分析ツールでデータサイエンティストの負担軽減
ここまで来た「交通情報ビッグデータ分析」
世界1億台の車両から収集する大量のセンサーデータを基に、過去、現在、未来の交通情報を割り出すのが、米INRIXだ。同社の分析システムの裏側に迫る。
最新の交通情報が携帯電話や車両のダッシュボードのGPSに届く仕組みについて考えたことがあるだろうか。A地点からB地点の間には、何十億というデータポイント(分析対象のデータ)が存在する。米INRIXなどの企業は、こうしたデータを全て整理して意味を与えている。世界32カ国のドライバーが、少しでも早く目的地にたどり着けるように。INRIXは2005年、「交通情報に対する世界の見方と扱い方を変える」という目標を掲げて創設された。
かつて(場合によっては今も)交通情報は、米国運輸省が設置したセンサーと交通情報ヘリコプターによって収集するのが一般的だった。一方、INRIXの「Smart Driver Network」は、センサーを搭載した世界の民間/商用車両約1億台からデータを集め、「現在」「過去」「未来」の交通情報を提供する。
INRIXにとって、ビッグデータの高速な分析は得意分野だ。ほとんどの企業は、どのデータポイントを保持するか決めるのに苦労している。だがINRIXにとって、取得可能なデータは基本的に全て役に立つ。実際の問題は、こうしたデータを顧客にとって意味のある形でどれだけ早く届けられるかだと、INRIXの製品管理担当上級ディレクターであるケン・クランセラー氏は言う。
データ分析ツールで「スコア」を記録
INRIXは2007年に、顧客向けのサービスかつ潜在顧客向けの宣伝ツールとして、「Traffic Scorecard」を開発した。当初は米国の1年分の交通情報を集め、前年比でトレンドを示す機能を持っていた。Traffic Scorecardは、INRIXの顧客である交通情報記者や米国運輸省に重宝された。だがクランセラー氏によれば、INRIXにとってコストに見合う価値はほとんどなかったという。
交通情報をまとめるために、データサイエンティスト1人が3カ月間、通常の業務を離れなければならなかった。基本的には「Microsoft SQL Server」に登録された大量のデータをスプレッドシートとしてダウンロードし、処理できる形の情報に変換する。結果としてひとまとまりのMicrosoft Excelスプレッドシートが出来上がり、ユーザーはINRIXのWebサイトからダウンロードできる。ユーザーは、最も渋滞がひどい都市や前年からの渋滞量の変化を知ることができる。
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クランセラー氏のチームは、この静的な最終結果を見て、「年次の報告では21世紀のコンシューマーのニーズは満たせない」との結論に至った。「毎月更新できて、しかも数時間しかかからない、もっと役に立つリポートを作成したかった。そこで、当社が保有する膨大なデータベースに踏み込み、内容をまとめて動的にリポートが作成できるツールが必要だった」(クランセラー氏)
同社は、ニーズを満たすためにExcelやSQL Serverをもっとうまく活用できないかどうかを模索しつつ、複数のデータ分析ツールを比較検討した。最終的に導入したのは、米シアトルに本拠を持ち、米カークランドにオフィスがあるデータ分析ベンダーTableau Softwareの製品だ。INRIXの本社もカークランドにあることもあり、Tableau製品が選定対象に入った。数字をかみ砕き、視覚的に理解できる形でWebサイトに提示可能なTableau製品の機能は、IRIXにとって魅力的だった。
クランセラー氏は言う。「柔軟性があるのに加え、われわれが投入した大量のデータを分析できるツールなら、自社のプロセスを高速化でき、交通スコアカードを世界中で作成できると判断した。今では、メディアや米国運輸省が当社のサービス内容をチェックしたり、その情報が役に立つ理由を知りたいと思えば、当社のWebサイトで調べたい都市と年月を選ぶだけでデータが得られるようになった」
使いやすさも大きな利点だった。クランセラー氏のチームは、Tableauの「Tableau Public Premium」を使い、INRIXのWebサイトの一画に交通スコアカード情報のコーナーを設置し、視覚化したデータをはめ込んだ。
「今では月ごとに動的に更新できるようになった。3時間ほどでSQLクエリを処理してロードし、全ての内容を5言語で更新できる」とクランセラー氏は話す。
反応は圧倒的に好評だったという。運輸省などの公共団体は、自分たちでは資金不足で集められない情報を得て湧き立った。都市計画の担当者やジャーナリストにも好評だった。INRIXが英国道路庁との契約を獲得し、ヨーロッパに進出する助けにもなった。
英国道路庁は、INRIXを旅行情報サービスのための情報源を提供してくれる民間パートナーだと見なし、INRIXは英国のデータを使った初のヨーロッパ版交通スコアカードを公表した。これは、英国道路庁が求めていた情報の中核的要素だったと、INRIXのコミュニティー関係マネジャー、ジム・バック氏は話す。「このおかげで当社に対する信頼度が増し、道路庁の意思決定プロセスは迅速化され、当社は数百万ドル規模の7年契約を獲得できた。つまり、営業の観点からも、Tableau Public Premiumは本当に事業を前進させるのに役立った」(バック氏)
データ処理の新たな方法
クランセラー氏によると、INRIXのデータ科学者はTableau Public Premiumによって、過去には達成できなかった効率の高さでデータを分析できるようになった。その実例の1つが、データ品質の見極めだ。かつては顧客から問題の報告があった場合(道路の特定区間について報告された渋滞情報が不正確だったなど)、苦情内容を調べて問題が固有のものなのかシステム全体のものなのかを判断するのは、「データの干し草を集めた山の中から針を見つけ出すようなもの」(クランセラー氏)だった。
Tableau Public Premiumを使うことで、INRIXの科学者チームは、道路の特定区間で何が起きているかを視覚化し、時間の経過に伴う変化をチェックできる。例えば、ミュンヘンでデータ品質の問題が生じた場合、道路の特定部分で何が、いつ、なぜ起きているのかを掘り下げて根本原因を分析できる。
「こうした問題を調査する常設組織があり、今では共通の対話を持つためのプレゼン用プラットフォームもあるので、問題がどのように生じたのか、どこで問題を診断して修正し、時代とともに品質を向上させ続けるための適切な解決策を講じられるのかについて話し合うことができる」とクランセラー氏は話している。
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