望遠鏡や顕微鏡のようなパラダイムシフト
【技術動向】韓国LGのCTOが語るビッグデータ分析ツールの4つの特徴
ビッグデータという言葉の流行に伴って、分析ツールも目覚ましい進化を遂げている。ビッグデータ時代に求められる分析ツールはかつてのBIやDWHと何が違うのか。韓国LG CNSのCTO、キム・テグ氏が語る。
韓国LG CNS シニア・バイスプレジデント兼CTO(最高技術責任者)のキム・テグ氏は2012年5月24日、SAS Institute Japanが開催した「SAS Forum Japan 2012」の特別講演に登壇。ビッグデータ時代に求められる分析ツールの特徴とその活用事例を語った。
現在、なぜこれほどまでにビッグデータが注目を集めるのか。キム氏はその理由を「ビッグデータは昔からあった。過去と違うのは、それを処理・保存し、分析できる技術が出てきたからだ」と指摘する。
「例えば10年前も顧客はコールセンターに電話をした。コールセンターの通話記録は、どの会社でも録音テープに保管され、必要なときにそれを探して再確認することができた。しかし、最近は映像や音声、テキストをその場で分析処理できる多くの技術が登場している。それがビジネスインテリジェンス(BI)やデータウェアハウス(DWH)とは全く違う『アドバンストアナリティクス』(高度な分析)という領域だ」(キム氏)
ビッグデータ分析を可能にする新ツール「アドバンストアナリティクス」
キム氏の語るアドバンストアナリティクスとは、ビッグデータを活用するための新しいツールのことだ。「かつて望遠鏡や顕微鏡の登場により、これまで見ることのできなかった宇宙や細胞を見ることで、惑星衝突や疾病を予測できるようになった。これと同様に、アドバンストアナリティクスという新しいツールでビッグデータを見ることで、企業経営のインサイトを導き出すことができる」(キム氏)
キム氏はアドバンストアナリティクスの定義を、「大量で多様なデータの中から意味を見つけ、迅速に現状あるいは現象を理解し、予測とインサイトを提供できる新しい分析パラダイム」と説明する。またビッグデータは、それを処理・保存し、分析できる技術がなければ無用の長物だと指摘する。かつてのBIやDWHとアドバンストアナリティクスとの違いは、以下の4つのポイントだ。
1.データの処理量
アドバンストアナリティクスはこれまでのBI、DWHよりも大量のデータを分析対象にする。IDCの調査によると、2011年に人類が生成したデータ量は1.8ゼッタバイトに達するという。データ量増加の大きな要因として、キム氏は「デジタルデバイスとセンサーの普及」を挙げる。
例えば日本国内のスマートフォンの加入者数は、2010年の697万人に対して2012年2月時点では1930万人に急増している。また、GPSの価格は2000年度17万円だったのに対し、2010年度は300円。実に500分の1にまで下落している。そうしたセンサー類の価格下落により、現在ガスタービンには約700個、ロボット掃除機には18個のセンサーが搭載されるなど、製品に組み込まれるセンサーは増加し続けているという。
「スマートテレビやスマートフォンのようなデジタルデバイスの普及拡大に加え、機械や装置などにさまざまなセンサーが搭載されたことで装置のデジタル化が進んだ。それらが大量のデータを発生させている」
2.データのタイプ
データのタイプとは、非定型データ分析の必要性を指す。IDCの調査によると、2009から2014年にかけての定型データの増加率が24%なのに対し、非定型データの増加率は55%だという(CAGR:年平均成長率)。また、ソーシャルメディアのデータも昨今爆発的に増加している。Facebookでは毎月300億のコンテンツが共有され、Twitterでは毎日1.9億のツイートが発生しているという。こうしたソーシャルメディアで生み出されるデータは、動画、音声、テキストなどの非定型データが主だ。
「製品やサービスについての長短さまざまな書き込みがあるソーシャルメディアのデータは企業にとって有用だが無用なものも多い。無用なものをスクリーニングして必要なものだけをクローリングし、その後自然言語処理をしてテキストマイニングを行うことで、企業経営のための多くのインサイトを提供してくれる」(キム氏)
3.分析のスピード
BIやDWHなどの技術は、一定期間保存したデータをモデリングし、そこから分析結果を手にする。しかしキム氏は「現在の企業にはそのような分析をしていられる時間がない」と指摘する。「現在の企業環境はもっともっと急ピッチだ。短期間のうちに企業経営に大打撃を与える事象が起きるかもしれない。従って求められるのはリアルタイム分析だ。ストリームデータの分析によってリアルタイムでアクションを取れる環境が可能になった」(キム氏)
こうしたリアルタイム分析の例としては、複合イベント処理(Complex Event Processing:CEP)のような新しい分析エンジンが挙げられる。リアルタイムに起きているさまざまなイベントをモニタリングし、その結果が自社で決めた何らかのルールとマッチングするかどうかを演算し、アクションを起こす。CEPはオートメーション化が進んだ設備でのリアルタイム機械異常検知や、金融現場でリアルタイムトレードなどにも活用されている。
4.分析の範囲
キム氏はこれまでの分析は、過去の分析にとどまっていたと指摘する。将来はどうするのかを決めるのは人間の役目だった。しかしアドバンストアナリティクスは過去のデータと現在のデータを一緒に用いることで、分析の範囲を「予測」にまで広げたという。
例えば、かつて交通状況を分析するには、「道路Aの分岐点Bでは、自動車は左に○%、右に○%進む」というデータがあり、直近の交通量を予測してきた。これが仮に全ての車にGPSが搭載されたとすると、道路ごとの交通渋滞をセンサーで読み取ることができる。ビッグデータ時代のカーナビは行き先を教えてくれるだけでなく、今あるいは将来の交通量を予測して、「どの道を通ると短時間で行けるか」といった予測情報まで提供できる。
「分析の範囲が過去データの分析にとどまらない。過去データと現在のデータを合わせて将来を予測する。この予測範囲の違いが、BIやDWHとの大きな差だ」(キム氏)
アドバンストアナリティクスの成功のための3つの要素
キム氏はアドバンストアナリティクスを成功させるためのは、3つの要素が必要だと説明する。
- ビッグデータテクノロジー
- 専門家
- ビジネスインサイト
企業はデータを保存・処理し、そこから「意味のある結果」を導き出さなければならない。そのためにはビッグデータをハンドリングできるプラットフォームを持つ必要がある。また、システムが全てを行ってくれるわけではないため、それを扱う現場のメンバーには統計・分析の専門性が求められる。データを基に、どのようにモデリングして意味を引き出すのか、その専門家が必要だ。LGではSASの協力の下、2010年に「アドバンストアナリティクスセンター」を立ち上げ、新しい分析ツールの研究と人材育成を行っているという。
そして、専門家たちが導き出した結果によって一定の予測は可能だが、さらにはそれを自社の環境や状況にどう適用するかというインサイトがなければ、ビジネスシナリオを導き出すことはできないとキム氏は言う。
「経営者には経営環境が不透明な中でも戦略的な判断をするための分析力と予測力を。現場社員にはコスト削減と顧客インサイトによる新ビジネスの創出を。この2つを通じて企業のビジネス運営手法と意思決定にパラダイムシフトを起こすことができる。かつての望遠鏡や顕微鏡のようなツールがアドバンストアナリティクスだ」(キム氏)
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