クラウドの頂へ登れ―米Columbiaが仮想化を決意した理由:レガシーでは歯が立たない
サーバ仮想化をした米アパレル会社は、どのようにしてプライベートクラウド化へ移行したのか。廃止した製品、新たに導入した製品を考察する。
仮想化を始めたばかりの企業であれば、クラウドコンピューティングは優先事項に含まれていないかもしれない。しかし、プライベートクラウドへの布石として仮想化を採用するようなIT部門は、クラウドが会社のビジネスニーズを満たす有効な手段であることを知っている。
2年前までは、米アウトドアアパレル会社、Columbia Sportswearのグローバルテクノロジーディレクターを務めるマイク・リーパー氏にとって、プライベートクラウドの構築は到底ITの最優先事項ではなかった。しかし、サーバ仮想化のレベルに達した時点で、プロジェクトはクラウドへの移行に道を譲ることになった。
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2009年当時、Columbia Sportswearは、仮想化に関してはやや出遅れていて、クラウドの構築など遠い話だった。同社初のディザスタリカバリ(DR)計画の策定に注力していた時期で、仮想化率は18〜20%程度だったとリーパー氏は振り返る。
リーパー氏は、2013年5月に開催されたInteropでのセッション「Lessons Learned on the Road from Server Virtualization to Private Cloud(サーバ仮想化からプライベートクラウドへの道のりで得た教訓)」において、「仮想化の基本概念の評価を始めてみて、仮想化こそわれわれに必要な作業を進める方法であり、時間をかけて段階的に導入していく必要があることに気付いた」と話している。
Columbia Sportswearは、そこから大きな進歩を遂げている。プロジェクトの過程で下してきた技術および人の両面での戦略的な選択が功を奏し、仮想化からパブリッククラウドコンピューティングへの移行を加速させている。
ERPの入れ替えが転機に
1年もたたないうちに、Columbia SportswearのIT環境の仮想化率は20%から90%を超えるまでになった。
リーパー氏によると「テストや開発、サンドボックス関連のものから、大型のTier-1アプリケーションまであらゆるものを仮想化した」という。
それでも、Columbia Sportswearの環境はプライベートクラウドからは程遠いものだった。自動化を実現する管理ツールも実装していなければ、標準化もまだで、ユーザー向けのセルフサービスカタログや課金管理システムもなかった。
転機になったのは、独SAPのERP(Enterprise Resource Planning)を購入したことだ。Columbia Sportswearでは従来、ERPシステムをIBM Powerハードウェアで実行していた。しかし、IBM iシリーズの知識があるスタッフは3人のみで、いずれも定年退職間近であったため、ハードウェアを最新モデルにアップデートする必要があった。
そこで、VCE(Virtual Computing Environment)連合のコンバージドインフラストラクチャ、VCE Vblockを購入した。これで、新しいERPシステムを実行し、正真正銘のプライベートクラウド環境への道を付けた。
撤去されたのはIBM Powerハードウェアだけではない。Columbia Sportswearのインフラ管理ツールの多くが、プライベートクラウドへの道を歩む途中で廃止されていった。
「何とかレガシーツールを使って仮想化ワークロードを管理しようとしたが、それらのツールではとにかく歯が立たない」とリーパー氏は言う。「物理層ハードウェアのパフォーマンス指標を観察すれば分かるが、仮想化ワークロードは、そのほんのまねごと程度しかできていない」
Columbia Sportswearでは、Windowsやアプリケーションの管理に使うMicrosoft Operations Managerを除いて、全ての管理ツールが、VMware vCenter Operations Manager、VMware vCloud Director、サードパーティーのリポートツールなど、仮想化ベースのツールに置き換わった。
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クラウドへの道を阻むもの
クラウドプロジェクトではよくあることだが、成功を妨げるのはテクノロジーではなく人だ。特定の業績要件を持つ開発者は、仮想化アプリケーションを使うことに消極的だった。また、米Oracleなどの企業は、ハイパーバイザーでの仮想化アプリケーションのサポートに関して厳しい規約を設けているため、ライセンス上の制限も気掛かりだった。リーパー氏は、プライベートクラウドの実力を抵抗勢力の1人ずつに証明していかなければならなかった
「彼らを説得するために、彼らが使っているものを完璧に提供していくという気持ちで、彼らが業務に必要だとして求めたリソースを全て提供した」(リーパー氏)
リーパー氏は、段階的なアプローチをとり、1人ずつ賛同者を増やしていくことで、キーマンをクラウドの熱烈な支持者に変えていった。
サービスカタログにも反対の声が上がった。クラウド導入前に大いに活用していたレベルのカスタマイズをユーザーは望んだが、リーパー氏は方針が変わったことをはっきりと示した。
「誰もが“このプロセッサで、メモリはこれくらい、ストレージはこんな感じ”と、それまでの自分のプラットフォームと同様の構成を求めたが、それをやめてもらった。使ってもいいプロファイルは8種類だけ。それ以外は認めない、と」
Columbia Sportswearは、その後も仮想化とクラウド環境の構築を進め、そのためにハードウェアと管理機能を徹底的に整備している。
結局のところ、プロジェクトの目的は、会社のビジネス目標を達成することだ。
「デザイナーが新しい製品を考案すれば、当社はインフラを大規模に迅速に展開し、求められるスピードでビジネスを動かすことができる。ここまで来られたのは、1年半にわたり苦労してきた取り組みのおかげだ」
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