iPadに指紋センサー? Appleも参加するハードウェアセキュリティの新潮流:生体認証、NFCに注目
モバイル端末が職場に進出する中、生体認証や半導体システム、NFCといったハードウェアベースのセキュリティ対策技術が注目されている。
タブレットには現実のセキュリティ不安が付きまとってきた。端末のサプライヤーは、自社の製品ラインに実装するハードウェアベースのセキュリティ対策を強化している。米Appleが取った最近の動きは、そうした重点のシフトを物語るものかもしれない。
Appleは2012年7月に、指紋センサー技術の開発を手掛ける米AuthenTecを約3億5600万ドルで買収した。AuthenTecは1998年に半導体開発のHarris Semiconductorからスピンオフして2007年に上場した企業で、韓国のSamsungのような企業にモバイルセキュリティソフトウェアを、米Hewlett-Packard(HP)や米Dellなどのコンピュータメーカーに指紋センサー技術を提供している。
AppleとAuthenTecは2011年後半から、Appleのタブレットとスマートフォン向けの2次元指紋センサーを共同開発してきた。この技術が提供されれば、ユーザーはスマートセンサーに指を一度滑らせるだけで、全てのシステム機能のロックを解除できる。つまり、複雑で何度も変更されるパスワードを記憶しなくても、自分の認証情報を常に持ち歩けるというわけだ。結果として、iPadに指紋スキャン機能を搭載すれば、決済や搭乗券発券といった機能のセキュリティが強化され、そうしたトランザクションの処理を迅速化できる可能性がある。指紋認証は生体認証によるセキュリティソリューションのカテゴリに分類される。セキュリティソリューションとは、ユーザーが重要な情報にアクセスする前にコンピュータが個人情報をチェックするさまざまな手段を総称する用語だ。
可能性のある技術としては、指紋認証、音声認識、顔認識、網膜スキャンなどがある。これまでのところ、こうしたソリューションはPC市場のニッチ分野で採用されるにとどまり、タブレット分野ではさらに遅れている。
指紋認証では複数のソリューションが台頭している。米BIO-key International、カナダのS.I.C. Biometrics、Tactivoを扱うスウェーデンのPrecise Biometricsは指紋スキャナを開発した。米国のBahnTech、Empire Apps、iTankster.com、スイスのKaufcom、フランスのThe Grizzly Labsは指紋認証アプリケーションを提供してきた。日本では、POS端末のNFC(Near Field Communications、近距離無線通信規格)決済を保護するために、一般消費者が指紋生体セキュリティ技術を利用している。
音声認識検索はタブレットで既に人気が出ており、音声認証への機運は高まっている。実際、米Nuance Communicationsは、ユーザーが自分の声を使ってモバイル端末のロックを解除できる音声バイオメトリクス技術「Dragon ID」を発表した。
こうした新製品が浮上する中、英調査会社Goode Intelligenceの予想では、世界のモバイル生体認証技術のユーザーは、2011年の400万人から2015年までには3900万人に増え、世界の売上高は同じ期間に1億3100万ドルから1億6100万ドルに増える見通しだ。
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コストや標準規格の不在が普及への障壁
ただし市場にとっての障壁もある。生体認証技術は10年以上前から存在していたにもかかわらず、さまざまな理由から普及には至っていなかった。セキュリティチェックによって、タブレットには処理の負荷とコストが加わる。こうした端末は、その処理がそれほどの負担にならないところまで性能は進化したが、サプライヤーは価格で競争することもあり、多くは自社のシステムに余分なコストが掛かることを望まない。
また、生体認証分野には標準規格がない。結果として、ベンダーにとってもユーザーにとっても、生体認証ハードウェアとソフトウェアの要素を組み合わせることが難しくなっている。
同技術の精度は向上したが、100%には達していない。推定で90%台半ばから後半だ。つまり、セキュリティチェックによって、企業幹部が重大な局面で必要な情報にアクセスできなくなる可能性もある。生体認証の他、2種類のハードウェアベースのセキュリティソリューション(半導体システムとNFC)も注目されつつある。米調査会社ABI Researchの予想では、世界のモバイルセキュリティハードウェアの売上高は2012年の4億3000万ドルから、2017年には19億ドルに達する見通しだ。デバイス、アプリケーション&コンテンツ担当上級アナリストのジョシュア・フラッド氏は「組み込みセキュリティの主なけん引役となるのは、モバイル決済取引とデジタル著作権管理、企業資産の保護、デバイスへのアクセスコントロールの需要増大だ」とみる。
近いうちに、収益の多くは組み込み型セキュリティチップから上がるようになるとABI Researchは予想する。その一例として、内部メモリやスクリーンなどさまざまなハードウェアコンポーネントにセキュリティ機能を持たせた英ARMの技術「TrustZone」が挙げられる。
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