。
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