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【市場動向】地域医療の再生の鍵を握る医療ITの理想像とは?持続可能型医療ケアシステムの構築へ

経済・社会的な状況や医療政策などに影響を受ける医療のIT化。有識者の見解を基に、さまざまな問題を抱える地域医療の再生を支援するITシステムの理想像を考察する。

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地域医療福祉情報連携協議会 理事長 田中氏

 日本政府が2012年7月に発表した「日本再生戦略」では、重点3分野の1つに「ライフ(健康)」が掲げられ、「医療、介護、生活支援サービスなどの包括提供」「地域医療の再生」などの推進策が盛り込まれた。医療分野のIT化は、経済・社会的な状況や政府・関連省庁の政策、医療保険制度などに影響を受ける。本稿では、地域医療連携を推進する非営利団体「地域医療福祉情報連携協議会」の理事長を務める田中 博氏(東京医科歯科大学大学院 難治疾患研究所 教授)が同団体のシンポジウム(12月1日開催)の講演した内容を踏まえ、地域医療におけるIT化の今後を考える。

地域医療の再生と超高齢社会への対応を模索

 田中氏は「現在の日本は経済の低成長と急激な高齢化、人口の純減傾向にある。それを踏まえて、医療分野の政策は“地域医療の再生”と“超高齢社会への対応”を模索している段階にある」と指摘する。

 これまで地方の問題とされてきた高齢化。現在は都市部での高齢化が加速しており、団塊の世代が後期高齢者となる「2025年」問題が差し迫っている。国立社会保険・人口問題研究所「都道府県の将来推計人口(2007年5月推計)によると、東京都や神奈川県、大阪府の人口密度上位3都府県と埼玉県、愛知県、千葉県、北海道、兵庫県、福岡県などの中核都市だけで、高齢者人口全体の増加数の約60%を占めることになる。

 また、高齢化に伴い病気の構造も変化し、特に慢性疾患が増大。その結果、医療費の負担が増えている。2010年度の国民医療費では、65歳以上の医療費が全体の54.6%を占めた。特に人工透析患者が増加しており、その半数は重篤な腎臓病ではなく糖尿病の管理の失敗が原因であるという。糖尿病の医療費は1兆1893億円となり、年々増加している(厚生労働省「国民医療費の概況」より)。

 田中氏は、現在の地域医療について「過度な医療期待による医療過誤訴訟の増大や戦後・戦中生まれの医師の大量リタイアなどが原因となり、産科や小児科、外科の医師数の減少や立ち去り型サボタージュなどの問題が発生している」と説明する。また、医療費の抑制政策と研修医制度などの影響もあり「地域医療は崩壊している」と指摘する。

 さらに「2009年の政権交代によって医療費の抑制政策は停止しており、現在は地域における医療課題の解決を図ることを目的とした『地域医療再生基金』が交付されているように、医療の再生期にある」と説明する。その上で「これまでの医療提供体制ではうまくいかないことは明らか。今後は“急性期治療”から予防医療や疾病管理を伴う“生涯継続的ケア”への変換が重要になる」と語る。

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「持続可能型医療ケア」体制の構築が重要

 今後の医療提供体制のモデルとして、田中氏は「“病院完結型医療”から“地域連結型医療”へ、さらには“地域包括ケア”に移行する必要がある」と語り、2次医療圏がベースとなる地域医療連携と、日常生活圏に位置する地域包括ケアを両輪に連携する「持続可能型医療ケア」体制の構築が重要だと説明する。田中氏は、持続可能型医療ケアの基礎概念として以下の3つを挙げている。

  1. 地域連携型ケア:“病院完結型医療”から“地域連携型医療”への転換
  2. 生涯継続型ケア:生涯継続性のある健康/疾病管理、重症化/再発予防と医療費の適正化
  3. 生活圏包括型ケア:“施設中心医療”から“日常生活圏中心ケア”へ

 (1)地域連携型ケアとは、地域の医療機関が機能分担を進め、病院や診療所、療養型施設などが連携して、1人の患者のケアを包括的に実施する体制を指す。例えば、かかりつけの診療所が毎月の定期的な診察と食事療法や内服剤療法の外来管理などを実施し、地域の中核病院では年1回程度の専門医による定期的な精査や治療方針の決定などを行う「循環型地域医療連携」がある。

 (2)生涯継続型ケアとは、生涯継続的に健康・医療記録を管理し、慢性疾患の重症化や再発予防に努めることで、「治す」から「重症化させない」ための長期的な疾病管理を実現することを指す。また、(3)生活圏包括型ケアでは、維持期医療の拠点を病院から在宅医療への移行や多職種協働による医療と介護のシームレスな連携、日常的な自己測定による健康管理などが求められる。田中氏は「その実現のためには、地域医療連携と地域包括的ケアにおける情報連携の基盤を構築する必要がある。それを担うのが医療のIT化だ」と説明する。

医療の再生のためのITシステム像

 持続可能型医療ケアを実現する医療ITとは、具体的にどのようなものか? 例えば、地域連携的ケアでは、各医療機関が保有する患者情報を共通の情報基盤で連携する「地域医療連携ネットワーク」がある。また、生涯継続型ケアでは、多くの国民が自身の過去の健康情報が散在しているため、情報の長期的な保存や連携性、ユビキタス性を実現するための統合型データベースの構築が鍵となる。さらに、生活圏包括ケアでは、無線ネットワーク経由でモバイル端末を利用した情報共有、その基盤となるクラウド環境、患者や要介護者のバイタルサインの生体モニタリングの結果を監視できる仕組みが求められる(関連記事:【製品動向】医療現場の必需品となったモバイル端末、多様化する対応製品)。

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