VMwareとの競合だけではない「複雑な問題」に直面
VMwareがOpenFlowベンダー買収、Ciscoはどうなる?
OpenFlowの雄、米Nicira Networksの買収を電撃発表した米VMware。この発表は、「変化に尻込みする」米Cisco Systemsの姿勢に変化をもたらすかもしれない。
米VMwareが、米ネットワーク仮想化企業のNicira Networksを120億ドルで買収すると発表した翌朝、筆者のメールの受信トレイは、動揺したSoftware Defined Network(SDN)関係者からのコメントであふれかえっていた。それらのコメントの要旨は、「米Cisco Systemsは窮地に立たされた」「SDNは定着する」の2点だ。
確かなことは、VMwareのNicira買収によって、技術の1つとしてのSDNの将来性が裏付けられたということである。SDNは、最近まで実際の製品というよりもベンダーのビジョンであったことを考えると、この点は重要だ。「天文学的な値段だ」と、米調査会社451 Researchのエリック・ハンセルマン氏が比喩的に表現するように、Niciraの買収価格には思わずめまいを覚える。
Ciscoが窮地に立たされたかどうかは、それほど明確ではない。恐らく、直ちに危機的な状況に陥るということはないだろうが、2012年のCisco Liveで発表した「Cisco Open Networking Environment(Cisco ONE)」よりもはるかに合理化したSDNビジョンを展開する必要に間もなく迫られるだろう。また、Ciscoは、SDNやネットワーク仮想化の主力プレーヤーと提携し、オープン標準に対してより開かれた姿勢で臨む必要があるかもしれない。
VMwareのNicira買収がCiscoにとって問題になる理由
VMwareのNicira買収は、仮想ネットワークの分野でVMwareとCiscoの直接的な競合関係を生むとの見方がある。
CiscoとVMwareはこれまで、この分野では協力関係にあった。Ciscoは、VMwareと固いパートナーシップを結び、VMware環境向け仮想スイッチの「Cisco Nexus 1000V」を開発した(Cisco Nexus 1000Vについては「【技術解説】仮想マシンの脅威を払拭するVMwareのセキュリティ技術」も参照)。
また、CiscoとVMwareは、ストレージベンダーの米EMCとともにVCE連合(VMware、Cisco、EMC)を設立(参考:「プライベートクラウド構築を迅速に」 EMC、シスコ、ヴイエムの3社が仮想化基盤パッケージを発売)。仮想マシンの迅速なプロビジョニングと移行を妨げているネットワーク関連の課題解決に貢献してきた。
Niciraは、基盤となるハードウェアの種類を問わずに実行できるネットワーク仮想化やSDN技術を開発することで、こうした問題の多くを解決してきた(参考:OpenFlowを対応機器なしで導入できる「オーバーレイ」)。
Niciraの技術がVMwareの製品スタックに組み込まれれば、VMwareは、仮想サーバも仮想ネットワークリソースもオンデマンドで簡単にプロビジョニングする機能を提供できる。こうした新しい機能は、VMwareとCiscoの協力関係を脅かす、または壊す可能性がある。
今のところ、VMwareもCiscoもそのようなことはないと表明している。VMwareの広報担当者は2012年7月後半のメールで、「特に“Software Defined Datacenter”とSDNに向けての今回の動きは、他のサプライヤーが参画するニーズや機会を排除するものではない。VMwareは、今後もオープンな取り組みを続け、当社のネットワーク技術とAPIの利用手段を近い関係にあるパートナーに提供する。パートナーが既存システムとの互換性を確保しながら、ハードウェアとソフトウェアの進化を通じて新しい価値を提供できるようにする」と記している。
一方でCiscoは、「VMware、EMC、Ciscoが戦略的パートナーであることに変わりはなく、これからも共にデータセンターの未来を築いていく。われわれのパートナーシップの要の1つは、オープン標準に基づくアプローチによって、物理ネットワークと仮想ネットワーク、データセンターのインフラのプログラマビリティや柔軟性を高めるという共通の目的だ。VMwareがNiciraの買収によって製品ポートフォリオを拡大し、CiscoとVMwareのパートナーシップが次の段階に入った後も、VMwareとCiscoは目標に向けて緊密に協力していく」ことを表明している。
ただし、VMwareによるNicira買収はSDN定着の兆候であり、CiscoはVMwareとの競合だけではない複雑な問題を抱える可能性がある。SDNの浸透は、ソフトウェアとハードウェア間の競合、そしてコモディティとプロプライエタリなハードウェア間での競合を生むとも予想されているのだ。
大規模なネットワーク仮想化を実現する概念がSDNだ。ネットワーク仮想化によって、必要な物理ネットワークのコンポーネントは格段に少なくなる。高価なハードウェアを大量に販売することで成り立っているCiscoのビジネスは、SDNの流れに“逆行”すると、ソフトウェアベースのファイアウォールやVPNベンダーである米VyattaのCEO、ケリー・ハレル氏は指摘する。
SDNがネットワークのデータプレーンを1つのコントローラーに集約して抽象化するのであれば、スイッチはただのベアメタルマシンでもよいという考えが浮かぶが、それは短絡的だ。
米Big Switch Networks(以下、Big Switch)のグイド・アペンツェラーCEOは、「SDN対ハードウェアという図式は全く理にかなっていない」とし、顧客の環境の実情と「一致しない」と話す。「当社はハードウェアパートナーと連係して顧客にソリューションを提供している。(従来の)ネットワークベンダーは必ずどこかしらに関わっている」(アペンツェラー氏)
SDN環境において、ハードウェアが排除されることはない。むしろハードウェアは進化を続けなければならず、Ciscoはその仕事に適任かもしれない。451 Researchのハンセルマン氏はこう話す。「Ciscoや米Arista Networks、米Juniper Networksは、いずれも広帯域プラットフォームを提供しており、明確な差別化ができる立場にいる」
SDNには基盤ハードウェアだけでなく、複数のコントローラーを統括する管理コンソールが必要になるだろうとハンセルマン氏は指摘する。ハンセルマン氏は、「OpenFlowの世界でも複数のコントローラーが存在する。複数のコントローラーを管理する何らかの仕組みが必要になる」と説明。管理システムである「Cisco Prime」は、こうした管理に利用できる可能性があるという(Cisco Primeについては「iPhoneでは使えない? ギガビット無線LAN販売を急ぐCiscoの死角」も参照)。
Ciscoにはより堅実なSDN計画が早急に必要
詳細なSDNプランがなく、従来のプロプライエタリなアプローチからの脱却に消極的であることが、Ciscoにとって問題になるかもしれない。2012年春にCiscoがCisco ONEを発表した際、CiscoがOpenFlowを受け入れようとしない姿勢を多くの識者が批判した。また、集約型の戦略に移行するのではなく、データプレーンの制御機能を個別のコンポーネント内に維持しようとするCiscoの思惑も批判の対象になった。識者の目には、CiscoはOpenFlow開発コミュニティーで活躍しているものの、従来のネットワークアーキテクチャとプロプライエタリ技術を標準とする方針を変えるつもりはないように映ったのだ。
変化に尻込みするこうしたCiscoの姿勢は、特にBig Switchなどの企業がオープンAPI(または、全面的にオープンソースを採用するアプローチ)によって顧客に受け入れられ、独自のネットワークを構築し始めた場合に問題となり得る。
CiscoはSDNパートナーシップに活路を探る? Big Switchの買収も
Ciscoが活路を開くには、OpenFlowを採用し、かつ多数のネットワークで既に運用されているネットワーク仮想化ベンダー、具体的にはBig Switchと提携することが一番だろう。Niciraのニュースが流れるや否や、市場のコメンテーターはBig Switchを次の買収ターゲットの1つとして名指しした。そして、この買収を行う可能性がある企業にはCiscoも含まれる(Big SwithのOpenFlowへの取り組みについては「OpenFlowを対応機器なしで導入できる『オーバーレイ』」も参照)。
Big Switchはビジネス構築と同社のルーツであるオープンソースに忠実であることを主眼とし、買収には心を砕いていないと、同社CEOであるアペンツェラー氏は説明する。だがBig Switchは、Ciscoや他のネットワークベンダーと提携することにはやぶさかでない。
アペンツェラー氏は、「NiciraとVMwareは、Big Switchが追求しているオープンなSDNへのアプローチではなく、プロプライエタリなソリューションを考えている。当社は、さまざまなパートナーの技術を基盤に事業を展開している。仮想化の領域ではVMwareやXen、KVMを採用してきた。また、米Hewlett-Packardや米IBM、米Dellのハードウェアも扱っている」と話す。
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